2018/01/15

冬場の野菜の供給基地「沖縄県」

連載/野菜考(5)JAおきなわ「台風や生産者の高齢化と戦いながら、認知度向上に励む」

南国のイメージが強い沖縄県。現地の飲食店では、聞き慣れない食材や独特の料理に出会うことも多いが、一般的な野菜は暖かい気候を活かして、他の都道府県では生産しにくい冬場に栽培し、多くが県外に出荷されるという。沖縄特有の伝統野菜も多く、4月8日を「島ヤサイの日」とするなど、消費拡大や食文化継承にも意欲的に取り組んでいる。沖縄の野菜や、生産の現状などについて、沖縄県農業協同組合・経済担当(農業事業・生活事業)代表理事で専務の普天間朝重氏に伺った。

沖縄県農業協同組合・経済担当(農業事業・生活事業)
代表理事・専務
普天間 朝重 氏

 

12月から5月が出荷のピーク

――沖縄県で野菜というと、まず「ゴーヤー」を思い浮かべるのですが、実際どのような農作物が生産されているのですか。

普天間 ゴーヤーは年間約7,900トンで、全国の生産量のうち約37%(以上、2014年)を占めており、全国第1位の生産量を誇る野菜です。露地栽培のほかにハウス栽培も行われ、1年を通じて収穫することができます。冬でもゴーヤーを作っているのは、おそらく沖縄だけだと思います。

その他の主力品目としては、かぼちゃ、オクラ、さやいんげん、とうがん、らっきょう、ピーマン、レタス、トマト、ミニトマト、にんじん、スイカなどがあります。とうがんも全国第1位(約2,900トン、2014年)ですし、オクラは第3位(約1,300トン、2014年)、らっきょうや、さやいんげんは第5位です。近年は、トマト、オクラ、かぼちゃ、キュウリ等の生産が伸びています。

これら沖縄の特性が発揮できる品目については、戦略的な振興を図るため、定時・定量・定品質の出荷ができる産地を、沖縄県知事が「拠点産地」「いちおし産地」と認定しています。生産農家、JA、行政等が一体となって、生産力の向上に努め、「おきなわ」ブランドの確立に取り組んでいます。

例えば、現在のかぼちゃの拠点産地は、南風原町、宮古島市、北大東村、竹富村、名護市です。沖縄のかぼちゃは、1本の苗から1個だけ、しかも完熟させてから収穫しているので、とても味が濃くておいしいと好評です。近年は宮古島の収穫が伸びており、全体の目標2,500トンのうち、1,000トン近くを生産するようになっています。果物も、マンゴー、パパイヤ、タンカン、パッションフルーツ、パイナップル、ドラゴンフルーツなど、皆さんが南国をイメージするような品種を栽培しています。

――沖縄の気候ならば、ゴーヤー以外の野菜も1年中収穫できそうですね。

普天間 ところが、暑い7月から9月はあまり収穫しておらず、他の都道府県の生産量が低下する12月から5月に収穫する野菜の方が多いです。特に葉物野菜は、真夏には暑過ぎて作ることができません。夏場に生産しにくいもう一つの理由は、台風です。JAでも、防風林やハウスのために多額の予算を投じて対策を取っていますが、植え付けたばかりの小さな苗をハウスで保護するのが精一杯で、ピーク時に沖縄を襲う猛烈な台風から作物を守ることは難しいのです。冬から春に収穫する野菜も、例えば12月から出荷するには、9月、10月頃に植え付けをするので、秋に大きな台風が来ると影響を受けます。また出荷の最終期である5月頃に早い台風が来ると、今度は収穫に影響が出てしまいます。

――台風には太刀打ちできないのですね。沖縄で採れた野菜は、主にどこで消費されているのですか。

普天間 約7割が県外で消費されています。主に首都圏が中心で、関西にも出荷しています。例えば自慢のかぼちゃは、9割が県外です。直接的な出荷はしていませんが、首都圏の市場を通じで、一部東北などにも届いています。

県内では、JAを通じて量販店等に流通しているほか、県内に11カ所あるファーマーズマーケットや那覇空港の「美らガーデン」で販売されています。その他、流通量は把握できませんが、直接量販店等と取引している農家もあります。

 

島野菜「沖縄シークヮーサー」を商標登録

――「島野菜」というのは、どういう作物なのですか。

普天間 戦前から伝統的に食され、郷土料理に利用されている、沖縄の気候・風土に適している28品目を島野菜と呼んでいます。ニガナ、ハンダマ、モロヘイヤ、ウンチェー、青パパイヤ、ネリ、チデークニ、ターンム、モーウイ、フーチバー、シマナー、シークヮーサー、ナーベーラーなどがあります。

――聞き慣れない野菜ばかりですね。

普天間 そうでしょうね。例えば、ネリは丸オクラ、フーチバーはにしよもぎ、チデークニは島にんじん、シマナーはからし菜、モーウイはキュウリ、ナーベーラーはヘチマのことです。フーチバーは、沖縄では山羊汁などの汁物に入れたりして、薬味としてよく使います。ヘチマも沖縄では味噌煮などで一般的ですが、傷みやすいので県外ではあまり流通していません。チデークニは、一般的なにんじんより黄色で細く、カロテンが豊富です。モーウイはキュウリですが、皆さんがご存知の緑色ではなく、皮が茶色で、大きくずっしりとしています。パパイヤというと果物のイメージかと思いますが、沖縄では熟していない緑色のものを野菜として食べることがほとんどです。

