2022年12月
読書の楽しみと川柳
江畑 哲男 さん
(一社)全日本川柳協会副理事長、麗澤大学オープンカレッジ講師
コロナ下ということもあって、読書の時間が増えたような気がします。本を読むことで、新しい知識や視野を獲得できるのは嬉しいものですね。
『ドナルド・キーンと俳句』(毬矢まりえ著、白水社)を読みました。いま話題の近刊。ドナルド・キーンの日本文学・文化研究の原点を探った力作です。ドナルド・キーン(1922~2019)。米国出身の日本文学研究者。1940年、ニューヨークの古本屋でたまたま『源氏物語』を手にします。ここからキーンと日本文学との運命的な出会いが始まります。
開戦後は米海軍の日本語学校に入学。戦地では、日本語文書の解読や捕虜の尋問などの任務を与えられました。
亡くなった日本兵の所持品の点検もしました。所持品などはヒドイ異臭が漂っていたそうです。手帳も解読に務めます。手帳には日本軍の作戦や機密が記されてると思いきや、全く違っておりました。ナント日本兵は、生死の境にあっても、季節の移ろいを記したり、俳句や短歌・川柳まで書きとめていたのでした。その教養の高さに、キーンは「賛嘆を禁じ得」なかったと言います。
ドナルド・キーンは、独立後の1953年に憧れの日本留学を果たします。下宿先では、畳の部屋に住まい、日本式の風呂に浸かり、さらには三食とも和食という生活をしたそうです。こうした中で、「日本人とは?」「日本文化とは?」を考え続けていきました。
キーンは言います。長年の研究から「日本人の特徴」として、次の五点を挙げております。
①あいまい(余情)、②はかなさへの共感、③礼儀正しい、④清潔、⑤よく働く。
これらの特徴は、川柳にももちろん詠まれています。川柳は、人間をテーマとする口語定型詩だからです。折りしも本年(2022)は、ドナルド・キーン生誕100年の節目に当たるのですね。
さて、今回も佳作から紹介していきましょう。
運動をしているつもり夢の中(インタブ)
四回目副反応にも慣れました(藤本淑子)
太ったら全部コロナのせいにする(老人生)
万病によく効く笑顔とノンストレス(キノウ)
健康はストレスレスに宿ります(あざみのかかし)
笑うことを加えて六大栄養素 (珠)
ボケ防止薬は恋と好奇心 (やんちゃん)
お待ちかね! ベスト3作品の発表です。
◎「健康になりたい病」にかかってる(豆猫)
ナルホド、面白い! 健康はもちろん大事ですが、行きすぎた健康ブームはかえって変 川柳子ならではの逆転の発想です。
◎自給率上げるチャンスだ米食べる (軍司洋文)
小麦の価格が高騰しています。ロシアによるウクライナ侵攻の影響でしょう。この作者も視点を変えて、「自給率上げるチャンスだ」とユニークに捉えました。
◎走っても体重減らずに腹が減る(ににんがし)
あはははは。やっぱり、川柳は楽しい。どんなときにでも、ユーモアというのは忘れたくないものですね。
今回の川柳
ベスト作品
-
◎トップ賞
「健康になりたい病」
にかかってる
豆猫
-
自給率
上げるチャンスだ
米食べる
軍司洋文
-
走っても
体重減らずに
腹が減る
ににんがし