2026
08/18
認知症とてんかんの診断と初期治療を担う診療科は⁉
-
メンタルヘルス
博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て、立正大学心理学部名誉教授、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。
よしこ先生のメンタルヘルス(83)
認知症は内科疾患?
先日、偶然に東京都下の精神科診療所協会の会長を長く勤められた先生にお会いしました。その先生の外来が大きく変遷してきたことについて、話が及びました。先生はご高齢の認知症の方を中心に診察をしていらっしゃいます。今や認知症は内科疾患になってしまったとおっしゃるのです。初診で認知症の患者さんがお見えになることはほとんどなくなり、認知症の初診は多くの場合、内科の先生方が担われ、認知症の方々が幻覚妄想を呈したときに初めて、先生の外来にいらっしゃるそうです。かつては認知症といえば精神科、という流れが大きく変わり、まず地域のかかりつけの先生、大部分は内科の先生に受診されます。そして、MRIセンターで脳器質的な検査の上、VSRAD(ブイエスラド:分析ソフト)による分析により認知症の初期に見られる海馬の萎縮度を解析し、アルツハイマー型認知症かそれ以外の認知症かを鑑別します。さらにSPECT(スペクト:単一光子放出コンピュータ断層撮影)を用い、脳の血流量を測り、働きが低下している場所がどこかということを特定していきます。
かつて、機能検査であるMMSEなどを外来で問診により行い、認知症を識別していた時代から、さまざまな機器による証拠の蓄積によって、目で見える形で診断する疾患に変わりました。もちろん、臨床症状や神経心理検査なども併せて診断に至るわけですが、MRIで脳の萎縮の部位、脳血管障害の評価、SPECTにより脳のどの部分が血流低下を起こしているかを調べます。前頭葉や側頭葉血流低下を起こしていれば前頭側頭型認知症、後頭葉の血流低下があればレビー小体型認知症を疑います。さらに必要であれば、アミロイドPETや脳脊髄液バイオマーカーが用いられます。つまり、MRIで形態を評価し、SPECTで機能を評価し、さまざまな検査機器を用いて病型分類を行い薬物療法を決定するという、極めて内科的な手順になるわけです。薬物療法は内科における主たる技法ですから、内科医にとっては得意とするところです。
幻覚妄想を合併すると、初めて精神科医を受診されます。そこでは精神科医による薬物療法が有効です。外来で幻覚妄想を伴う認知症の方々を診るためには、在宅での機能評価、訪問看護やヘルパーが必要となり、精神科多職種協働が求められます。地域の保健師や地域包括支援センターなどと協働して支援をしていきます。
てんかんは、精神科ではなく神経内科の領域?
同じような経過をたどった今一つの疾患、てんかんについてはどうでしょう。てんかんは20世紀の半ば、昭和の中頃までは、精神科で診療されることが多く、精神疾患の一つとされていました。発作後のもうろう状態や、幻覚妄想状態、性格の変化などから精神疾患と考えられていたのです。その後、脳波により、てんかんは脳皮質ニューロンの異常放電による疾患(Jackson,J.H.ら)と捉えられ、精神科ではなく神経内科の領域に位置付けられるようになりました。てんかんとは、脳の神経疾患であるとされるようになったわけです。脳波により発作が電気生理学的に評価できるようになり、てんかんは脳の神経細胞の過剰発火という概念が確立し、フェニトインやカルバマゼピン、フィコンパをはじめとする次々と有効な抗てんかん薬が現在に至るまで開発されていきました。診療の中心は、精神科医から脳神経内科医、あるいは神経内科医に移ってきたわけですが、私どもの外来にてんかんの患者さんがいらっしゃらないかというと、そういうわけではありません。いつ起こるか分からないてんかん発作への不安や、てんかん発作によるアクシデント(失禁したり、転倒したり)などへの失意により精神科医が関与することもしばしばあります。コントロールできないてんかん発作のために、不安と抑うつを抱える方も多くいらっしゃいますし、心因性の非てんかん発作(PNES:psychogenic nonepileptic siezures)は発作の約50%を占めるといわれています。
認知症もてんかんも、診断や初期治療においては内科医、脳神経内科医、神経内科医が担うことになりましたが、その疾患を持つ人の気持ち、毎日の営みの苦悩が精神科医に残されたといえるかもしれません。認知症の本態、てんかんの本態が脳の神経疾患として明らかになり、その部分が内科医、脳神経内科医に移行したといえますが、認知症がもたらす苦悩、てんかん発作への不安、生活の困難は精神科医に残されました。精神科医は、疾病を持つ人の家族や、地域社会と協働し、訪問看護や地域包括支援センターと連携し、病を持つ人のADL(日常生活動作)を向上させる責務を担うべきだとお会いした前会長とお話ししました。精神科医がその点で力を発揮できるといいですね。