2026

09/03

エンテロウイルス感染症 ~手足口病~

  • 感染症

内藤 博敬
静岡県立農林環境専門職大学 生産環境経営学部 教授
日本医療・環境オゾン学会 事務局長
日本機能水学会 評議員

新微生物・感染症講座(27)

急激な暑さに見舞われた7月中旬、「手足口病(てあしくちびょう)」が半数以上の都道府県で警報目安を超える感染報告となっていることが報じられました。主に乳幼児を中心に広がる感染症ですが、小学生や大人の感染も稀に見られます。初夏の訪れとともに発生する、いわゆる「夏風邪」の一つですが、強い口内の痛みから水分が摂れなくなったり、稀に重症化したりすることもあるため注意が必要です。また、2024年の流行では秋から冬にかけて再流行しており、今後も感染動向に気を付ける必要があります。今回は、この手足口病をテーマに、関連する感染症について解説します。

秋の再流行に注意!

手足口病は、手のひら、足の裏、口の中に特有の水疱(水ぶくれ)ができるウイルス性の感染症で、欧米でもHand, Foot and Mouth Disease(HFMD)と呼ばれています。1957年にニュージーランドとカナダで見つかった症例で、日本では1963年に確認されて以来、数年ごとに流行を繰り返しています。近年では2017年、19年、22年、24年そして今年2026年も流行しています。5月中旬から8月末にかけて感染ピークとなることが多い感染症ですが、2024年の流行は7月初旬にピークを迎えて8月中旬に一旦落ち着いたものの、そこから再燃して10月中旬に2度目の感染ピークを迎えています。

今年も2024年と同様に6月末から7月初旬に爆発的な感染増加が見られており、秋口の再燃が懸念されます。今後の感染動向に注意しましょう。

手足口病の原因となるウイルス

手足口病は、エンテロウイルス属の複数のウイルスが病原体となり得ます。病原ウイルスには、エンテロウイルス71、コクサッキーウイルス(A4, A5, A9, A10, A16, A24, B2, B5)やエコーウイルスなどがあり、年によって流行するウイルスが異なります。国立健康危機管理研究機構(JIHS)の報告によれば、2022年はコクサッキーA6とA16、2024年は最初のピークでコクサッキーA6、次のピークでコクサッキーA16が多く分離・検出されています。2026年は7月1日時点でコクサッキーA6とエンテロウイルス71が多く検出されています(注)。

エンテロウイルス属には複数のウイルスがありますが、最も恐れられるウイルスに小児麻痺の原因となるポリオウイルスがあります。ポリオウイルスについては改めて紹介するとして、コクサッキーウイルスやエコーウイルスは、ポリオウイルスを研究する過程で発見されたウイルスです。コクサッキー、エコー、エンテロウイルスは、前述の数字やアルファベットで分類(血清型)していますが、ポリオ以外のエンテロウイルスとしてまとめられることも多いです。その理由は、臨床症状が不顕性感染や軽微なものから致死的なものまで多様で、手足口病のように異なる血清型あるいは異なるウイルスで同一の疾患を起こす場合もあれば、同じ血清型のウイルスによる感染でも異なる症状が見られる場合もあるからです。例えば、口腔粘膜に水疱性の発疹が見られるヘルパンギーナの病原体には、手足口病の病原体であるコクサッキーウイルス(A4, A5, A10)が含まれます。

エンテロウイルスの症候には、手足口病、ヘルパンギーナ以外にも、麻痺、髄膜炎、ギランバレー症候群、呼吸器疾患、発疹、心筋炎、急性出血性結膜炎、肝炎、膵炎、糖尿病があります。エンテロウイルス感染症は、一度かかったことがあっても別の血清型やウイルスによって何度も再感染することも少なくありません。

感染経路と症状、治療

エンテロウイルス属の「エンテロ」はギリシア語で腸管を意味する「enteron」を起源としており、酸性に強いので胃を通過して腸管に感染するだけでなく、ウイルスによっては咽頭に感染して感冒症状を引き起こします。手足口病の潜伏期間は2~7日で、ほとんどが3~5日で発症します。感染経路は、感染者の咳やくしゃみを吸い込む「飛沫感染」、ウイルスが付着した手で口や目に触れる「接触からの粘膜感染」、便の中に排出されたウイルスが、オムツ替えなどの際に手を介して口に入る「糞口感染」が主な感染経路です。成人の感染では子供よりも症状が重くなることが多く、手足の発疹に強い痛みを伴うこともあります。ウイルスは症状が治まった後も2~4週間にわたって便から排出され続けるので、糞口感染には特に注意が必要です。

感染が成立すると、手のひら、足の裏、足の甲、手足の指などに、3〜5ミリ程度のやや地厚で痛みの少ない水疱が出現します。膝やお尻のまわり、肘などには、米粒大の赤いブツブツ(丘疹)として出ることも多く、水痘や虫刺されと区別されます。また、頬の裏側の粘膜、舌、唇の裏、喉の奥などに、多数の痛みを伴う水疱や口内炎ができます。これが手足口病で最も厄介な症状です。唾液を飲み込むだけでも激しい痛みが走るため、よだれが多くなったり、食事や水分を一切拒否したりする原因になります。

これまでの手足口病では、感染者の約3分の1に37〜38℃程度の発熱が1〜2日認められていましたが、近年では高熱を伴う手足口病も報告されています。特にコクサッキーA6やA10の感染で、39℃以上の高熱、全身性の発疹や、水痘と見分けのつかない大きな水疱を作る症例が報告されています。しかし、いずれの場合も数日で解熱し、予後も良好なケースがほとんどです。手足口病は原因ウイルスが多岐にわたるためワクチン開発はされておらず、特効薬も無いため、治療は症状を緩和する対処療法になります。特に水でさえ痛くて飲み込めないことが多いため、脱水症状には注意が必要です。

手足口病は、夏の風物詩とも言えるほど身近な感染症ですが、口内の痛みによる脱水症や、大人への二次感染など、侮れない側面を持っています。もしお子様の手足にブツブツを見つけたり、食事を嫌がったりしたときは、口の中を観察し、まずはこまめな水分補給を心掛けてください。そして、回復後も数週間は便の中にウイルスがいることを忘れず、丁寧な手洗いを継続して、家族内での感染連鎖を防ぎましょう。

(注)手足口病由来ウイルス‌年別2022〜2026年:https://kansen-levelmap.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data37j.pdf

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