2024
10/07
~ポリファーマシー(polypharmacy;多剤併用)~
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在宅医療
院長
梅野 福太郎
在宅医療(4)
今回は、次の2つのケースを基にポリファーマシー(polypharmacy;多剤併用)について考えたいと思います。
●ケース1 Aさん(86歳、男性)。当院の訪問診療にて高血圧、頻尿の薬を処方しており、骨粗しょう症で近隣の整形外科に通院していました。
Aさんにお薬手帳を確認し、整形外科の薬も内服していると思っていましたが、ある訪問診療の時、「ところで病院(整形外科)から骨粗しょう症の薬を処方してもらっていると思いますが、念のために確認させてもらっても良いですか?」と確認をさせていただきました。
もちろん、当院の処方薬については、残薬確認をしながら薬を飲んでいるのか確認し処方しています。しかし、整形外科のお薬は別の場所に保管されていたため未確認でした。確認するとなんと4カ月分の骨粗しょう症の薬が残っていたのです。
「先生に聞かれたときは飲んでいるって言っていたけど、実はあんまり飲んでなくてさ……。こんなに残ってしまって……」(Aさん)。
●ケース2 Bさん(92歳、の女性)。近所のクリニックで糖尿病、高血圧、高コレステロール血症に対して降圧剤、血糖降下剤、コレステロール薬など多数の薬が処方されていました。
当院の介入開始となり改めて介護体制を見直し、処方された薬の服薬確認ができる体制になりました。その上で随時、処方薬の減薬などの見直しをしようとしていた矢先に、“意識が低下した”との緊急コールがありました。
果たして何が起こったのでしょうか?
検査の結果、低血糖による意識混濁でした。よく確認すると、そもそも薬を飲んだり飲まなかったりすることがあり、服薬状況が不安定な中での血液検査や血糖値で薬が決定し、処方されていたのです。在宅医療が介入することによって飲み忘れがなくなり、そのため逆に血糖値が下がり過ぎたことによる意識混濁ということが分かりました。
薬の適正な評価と判断
私は病院勤務時代も外来で処方していました。もちろん症状の変化を確認し、診察の上で処方薬の見直しを心がけていました。しかし、処方している薬は全てしっかりと飲めているという前提での評価です。
在宅医療となり実際に訪問すると、ご自宅で薬によって残数がバラバラ。明らかに、飲んでいる薬と飲んでない薬があることも散見されます。内服薬をしっかりと服薬できているからこそ、適正な薬の評価と適切な判断ができるのです。
私は、そういった視点を在宅医療のフィールド(前述の2つのケース)で学ぶことができました。そこで学んだポリファーマシー(polypharmacy;多剤併用)について、説明したいと思います。
ポリファーマシー(多剤併用)の有害事象
ポリファーマシー(polypharmacy;多剤併用)は、多数のお薬を服用している状態で何らかの薬学的な問題が生じている状態、あるいは生じていなくても生じる可能性が高い状態を表す言葉です。薬剤数が多数になると薬物有害事象が出やすいことが分かっており、6種以上の薬を内服する高齢患者で特に有害事象が多くなることが報告されています1)
抗うつ薬を含む5剤以上の薬剤では、転倒頻度のリスクが上がり、ベンゾジアゼピン系薬(不安を改善する薬)を含む5剤以上の薬剤でも同様にリスクが上昇するといわれています2)。
日本の報告でも、5種類以上の薬剤を処方された高齢外来患者で転倒が顕著に上昇すると報告されています3)。
現在の日本の医療は専門分化し、それぞれのクリニックから処方されるケースが増えてきています。そのことにより薬が多数になりやすい場合は、例えば胃薬など一部効能が重複することも注意しなければいけません。
また複数の医療機関から処方されている場合は、処方した医師に管理責任があるとの考えから、別の医師は変更や調整、指示はしにくいです。患者情報のカルテを共有しているわけではないので、どのような細かい意図や指示でその薬を出したのか分かりづらいこともあり、そういう意味では患者さんや家族がしっかりとどういう病気や状態に対してどういう薬が出されているのか把握し、伝えることが大切だと思います。
それから、薬の見直しなども考えると良いでしょう。
薬を見直すポイント
薬の見直しを考える場合は、薬を3種類に分けると分かりやすいです。
①生命維持に必要な薬 → ステロイド、甲状腺の薬。
②予防薬 → 生活習慣病など。
③対症療法 → 疼痛、不眠など。
①や②は簡単には調整が難しいかもしれませんが、③は対応しやすいでしょう。例えば、「あまり寝付きが良くない」とポロっと医師に相談すると睡眠薬が処方されるかもしれません。
深く掘り下げて、「たまに寝付きが悪いけど、食事や入浴の時間を調整し、照明を落とす。スマホを寝る直前にはいじらないなどの対応をしてみましょう。それでもたまに寝付きが悪くても、それほど生活に支障なければ経過観察。生活に支障を来すなら、最低限の睡眠薬を頓服で処方してみましょう」という対応ができるかもしれません。
ポリファーマシーという言葉は医療業界ではかなり前から指摘されていますが、なかなかスッキリ解消はしきれてない印象です。医療従事者の服薬確認の呼びかけはもちろん、処方されている患者さんや家族も意識して処方薬の効能とその意図を確認し、飲み忘れがないように心がける。その上で体調に応じて随時お薬の見直しを図ることが大切だと思います。
冒頭のAさんとBさんのケースは、特別な例ではありません。薬は大切ではありますが、より良い人生を送るための手段にすぎません。特に高齢者ですと医師の処方通りに素直に内服し続ける方が多い印象なので、ご自身もしくはあなたのご家族で複数の薬を服用している人がいるようでしたら、どんな薬を服用しているか主治医とよく相談してみると良いと思います。