大橋 由生 さん
福島県立医科大学・医学部5年
2026/09/01
福島で学んだ経験を、いつか地域へ還元したい
医療系学生インタビュー(78)
ハワイから福島へ。幼少期に芽生えた夢を実現
―医師を目指したきっかけを教えてください。
大橋 5歳の時に出会った医師の姿が、子どもながらに印象に残り「子どもを支えられる医師になりたい」と思うようになりました。10歳になると家族でアメリカ・ハワイ州へ移住し、さまざまな文化や価値観が混ざり合う環境で育ちましたが、医師以外の道を考えたことはありませんでした。
―福島県立医科大学を選んだのはなぜですか?
大橋 医師を目指すきっかけになった先生が日本の医師だったこともあり、「日本をベースに医師として働きたい」という気持ちがあったように思います。実は福島県立医科大学のことは、全然知らなかったんです。当時、福島県立医科大学では初めて海外教育プログラム選抜が始まることを知り受験しました。ただ、実際に入学するかどうか、迷ったこともありました。東北には行ったことがなかったですし、知り合いもいませんした。それと、東日本大震災から10年たっていましたが震災の影響が今もあるのだろうか? という不安もありました。
そんな時、面接を担当していた田巻倫明先生から電話があり、会うことになりました。自分の不安や誤解を解消する機会になりましたし、何より生徒一人ひとりに向き合ってくれる先生がいる大学は、絶対に良い環境だと感じました。先生とお会いした帰りの新幹線に乗っている時には、既に入学を決めていました。
―どのような学生生活を過ごしていますか?
大橋 現在は毎日、臨床実習に取り組んでいる他、後藤あや先生の下で、コンビニエンスストアに関する公衆衛生の研究をしています。また、大学の交換留学プログラムでは、シンガポール国立大学、NUSに1カ月間留学する機会をいただきました。この夏(2026年)にはJ-MICAという機構から奨学金をいただき、アメリカの医療機関を見学する予定です。
好奇心が旺盛な性格なので、「やってみよう!」と行動に移すことが多く、授業以外にもさまざまな活動に取り組んでいます。部活では管弦楽団部に入り、チェロ奏者として活動。3年生の春には、福島青年管弦楽団のチェロ奏者として台湾へ遠征することができました。また、医大生による広報団体『FMU PR-Lab』を立ち上げ、大学の広報活動に力を注いでいます。オンラインで、家庭教師のアルバイトもしています。
地域医療に貢献するための”種まき活動”を実践
―『FMU PR-Lab』の活動などを教えてください。
大橋 福島県立医科大学には、面白い研究をされている先生や、魅力的な活動をしている学生がたくさんいます。ただ、それを発信する場や人とつながる場が十分ではありませんでした。そこで1年生の秋に、「福島と福島の医療の魅力を再発見し、発信する」ことを目標に、『FMU PR-Lab』を始動しました。現在、『FMU PR-Lab』には61名の学生が所属しています。
活動の柱は大きく2つあって、1つ目はインタビュー動画や密着動画の制作です。大学の広報と連携するのではなく、あくまで私たちが面白いと感じる学生の視点を大切に、先生方へのインタビュー動画や、福島県奥会津地域の訪問診療に密着した動画などを制作してきました。昨年、投稿した小児心臓外科の動画は、現在16万回以上再生されており、福島県内にとどまらず、多くの方に福島の医療を知っていただくきっかけになったと思います。
―もう一つの活動内容についても教えてください。
大橋 2つ目は、地域の方々に向けた医療体験イベントです。大学の魅力を伝えるには、自分たちが直接、外に出て行くことが一番の広報だと考え、医療体験イベントを企画し、特に子どもに向けたイベントに力を注いでいます。医療に関わりのない子どもたちが、医療と接点を持つことでその素晴らしさに出会う機会を作ることが目標です。
先生方に協力をいただいて、エコーやメス、エクモなど本物の医療機器を使って、子どもたちが医療体験できるように企画しました。イベントで感じた気持ちがきっかけとなり、ゆくゆくは医療に携わる人になりたいと子どもが増えたらとても嬉しいですし、それが福島で医師を目指すことにつながれば、地域医療にも貢献できると思っています。私たちは、こうした活動を「種まき活動」と呼んでいます。
多くの医師との出会いから見えてきた、理想の医師像
―将来はどのような医師になりたいですか?
大橋 子どもに関わる診療科で医師として働きたいです。小児科だけでなく、小児心臓外科や脳神経外科なども含めて、幅広く検討している段階です。福島が大好きですが勤務地はこだわっていません。でも、福島で学ばせてもらった恩返しは将来的にしたいと考えています。
これまで国内外で、専門も働く場所も異なるさまざまな医師に出会う機会がありました。共通していたのは、目の前の患者さんの人生に責任を持ち、その人にとって最善の選択を本気で考え続けている姿勢でした。例えばウェールズで出会った総合診療医は、病気だけでなく、その人の生活や家族、地域まで含めて診る医師でした。シンガポールで出会った外科医は、とても熱量が高く、常に次のステップを考えながら医療に向き合っていました。
また、ネパールでは、宗教観や価値観が全く異なっていて、同じ病気でも患者にとって「困っていること」が違うというのが印象的だったんです。それを加味しながら、限られたリソースで医療を提供する家庭医の皆さんからは医師としてコアとなるものを学ばせてもらった気がしています。
将来どの専門に進んだとしても、彼らのように患者さんに向き合い、患者さんの目線で話せる医師になりたいです。また、自分が多くの機会をいただいてきたからこそ、臨床だけでなく、教育や地域への還元にも関わりたいです。
―最後に、後輩たちへアドバイスをお願いします。
大橋 自分のユニークさを捨てないでほしいです。医学部を目指していると、どうしても成績や目の前の勉強に意識が向きがちです。もちろん必要なことですが、自分がこれまで何に興味を持ってきたのか、どんな経験をしてきたのか、何に心を動かされるのかは大切にしていってほしいと思います。自分にしかない背景は、必ず将来の医師像につながっていくと思うからです。
もう一つは、感謝を忘れないことです。自分一人でできることは多くありません。今の私の活動は、両親や友人、先生方など、本当に多くの方の支えがあって成り立っています。どれか一つの出会いが欠けていたら、今の形にはなっていなかったと感じています。