2026

07/05

「産後」や「更年期・老年期」の方を対象にしたサポート

  • 助産師のお仕事

杉田 理恵子
東京家政大学健康科学部看護学科准教授

助産師のお仕事(7)

産後~心と身体をサポート~

夏をイメージする花といえばすぐに思い浮かべるのは「ひまわり」「あさがお」などでしょうか?

自宅の周辺には、梅雨から夏にかけて「蓮の花」を鑑賞できる公園があります。今の住まいに移るまで蓮の花を近くで見たことがなかったので、最初は花弁と花托の大きさに驚きました。蓮の花は早朝に咲くらしく「ポンッ」という音がするとか……。蓮の葉は表面に小さな突起が密集していて撥水効果があります。葉の上をコロコロ転がる水滴を見ているだけでも楽しいです。蓮の根は「蓮根」としてなじみ深い野菜ですが、蓮の花弁の中にある「蓮の実」を食べたことがある方はどれくらいいるでしょうか? 蓮の実は中華料理やお菓子などによく使われます。子どもの頃に中華街で食べた記憶がありますが、蓮の実には、ビタミンB1、カルシウム、カリウム、食物繊維などが含まれており、疲労回復やむくみの解消、腸内細菌を整えるなどの作用があるそうです。

また、中医学で蓮の実は、血の巡りを良くする作用があり婦人科系の不調緩和に良いと考えられています。蓮に思いをはせながら今回は、「産後」や「更年期・老年期」の方を対象とする助産師の仕事についてご紹介したいと思います。この時期における助産師の仕事は、年齢を重ねる間でも女性が健康で快適な日常生活を送れることを目標に、情報提供や健康の維持増進のための具体的な方法についてお伝えすることです。

近頃、全国的に広まっている産後ケアは出産後1年未満の女性と子どもを対象としていますので、子育て相談やサポート、出産後に劇的に変化する女性の心と体をサポートすることが主な仕事の内容です。支援の方法や場所はさまざまで産後の家庭訪問や、地域の保健センター、出産した病院や助産所などが代表的なところになります。ケアや支援の内容としては、産後の女性の身体回復状態やメンタルヘルスに関すること、月経の再来と受胎調節(バースコントロール)、授乳や抱き方、沐浴の方法、離乳食や予防接種の種類や時期について……と幅広く支援します。ケアの対象は「女性」と「子ども」、場合によっては「家族」になりますので、助産師は夫やパートナー、祖父母世代の健康についても情報収集して具体的な方法を伝えられるように知識と技術を磨いています。産後の女性と家族への助産師の仕事については、これまでも何度が紹介しているので今回は概要のみにします。

更年期~セルフケアを中心にサポート~

更年期・老年期の女性への助産師の仕事というと、どのような内容を思い浮かべるでしょうか?

この時期の女性に対する助産師の仕事は、主に加齢に伴う身体機能の低下や精神・心理的な変化、閉経によるホルモン分泌の変動などによって生じやすい健康障害の予防や日常生活を送る上でのポイントを提案するなどが多くなります。

更年期と聞くと「怒りっぽい」「イライラする」「ほてり」「ホットフラッシュ」などの症状を思い浮かべることが多いかと思います。しかし、これらの症状が発生するメカニズムや対処法などについてあまり知られていないのではないでしょうか?

更年期とは「閉経前の5年間と閉経後の5年間を併せた10年間」(日本産婦人科学会更年期障害 – 公益社団法人 日本産科婦人科学会)と定義されています。つまり、閉経の時期は人によって異なり、更年期の時期も人によりさまざまということになります。更年期に生じるさまざまな症状に大きく関わっているのは「エストロゲン」というホルモンで、このホルモンの分泌が卵巣機能の低下に伴って減少することで、女性の心と体に多くの変化が生じるようになります。よく知られている「怒りっぽい」や「イライラ」などの精神的な症状には、その反対の症状ともいえる「不安」や「抑うつ」などもあり、個人の性格や社会的な因子(子どもの独立、親の介護や死、職場での昇進や異動など)が関連することにより症状が異なると考えられています。また、「エストロゲン」は脳血流量にも関与していますので、「エストロゲン」の分泌が低下すると脳血流量が低下して認知機能などにも影響を及ぼします。このほかにも「エストロゲン」は心血管系や骨格系にも関与しているので、脂質異常症や骨粗しょう症にも関係しています。

このように、心身にさまざまな変化が生じると更年期をネガティブに捉えがちですが、人生のターニングポイントとして日々の生活を少しでも快適に過ごせると良いですね。助産師は、対象となる女性がより良く過ごせるようにまずは、相手の話をよく聞いて健康の維持増進に必要だと思われる情報を提供します。更年期症状が発生するメカニズムなどを説明して理解を深め、正しい知識を得てもらいます。その上で助産師は、女性が自ら食事や生活習慣の見直しや健康を維持するための運動、リラクゼーション法を具体的に伝えるなど、セルフケアを中心としたサポートをします。そのため助産師には幅広い知識と技術が求められます。お伝えした通り、更年期症状は人によってさまざまです。一人一人の生活習慣に合わせたセルフケアが提案できるように話し合いを重ねることが求められています。

