西岡 龍一朗 さん

富山大学医学部医学科3年生

2022/01/10

社会人を経て医学の道と国際コミュニケーションへ

医療系学生インタビュー(49)

別れから踏み出した「語りを聴く」活動

―医師を目指したきっかけと、医学部に入った経緯を教えてください。

西岡 目指した要因は2つあって、1つは母親が看護師だったこと、そして2つ目が、小学校6年生のときに医療ドラマ「白い巨塔」を観ていたことです(笑)。しかし、偏差値の問題でいったん医学部を諦めて普通の大学に入学しました。その後就職活動の時期に将来について考えて、改めて医師になりたいと思ったんです。ただ、医学部受験には学力も、浪人生活のための資金も必要なので、まずは一度就職しました。

新卒で入ったのは広告代理店。社会人の間に、若いがん患者さんに情報提供や支援を行うNPOに参加したこともあり、医師を目指すイメージが具体的になっていきました。1年半ほど勤め、その後2年半ほど浪人して医学部に入りました。今年で30歳になります。

―学校以外ではどのような活動をしていますか?

西岡 今、力を入れているのは、患者さんの声を聴くという活動です。僕が個人的に始めたことで、医療系学生を集めて、お招きした患者さんにご自身の経験などを語ってもらうというものです。去年の6月から、月に1回程度開催しています。これを始めたのは、ある別れがきっかけです。社会人時代に所属していたNPOで20〜30代のがん患者さんと接することがあって、友人として交流している方もたくさんいるのですが、昨年そのうちの1人が亡くなりました。彼が患っていたのは胆管がんで、5年生存率が2.9%という予後の悪い病気です。亡くなったのは6月ですが、僕が最後に会ったのは2月で、そのときにぜんぜんうまく話せなかった。元気なときなら他愛もない会話ができるのに、長い闘病生活の疲れや迫りくる最期を感じているその人に対して、下手なことは言えないと思ってなかなか言葉が出なかったんです。そんな僕に彼が、「闘病生活を振り返ると、医療者、特に医者と患者の信頼関係はすごく大切だった」と話してくれました。

その後、信頼関係をどうやって築くのかと考える中で思いついた方法の1つが、語りを聴くということです。そこで6月に、別の交流のある患者さんを呼び、この活動を始めました。参加者は医学生がほとんどで、今までの14回で、累計200人くらいの方が来てくれました。今後、やりたいのは、まずこの活
動に名前を付けることですね。また、今やっていることを国際学会などで発表したいと思っています。

医学にとらわれず、世界で学術的な活動をしたい

―座右の銘はありますか?

西岡 好きな言葉は、司馬遼太郎の『坂の上の雲』という作品に出てくる「天気晴朗なれども波高し」です。日本海海戦で、ロシアと日本が戦うという場面での言葉なのですが、情景的でありながらきちんと意味も込められている点がすごくかっこいいと思います。先述の患者さんの語りを聴く活動について、メッセージというか「結局何をやっているのか」と最近考えるのですが、そこでも単純な言葉ではなく受け取った側の想像が膨らむような、意味のこもった言葉でのコミュニケーションを大切にしたいと感じています。

―将来どのような医師になりたいですか?

西岡 総合診療医や家庭医といった、裾野が広くて、医学以外の分野にも通ずる要素がある分野に進めればと考えています。日本で働くのも選択肢ですが、僕の活動や考えを、世界に発信するような道も見据えたいです。世界の人と、医学に限らず例えば哲学的なことや深い意味のある内容についても議論したり、学術的に伝え合うためには、海外に行くのがいいと思っています。医師という立場にこだわる気はありません。ただ、医師は人の生き死に対してかなり深く考えられる立場なので、もちろんきちんと向き合うつもりです。

海外に行きたいもう1つの理由が、妻がポーランド人だということです。前の大学の学生時代、趣味で自宅にホームステイの方を受け入れていて、彼女がそこに泊まりに来たのがきっかけで出会いました。縁ですね。日本は僕にとってホームタウンですが、妻にとってはアウェイ。彼女が仮にヨーロッパに帰りたいと思ったときに、僕が日本でしか働けないというのは困るので、海外で働ける可能性を持っていた方がお互いにとっていいと思っています。

―医学部に通う後輩たちにアドバイスをお願いします。

西岡 どうでもいいことをする時間を持ってもいいのでは、と伝えたいです。医学の勉強だけでは解決できないことが、世の中にはたくさんあると思います。実は僕はお遍路が好きで、最近はコロナ禍ということもありなかなか行けませんが、その前はよく四国に行っていました。お遍路の最中は、歩いているだけなので何かを細かく考えているわけではないのですが、無意識の中では考えが流れている。そういう無意識の時間が、何かを決める時には大切なのかなと思っています。

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