2017/07/15
体験を通じて、農業や野菜を知る!
野菜考(2)ホクレンくるるの杜
記憶に残るPRを目指して体験型施設を開設
「野菜考」の2回目は、日本中に農作物を供給している北海道にあるホクレンの農業体験施設「くるるの杜」。親子で収穫したり、採れたてを食べたりする農業体験は大人気で、野菜嫌いがなくなった子もいるとか。「農業や農畜産物を知ってもらいたい」とスタートした、くるるの杜の取り組みや体験の意義について、ホクレン農業協同組合連合会・管理本部販売推進部(くるるの杜)審議役・統括マネージャーの川口満久氏に伺った。
育てて、収穫して、食べる「体験農園」
――最初に「ホクレン 食と農のふれあいファーム・くるるの杜」という施設について、紹介していただけますか。
川口 体験ができる畑や水田、ビニールハウスをはじめ、調理加工体験施設、レストランやカフェ、北海道農畜産物の直売所などがあり、生産から消費までのプロセスを一体的に体験していただける施設です。
開設のきっかけは、ホクレンではいろいろな形で農業のPRをしていますが「本当にお客様に伝わっているのか」という問題意識でした。一般に記憶は、聞いたら1割、読んだら3割、見たら5割、体験すると9割といわれていますから、体験していただくことが伝えることに最もつながるだろうと考え、体験農園をメインにした施設として2010年にオープンしました。
――「くるるの杜」という名称にはどういう意味があるのですか。
川口 「くるるの杜」という愛称は、新聞とインターネットで募集し、729件の応募の中から選ばれたものです。「くるる」とは、ここに「来る」ことでかなう、「育てる」、「作る」、「食べる」、「感じる」、「つながる」を表しています。
さまざまな体験を通じて、身近に農業がある北海道の素晴らしさや、農畜産物のおいしさを感じ、一人でも多くの方に北海道の農畜産物のサポーターになっていただきたいと考えています。
――どのような体験ができるのですか。
川口 当施設の体験は、土・日・祝日に開催しており、1年を通じて何らかの体験ができるようにしています。最初に学び、収穫し、それを使って調理をして食べるという流れで行います。
まず2月から5月下旬までは、ビニールハウスで栽培したいちごを収穫して、アイスクリームやカップケーキ、パフェなどを作ります。5月中旬から6月上旬はアスパラガス、6月から7月は、ビニールハウスで育ったさまざまな色のミニトマトを収穫することができます。7月、8月になると、ハスカップ、ブルーベリーが採れるようになるので、アイスクリームなどで楽しみます。
それ以降は、春に植えた畑の作物が収穫時期を迎えるので、じゃがいも、えだまめ、にんじん、キャベツ、かぼちゃなど、さまざまな体験ができるようになります。意外かもしれませんが、らっかせいやさつまいもも栽培しています。また9月には稲刈りをして稲架掛け(はさ掛け)、10月には脱穀も体験できますし、餅つきなども行っています。
その他通年で、パンやピザ、クッキーなどを作る体験や、くるるの杜の恵みを活用して、リースやフレームを作るクラフト体験などを行っています。
――学校もあるそうですね。
川口 はい。「畑の学校」と「たんぼの学校」があります。畑には「むぎ組」、「まめ組」、「きび組」、「いも組」が、たんぼには「こめ組」、「もち組」があり、それぞれ入学式、種まきや植え付けからスタートし、収穫、卒業式まで4回程度通っていただきます。例えば、「こめ組」の場合は、5月に田植え、7月に除草とかかし作り、9月に収穫、10月に脱穀、もみすりをして、ご飯を炊いておにぎりを食べ、卒業式を行います。「まめ組」は、最後に味噌を作りますし、「むぎ組」はうどんを作ります。
学校はとても人気があり、毎年3月上旬に生徒を募集すると、36名の定員はすぐにいっぱいになってしまいます。特に人気があるのは、「こめ組」と「まめ組」です。
基本的には1年間ですが、もっと体験したいという希望者には「2年生」というクラスも用意しています。2年生は、3品目の作物を作りますので、6回通っていただきます。今年は希望者多かったので、2クラスになりました。1年間経験した方たちなので、道具の使い方なども上手ですね。日々の手入れはスタッフが行いますが、生徒用の道具を用意してあるので、開講日以外に来て、草取りをすることもできます。
――体験にはどのような方たちが参加していますか。
