2022

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医師の偏在が生み出す負のサイクル

  • 地域医療

  • 北海道

横山 和之
社会福祉法人北海道社会事業協会小樽病院
診療部長 兼 岩内病院・副院長

ドクターズプラザ2022年1月号掲載

地域医療・北海道(43)

令和時代のビジネスモデルからの脱却

現在の地方の医療機関は慢性的に医療者不足であり、特に、田舎で働く医師は不足しています。田舎の病院に医師が来ない理由は、次のことなどが考えられます。

①忙しい
②内科であっても外科であっても1人で何でもできなければいけない
③専門じゃないからといって目の前の患者さんを他に丸投げできない
④田舎に住むのが嫌
⑤医師自身は、田舎生活が好きだが家族の同意が得られない
⑥医師1人にかかる責任の大きさや重圧は、ハイボリューム病院の医師とは比較にならない
⑦孤独
⑧田舎でガンガン働けるような医師を組織的に育成するような仕組みが日本にはない

今現在も田舎で働く医師を確保するために、多くの地方自治体や地方病院で、能力不足の医師であっても、高額な給料を支払って、雇用せざるを得ないことになっています。結局、「高い給料を支払ったけれども、イマイチ(人間性、能力など)な医者が来て、すぐに辞めてしまう」ということの繰り返しになっています。実際、僕が勤務してきた、北海道社会事業協会・余市病院、小樽病院、岩内病院でもそういうことを繰り返してきました。雇用する立場の地方自治体や地方病院は、足元を見られて高い給料を支払わせられる一方で低い医療サービスしか提供できないというジレンマを抱えています。また、年度の中途で退職されて、さらに高給で能力の低い医師を雇わざるを得ないという負のサイクルに陥っています。

これはまさに、今の医療は、地方自治体や地方病院が足元を見られているということです。田舎の現状を知らない都会の人たちは「そんな悪徳医師を雇わなきゃいいのに」「田舎の(病院の)足元を見る悪い医者もいるね」などと言います。しかし、雇った病院が悪いわけでも、困っている田舎の足元を見て高い給料を要求する医師が悪いわけでもないのです。地方に医療従事者が少なく、都会に多いという“医療従事者の偏在”がそもそもの原因です。 田舎での生活を含めて、田舎で医療従事者として働くことは、ごく一部の、カントリーライフ好きの医師を除き、魅力的ではないという現実があります。そこで給料を高くしたら来てくれるだろうという安易な考えで、確保しようとしてきました。

以前は、金銭に対する執着や、お金を稼ぐという野心を持ち田舎に来る医師もいましたが、小さい頃から恵まれた生活しか知らない今の若い医師たちは、仕事も生活も大変な田舎暮らしには少しも興味がありません。そのような医師は、そこそこの給料がもらえて都会の医師として生活と仕事をしていくことを望んでいます。そういう考えの人が増えてきている令和の時代は、高い給料を支払い、医療従事者を確保するというこれまでのビジネスモデルは、通用しなくなってきていると思います。

地方を支える医療組織を

では、田舎で医師に仕事を続けてもらうにはどうしたら良いか。加えて、地域で提供される医療サービスに見合った報酬にとどめておくにはどうしたら良いか。田舎での仕事がずっと続くことがないようにすること。何か困ったことがあったらバックアップ体制がしっかり構築されていること。報酬が高額にならないようにすること、が全て達成できるようなビジネスモデルを構築できれば良いと思います。

実際には、専門医の揃った急性期病院で複数人の医師を雇用し、そのうちの一部を田舎の病院に月単位で派遣するのが良いと思っています。田舎で仕事をするときには、しっかりと地域医療をこなしてもらい、何かあれば、自分の所属する急性期病院に相談したり、時には搬送して診てもらったりして、“充実したバックアップ体制”をつくっておきます。また、急性期病院に残っている医師には、訪問診療や総合外来をしてもらい、田舎で働いている時より時間的にも拘束時間が少なく、責任や重圧の軽い業務をこなしてもらいます。こうすることで、田舎での仕事が一生続くという苦痛もなく、困ったことがあっても田舎で一人悩むこともなくなります。また、急性期病院からの出張なので通常の給料体制に組み込めるということで、前述した新しい田舎の医師雇用のビジネスモデルに合致しています。

現在、ハイボリューム病院から地方に医師を派遣している法人はいろいろあります。しかし、その多くは、困った田舎の足元を見て、派遣することで利益を得るということを目的としていると思っています。リーズナブルな地域医療を構築するには、地方の足元を見ずに“地方を支える医療”を目指す組織が現れなければなりません。

今年3月から専門医の揃った急性期病院である小樽病院と、いわゆる田舎の地域病院である岩内病院で副院長を兼務することになりました。これをきっかけに、僕が所属する北海道社会事業協会という組織が地域医療をリーズナブルに支え、地域医療を継続できるようにしていくつもりです。

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