Vol.126 2015年3月号
川柳のユーモア
江畑 哲男 さん
(一社)全日本川柳協会常任幹事、早稲田大学オープンカレッジ講師
笑いは潤滑油。その2回目。
先般、とあるところで「日本語とユーモア」なる講演をさせていただいた。
詳細割愛するも、日本語に関わって申し上げれば、同音異義語が多い、という一つの特徴がある。同音異義語=掛詞、『古今和歌集』以来の伝統的な技法の一つである。有り体に申せば、「掛詞=シャレ」ということになろう。
侮れないシャレの効果・効用
シャレもまた潤滑油だ。
上手なシャレは相手を唸らせるし、下手なシャレであっても、場を和ませるぐらいの効果はある。
その昔、東京の下町に育った小生の周囲には、粋な大人が数多くいた。ご幼少のみぎり(笑)、小生は将棋に夢中だった。縁台将棋の折りには、将棋にまつわる「地口」をしょっちゅう聞かされたものだ。
「男は度胸、女は愛敬。坊主はお経で、先生は説教!」
小学生の小生には時に訳の分からないフレーズもあったが、面白いという印象だけは残った。そんな口上を言い放ちながら、指し手は中盤の仕掛けに入る。
対して、対局者。
「あっ、そうか。草加・越谷、千住の先よ」、などと返す。こんな文句を口にしながら、反撃の一手を考える。
次の一手。
「その手は桑名の焼き蛤」と、またまた地口を言い放って、相手の攻撃をかわすのだ。
こうしたやりとりは実に面白かった。
盤上の勝負もさることながら、口上の勝負もまた(当時は意味不明の部分もあったが)興味深く耳に残っている。
「勝った勝った(カッタ・カッタ)は、下駄の音」、「恐れ入りやの鬼子母神」等々は、将棋で覚えたフレーズである。今日的な用語で言えば、親父ギャグの応酬であった。そんなギャグの世界と将棋という勝負の世界が、密接に結びついていた。
現代の川柳は文芸指向が強く、地口の類いはあまり好まれない。しかしながら、こうした素養だけは身に着けておきたいものである。では、入選一歩手前の作品からご紹介しよう。
▷クラス会女の意地のダイエット (ささゆり)
▷病院で席は譲れぬすみません(竹子デラックス)
▷温かい仲間に似てる冬野菜 (三宅亜紀)
▷散歩して川柳捻りぼけ防止 (尾池辰生)
▷壁ドンで患者を落とす栄養士 (伊藤正美)
Vol.126の
ベスト作品
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◎トップ賞
朝寝坊
わが辞書になし
ウォーキング
原田祥二郎
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わがままに
生きて健康
キープする
竹澤聡
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平穏な
日々健康を
願うのみ
一湖