2017/09/15
夏野菜は福島県にお任せを!
連載/野菜考(3)JA全農福島「気候を生かした夏秋きゅうりは日本一の生産量」
第3回目の「野菜考」は、福島県の野菜について伺った。福島県は、地形の影響で県内にさまざまな気候の地域があり、生産している野菜の種類も豊富。特に夏の野菜を代表するきゅうりやトマトは国内トップクラスの生産量を誇る。県内外へのPR活動、子どもたちを対象にした食育イベントなど、JA全農福島の取り組みについて、JA全農福島・園芸部次長兼園芸課課長の伊達正文氏に伺った。
夏秋のきゅうり、トマト、さやいんげんが主力
―福島県ではどのような野菜が栽培されているのですか。
伊達 福島県は、全国第3位の広さがあり、県内は南北に走る阿武隈高地と奥羽山脈によって、会津、中通り、浜通りの3地方に区分されています。内陸の雪深い地域から、冬でも比較的温かい海寄りの地域まで、気象差や標高差など、変化に富んだ自然環境を活かし、多様な農産物が生産されています。
主たる農産物は30品目ぐらいで、4月から6月は、グリーンアスパラやえんどう類、ブロッコリー、7月から9月はきゅうり、トマト、さやいんげん、ピーマン、なす、秋から冬は生しいたけ、ニラや春菊などの葉物野菜が多く栽培されています。特に福島県は夏秋野菜の産地なので、主力は夏のきゅうり、トマト、さやいんげんですね。
福島県産のきゅうりは、県中央部に位置する岩瀬地域を中心に、県内全域で栽培され、「パワーグリーン」という統一ブランドで出荷されています。全国第3位の生産量ですが、夏秋に関しては日本一(収穫量:約3万4千トン、2014年実績、以下同様)です。
さやいんげんは全国第2位で、7月から9月の生産量は1位(約3960トン)です。阿武隈山間地域や会津地方など夏の気候が比較的涼しい地域で栽培されています。
トマトは全国第7位で、夏秋期の出荷量は2位(約1万9900トン)です。県南部、栃木県に接する白河地方や南会津地方など、昼と夜の温度差が大きく、標高400m前後の地域で栽培されています。
春のグリーンアスパラも4月から6月の生産量は全国第2位、さやえんどうは5月から6月の生産量は全国第1位です。
果物の生産も多く、全国第2位の「もも」、全国第4位の梨(約1万9600トン)、5位のリンゴ(2万7600トン)をはじめ、サクランボ、プラム、いちご、ぶどう、柿などが栽培されています。
―福島県産の野菜は、主にどこで消費されているのでしょうか。
伊達 7割強は関東・京浜地域に出荷されています。ですから関東地方にお住まいの方には、特に夏場は、福島の野菜をたくさん食べていただいていると思います。県内で消費されているのは約1割、残り2割は関西や北陸、北海道です。特に冬の葉物野菜は、北海道に出荷されることが多いですね。
きゅうり栽培大作戦、鍋料理コンテストなどイベントもいろいろ
―福島県の野菜をPRする活動なども行っているのですか。
伊達 はい。例えばきゅうりに関しては、2008年から青森、秋田、岩手、宮城、山形、福島の東北6県が合同で行っている「キュウリビズ」キャンペーンがあります。きゅうりは95%が水分で、体を冷やす効果もあるため、暑い夏をきゅうりで乗り切っていただこうというキャンペーンです。今年も7月19日に、東京都の大田市場でセレモニーを行い、氷で冷やしたきゅうりを試食していただきました。量販店や直売所などでもイベントを行っています。
今年5月には、コンビニエンスストアや食品メーカーと連携し、会津産のアスパラを使用した「手巻おにぎり アスパラベーコンマヨネーズ」を約1カ月間供給しました。
毎年秋には、「ふくしまからはじめよう。食の商談会 ふくしまフードフェア」という商談会を開催して、県内外のバイヤーの方々に、自慢の農産物や畜産物をPRする場を設けています。
―食育という観点での取り組みは。
伊達 県内の小学校を対象とした食育イベント「きゅうり栽培大作戦」を実施しています。小学生に地元産のきゅうりに興味を持ってもらうことで、地産地消の促進や、農業の楽しさ、大変さ、食べ物を大切にする気持ちを深める目的で、2009年から開催しているものです。応募いただいた小学校にきゅうりの苗を提供し、子どもたちが育てて収穫します。観察日誌やきゅうりを使ったレシピを提出してもらって、それを基に秋には審査会が行われ、受賞校が表彰されます。今年も26の小学校が参加しています。