更年期のさまざまな症状はセルフケアによってある程度コントロールすることができますが、日常生活に影響を及ぼすような場合には更年期障害とされ、治療が必要になります。そのような場合には適切に医療が受けられるように、受診すべき診療科や治療法などについての情報提供も欠かせません。医療情報のブラッシュアップも必要になります。

老年期~人生の振り返りを考えた助産ケア~

更年期の次の段階となる老年期はどうでしょうか? 老年期に入った人を高齢者と呼ぶことがありますが、何歳から高齢者とするのかという具体的な年齢は分野によって少し違いがあります。助産師が老年期の女性を支援の対象とする場合には、医療分野の定義に従い、65歳以上の方を老年期として捉えて助産ケアにあたります。人生の最終段階にあたる老年期は、衰えや死などを連想しがちですがここでもポジティブに捉えて、これまでの人生の振り返り(ライフレビュー)を行う時期と考え助産ケアにあたることが大切です。老年期を仕事や子育てなどから解放され自分のために時間を費やすことができると捉えれば、人生の中でも最も貴重な時期にあるといえるのではないでしょうか? そのためにも年をとっても健康な生活を送れることがとても重要になります。

老年期の女性の健康問題としては、骨粗しょう症や心疾患など更年期で生じた健康問題が老年期でも引き続き問題となる傾向があります。国内の65歳以上89歳までの女性の死因を見てみると、1位が悪性新生物(腫瘍)、2位が心疾患となっています(2023年厚労省人口動態統計gaikyouR5.pdf)。死因の3位は、65歳以上79歳までで脳血管疾患、80歳から89歳で老衰です。更年期で生じた脂質異常症に適切に対応できなかった場合などには動脈硬化の要因となり、心筋梗塞や脳梗塞の発症を高めることになります。また、更年期の骨粗しょう症の既往は、身体や認知機能の低下が進む老年期で、転倒の際の骨折の要因となりかねません。老年期の骨折は大腿骨や腰椎など体を支える部位が多く、骨粗しょう症があると治るまでに時間がかかり、寝たきり生活につながるリスクとなります。老年期の寝たきりは、肺炎の要因にもなります。肺炎は80歳~99歳までの女性の死因5位に上がっていますので骨折すること無く老年期を過ごしたいと願います。

更年期・老年期~女性の生涯を通じた支援~

最近ではテレビのコマーシャルで尿漏れ用のパットをよく見るようになりましたが、女性の排泄に関する問題も健康の維持増進にはとても重要です。更年期における卵巣や子宮、それらを支える骨盤底筋群などの組織の緩みは臓器を下垂し、頻尿や尿漏れなどの排尿トラブルを惹き起こします。対応が遅れるとその症状が進み、老年期に子宮下垂や子宮脱などとなり排尿・排便機能を著しく低下させることになります。

老年期にある女性に対しても助産師は、このような特徴を把握して健康な生活が送れるように支援にあたります。助産師の仕事は、助産所や病院などが中心ですが介護施設で生活する女性や女性外来での健康相談を行うなどと広がりを見せています。女性外来は各診療科に所属する医療者がチームを組んで診療にあたるもので、助産師のケアを必要とするケースもあります。女性外来の開設の背景には、内科や外科、泌尿器科など単科では対応が難しい女性特有の悩みや健康問題に対して性差に着目して診療しようと開設したものが多く高齢の女性を対象とする場合があるようです。更年期や老年期の女性が抱える健康問題は多様で複雑です。丁寧に話を聞くことや一人一人の生活習慣などに合わせた治療計画が問題解決のために重要になりますので、女性外来への期待は高まっています。ちなみに。女性外来は特に年齢の制限はありませんので更年期・老年期以外にも月経不順や不妊、膠原病など女性に多いとされている病気や子どもや家族の発達段階に伴う悩み、抑うつなども幅広く診療している施設もあります。気になる方は「女性外来」で検索してみてください。

更年期・老年期の健康問題はさかのぼれば、出産や子育て期の女性の健康状態だけでなく思春期や学童期などその人の生涯にわたる健康が関わっていることが分かります。助産師のコア・コンピテンシーの3にはウィメンズヘルスケア能力として「助産師は、女性の生涯を通じた支援者であるとともに、相互にパートナーシップを築く」を挙げ、実践の基準として「女性自ら健康を維持増進するためのセルフケアが行えるよう多職種と連携、協働し支援するとしています」。人口減少化する現代社会において助産師には「その人らしさ」を尊重して健康な生活を送るための良き伴奏者となれるように日々のケアに臨みたいと思います。

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