2022

10/11

原発のお膝元の地方病院で起きていること(2)「行政との協力体制の構築が必要」

  • 地域医療

  • 北海道

横山 和之
北海道社会事業協会 岩内病院 院長代理

地域医療・北海道(46)

行政の体制

以前、泊原発のお膝元である岩内町の医療体制の現実や問題点をお話ししました。原子力災害医療の担い手の一つである岩内病院は、「原子力災害医療協力病院」となっています。「協力病院」となっていますが、現在も通常診療で、整形疾患を含めた外傷を常に診療できる体制ではありません。常勤の医師は、外科医と内科医、そして、小児科医が各1人、合計3人で通常診療を行っています。以前、お話ししたとおり、災害発生後の病院搬送までのシステムは行政の立場でいろいろ構築されています。

しかし、原子力災害医療を実際に行う近隣の搬送先病院(倶知安厚生病院や岩内協会病院)では、通常でも外傷に対する診療体制が365日24時間整っている訳ではありません。災害時ではない通常診療時においてできていないことを災害発生時に行うことは、当然不可能であることは明白です。行政が手をつけやすい、搬送体制や搬送時の命令系統などはしっかり出来上がっていますが、原子力災害医療を担う病院の医療体制には責任の所在を明らかにせず、目を瞑っています。通常時の健全な医療の整備なくして災害時の医療体制を構築するのは不可能ですが、そこは行政の力に頼るしかないと考えます。

岩内協会病院の体制

その一方で、原子力発電所から一番近い公的な医療施設である岩内協会病院も、原子力災害医療をしなければならない病院であるという自覚があまりなかったことも問題です。岩内町を含めた地域医療を担うということは、その地域で想定される災害(自然災害だけではなく原子力災害医療を含む)に対して備えることも本当は必要でしたが、今までは、原子力災害医療に対して、積極的に関わることがありませんでした。訓練には行政にいわれるがまま参加するだけで、原子力災害医療を担える人材は誰一人いませんでした。

今回、岩内協会病院で院長代理として仕事をしていると、毎月、膨大な原子力災害医療の講習や会議、訓練の募集を目にしますが、誰もそこに行こうとしない現実があります。それらの講習などは、参加しなければならないという強制力のあるものではないことも、参加者がいないことにつながっています。

協力病院に必要なこと

そこで、今年度、私自ら原子力災害医療の担い手といわれる人材になろうと考えました。まずは、基礎研修、専門研修、高度専門研修と被ばく医療の研修を紹介している国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構量子生命・医学部門放射線医学研究所の「被ばく医療研修ポータルサイト」に登録しました。そして、一番早く開催される弘前大学放射線安全総合支援センター主催の「令和4年度弘前大学原子力災害医療基礎研修」を受講しました。

研修の内容は、放射線の基礎、影響、防護、汚染検査、除染、安定ヨウ素剤、避難退避時検査、避難と屋内退避について理解するというものでした。多分、大学時代に少しは講義があったのだろうと予想されますが、如何せん不真面目な学生であったため、この基礎研修は非常に新鮮な内容でした。

次に、専門研修の最初の研修である、原子力災害医療中核人材研修を申し込みました(本稿執筆時)。この研修は、基礎研修を受けていなければ受けることができないこともあり、急いで基礎研修を受講し、中核人材研修を申し込みました。今回受ける中核人材研修は、弘前大学で行われるもので、弘前大学放射線安全総合支援センターが主催します。参加人数は20人と少数で、実地研修有りの研修です。9月12日からの3日間、弘前大学に行き研修してきます。

研修目的は、被ばく・汚染のある傷病者を医療機関で対応するために必要な知識と技能の習得研修です。

研修の目標は、1)医療機関での受け入れの準備や初期対応、放射線障害の診断と治療、線量評価、メンタルヘルス、放射線管理要員の役割について理解する、2)原子力災害時に被ばく・汚染のある傷病者の初期診療について理解する、3)防護装備着脱、放射線測定器の取り扱い、測定方法、除染の技能を習得する、という3つです。まさに、原子力災害医療の協力病院である岩内病院に必要なことです。

原子力災害医療としての準備

本稿が公開される頃は、原子力災害医療中核人材研修を終えて、岩内協会病院に戻っています。岩内協会病院では、ほとんど原子力災害医療に対して備えをしていないことは分かっています。行政に強制されていないからといって備えをしないというのは、無責任すぎると思っています。研修で得た知識を基に行政とも協力し、原子力発電所のお膝元の病院として、一から原子力災害医療の準備をしていこうと思っています。

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