また5月には、都内大手スーパーの企画による、1泊2日の「親子田植えツアー」を行いました。抽選で選ばれた首都圏の消費者10組36名が参加し、田植えをしたり、地元の食材を使った料理を味わったり、アスパラガスの収穫体験などを楽しんでいただきました。
―県内の農産物を使ったレシピなども紹介しているのですか。
伊達 中通り地区の郡山にある、直営の農産物直売所「愛情館」にはキッチンがあります。開催するイベントや季節の野菜と連動して、料理を作って試食していただいたり、レシピを紹介したりしています。
また冬には県産野菜を使った鍋料理を競う「鍋奉行も納得。我が家自慢の福鍋・満腹絶倒計画」というコンテストを行っています。昨年は101組の応募があり、最優秀賞に選ばれた鍋料理は約2週間、福島市内の協力店舗で提供されました。
福島市では、福島市産の果物を使用した「スイーツコンテスト」も開催しています。今年も7月下旬に第一次審査が行われ、8月にはグランプリが決定します。入賞作品は、市内の菓子店やレストラン、宿泊施設などに協力いただいて商品化しますので、楽しみですね。
農業従事者は減少、しかし新規就農者は増加
―福島県の農業従事者はどのように推移しているのですか。
伊達 福島県が農林水産省大臣官房統計部「農林業センサス」のデータを基に作成した資料によると、総農家数は1995年の約12万戸(販売農家数 約10万戸、以下同様)から5年ごとに、約11万1000戸(約9万1000戸)、約10万4000戸(約8万戸)、約9万6000戸(約7万戸)と減少しています。1995年には50万人以上だった販売農家人口も、2010年には約31万人と大幅な減少です。日本の人口そのものが減っていることもあり、就農人口の減少は全国的な傾向だとは思いますが、「跡継ぎがいない」などの理由で、今の代で農業を辞めるという話も度々耳にします。
県では、新たに農業を始めたいと考えている人たちのために、就農相談窓口を設置しているほか、福島県農業総合センター農業短期大学校での就農研修も行っています。2016年9月の福島県農林水産部の発表によると、2016年度(2015年5月2日から2016年5月1日まで)の新規就農者数は過去最多の238人となりました。自営による就農者数は、震災以降、減少したままでしたが、2016年度は123人と震災前のレベルまで回復しています。年齢別では、40歳未満が170人と約7割で、20歳代のUターンが多いそうです。
減少数に比べれば十分ではなく、厳しい状況ではありますが、われわれとしては維持・拡大できるように取り組んでいきたいと考えています。
―震災、また震災後の風評被害の影響はいかがですか。
伊達 震災の影響はまだ残っているのが現状です。JA福島中央会が消費者の意識調査などを実施していますが、約8割の方々からは福島の農産物も特に問題なく購入する、あるいは不安は感じないという回答をいただけるようになりました。しかし約2割の方々は何らかの抵抗感を示しておられますし、絶対に買わないという方も1割程度おられます。
県農産物の消費拡大への取り組みも重要ですが、震災以降は安全性への取り組みに重心をシフトさせてきました。福島の農産物は、今も全量検査あるいはサンプリング検査を経て出荷していますが、販売価格で他の産地よりも若干不利になってしまう場面も多々あります。ただ6年が経過した現在、検査していることを積極的に発信する時期は過ぎたようにも思いますが、引き続き粛々と確実な検査をし続けながら、信頼を回復していくしかないと思っています。
一方で、応援してくださる方々も多く、とてもありがたいですね。例えば東京都品川区・大田区の大森地域の飲食店有志の方々は、震災の年から毎年、福島県の日本酒・食材を応援するイベント「福興◎福島!!大森弾丸ツアー」を開催してくださっています。参加店舗は、初回の3店舗から今年は15店舗にまで増え、福島県の日本酒や福島県産食材などを使った料理をそれぞれ1品500円で提供するほか、大森駅近くのイベントスペースでは「福島物産 大収穫祭」も開催されました。
―応援している読者も多いと思いますので、最後に読者にメッセージをお願いします。
伊達 福島は夏野菜の産地です。旬の野菜は栄養も豊富でとてもおいしいです。水分補給を兼ねて、福島のきゅうりやトマトをたくさん食べて、夏を乗り切ってください。