沖縄で生産されている野菜。沖縄のかぼちゃは、とても味が濃くておいしいと好評(写真提供;JAおきなわ)

――特に力を入れている品目はありますか。

普天間 シークヮーサーです。とても酸っぱいシークヮーサーは、沖縄では焼き魚にかけるなど、酢の代用品として使われるのが一般的で、ジュースなどにも加工されています。これまでの取り組みによって、2017年夏には、沖縄県産のシークヮーサーは「沖縄シークヮーサー」という名称で地域団体商標に登録されました。機能性の研究も進み、沖縄シークヮーサーに含まれる「ノビレチン」や「タンゲレチン」には血糖値低下、脂肪燃焼、肝機能改善、抗炎症作用などの効能があることは、すでに確認されています。現在、ヒト細胞を使った研究をしているところで、沖縄シークヮーサーを使用した商品に効果を表示できるよう、「機能性表示食品」の申請も行っています。

 

就農人口減少。
一方で毎年300人超の新規就農者

――沖縄県の就農人口はどのような傾向ですか。

普天間 全国的にそうだと思いますが、沖縄県でも減少傾向です。1985年の調査では4万2,020戸だった農家数は、2015年には2万56戸(兼業農家、自給的農家も含む)に、就農人口も5万7,670人から、1万9,916人(販売農家)に大きく減少しています。高齢化も進んでおり、就農人口に占める65歳以上の割合は5割以上です。

特に状況が深刻なのは離島です。離島の産業はほとんどが農業ですが、例えば粟国島では、この10年の間に、人口が25%も減少し、遊休地が増加しています。離島には中学校までしかないので、離島の子どもたちは本島の高校に入学し、ほとんどがそのまま本島で就職します。かつては親が農業を続けられなくなると、子どもが家に戻って継いでいましたが、今は、本島の方に親を呼び寄せることが多くなっています。離島で農業を続けている人たちも高齢化しているため、空いた農地を購入したり借りたりして規模を大きくすることもできません。

離島の農業は、沖縄県の基幹作物であるサトウキビが中心です。JAでは、離島に6カ所の製糖工場を持っていますが、遊休地が増えると原料であるサトウキビが不足し、工場が成り立たなくなってしまいます。そういった地域では、農協が直接サトウキビ栽培も行うことで、産業を維持しています。

――新規就農者を増やす取り組みもしているのでしょうか。

普天間 はい。毎年度300名の新規就農者獲得を目標に取り組んでおり、2012年以降は目標を達成しています。新規就農者の大部分は県内の人で、一部県外から来る人たちもいます。2016年からは「担い手サポートセンター」を設置し、求職者と求人者の橋渡しや、新規就農者に対する研修や農地のあっせん、定着に向けた支援や、確定申告の支援まで、一貫して新規就農者のサポートを行っています。

――では、食育についてはどのようなことをしていますか。

普天間 「食農教育」を行っています。これは、食の大切さと食を支える農業の役割への理解を深め、新鮮で安心・安全な地元農産物の消費拡大を図り、地域の食文化を次世代へ引き継いで健全な食生活を普及促進することが目的です。例えば学校に対しては、地場農作物の学校給食への提供や、県内全小学校の5年生を対象に食農教育本の寄贈、ファーマーズマーケットやJAの各支店では「体験農場」や「収穫体験」、「親子料理教室」などを実施しています。毎年開催している県民向けのイベント「おきなわ花と食のフェスティバル」には、2日間で10万人ほどが訪れます。

――県外への販促活動は。

普天間 関東地方の市場や大手量販店を中心に、各地区の営農センターの職員と生産者が各地に出向いたりして、試食販売などのイベントを行っています。2016年度の実績をご紹介すると、量販店でのマネキンによる試食販売は、パイナップルを55店舗で、シークヮーサーを25店舗で行い、その他の野菜、果物についても、31回実施しました。生産者による県外販促も、シークヮーサー、具志頭ピーマン、やんばるトマト等、10品目以上を実施しています。またショッピングモール内のフルーツバーや県内ホテルでは、期間限定でシークヮーサージュースの販売も行いました。

関東地方の市場や大手量販店を中心に、試食販売などのイベントを実施。首都圏の量販店で糸満ニンジンの販促の様子(写真提供;JAおきなわ)。

 

東京・有楽町交通会館で「北部シークヮーサー」の試飲を実施(写真提供;JAおきなわ)

――外国人観光客も増えていると思いますが、外国人向けの取り組みもしていますか。

普天間 県内で沖縄のおいしい野菜を食べて、好きになってもらうことで、輸出を増やしたいと考えています。海外見本市や商談会にも参加し、昨年11月には「輸出戦略室」を立ち上げました。アジア各国、特に台湾、香港、シンガポール等に輸出する取り組みを強化し、今年度は1億円の販売を目標にしています。

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