川口 週末の体験も、通年の学校も、親子での参加をお勧めしています。親子が一緒に体験することで、時間を共有することができますし、家に帰ってからも共通の話題で会話を楽しんでいただけると思うからです。
メインターゲットは、幼稚園の年長から小学校の3〜4年生ぐらいまでの親子なので、簡単な言葉で、どのように説明すれば理解していただけるか、私たちも日々工夫しています。
平日には、近隣の幼稚園や小学校、中学校、町内会やPTAなど、団体のお客様も体験に来られます。市からは、婚活イベントやサイクリングツアーとの組み合わせなどのご依頼もいただくようになりました。最近は旅行会社からも、外国人観光客への対応について相談をいただいています。
――参加者の反応はいかがですか。
川口 アンケートなどを見ると、親御さんとしては「子どもに農業体験をさせてあげられて良かった」というようなコメントが多いですね。子どもたちも、自分から楽しんでいるようです。中には体験をきっかけに、今まで食べられなかった野菜を食べるようになったという声もいただいています。
工業製品じゃないから、不作も不揃いもある
――北海道ではいろいろな野菜が作られていると思いますが、冬は採れる野菜の種類が少なくなるのではないでしょうか。
川口 北海道の食料自給率は約200%で、非常に多くの野菜を全国向けに出荷しています。現在は、季節ごとにその野菜が採れる地域の作物を全国に流通させる「産地間リレー」によって、どんな野菜も年間を通じて、日本中に安定供給されています。しかし冬は、くるるの杜の直売所でも地元の作物がかなり少なくなるので、本州の産地から仕入れるなどして補っています。直売所間の連携もあり、お互いの作物を販売しあったり、相手側の直売所に出向いて、対面販売をしたりしています。
これからの時期は、道内で生産されている品目については、直売所でもスーパーマーケットでも北海道産が並ぶようになります。
――安定した流通によって、いつでも何でも買えるからこそ、生産するという過程を知ることは重要ですね。
川口 私たちも、いろいろな形できっかけを作りたいと考えて取り組んでいます。サッカーJリーグのコンサドーレ札幌とJAグループ北海道が提携して毎年行っている「コンサ・土・農園(コンサ・ド・ファーム)」もその一つです。選手数名とサポーターが一緒に苗を植え、一緒に収穫します。今年も5月中旬に、とうもろこしとじゃがいもを植えました。収穫した作物は、試合前にチャリティー販売を行い、児童養護施設などにサッカーボールを寄贈する予定です。
週末には屋外のテントで、生産者の方や北海道産の農畜産物を使った加工品のメーカーの方が、商品を販売したり、調理して提供したりするイベントもあります。生産者とお客様のコミュニケーションの場になると思いますし、興味を持っていただくきっかけにもなるのではないかと思っています。
――最近は、野菜がどのように実っているかを知らない人も増えていると聞きますが。
川口 確かに、工業製品のようにいつでも同じものが作れると思っている方もおられるようで、気候の影響で出来が良くなかったり、流通が少なかったりすると、まれにお叱りの電話をいただくこともありますね。でも農作物は太陽と土と水と、農家さんの技術で作られるものなので、いつでも同じように出来るとは限りません。例えば一本の芋を抜くといろいろな大きさの芋が付いていますから、そういう体験を通じて、スーパーマーケットで販売している規格サイズだけではないということも、分かっていただけると思います。家に持ち帰ったら、大きさに応じて料理の仕方を変えるなどして、家庭でも全部食べ切っていただくことが大切ですね。
特に、畑の学校やたんぼの学校では、何もないところに種や苗を植えて、それがだんだん大きくなって実ることを体験していただけるので、とてもいいプログラムだと思います。仮にちゃんと生育しなかったとしても、不作の時もあることを実感していただけるのは、とても大事なことです。
――食育という意味で、体験するのはとてもいい方法ですね。
川口 「自分でやる」ということが、一番分かりやすいですし、農業や野菜について興味を持ってもらえると思いますね。動物の場合は「生き物を食べている」というイメージが湧きやすいかもしれませんが、野菜も生き物です。だから「いただきます」、「ありがとう」ということを、体験することで理解していただけるのではないかと思います。