2025年4月
生きることを励ます川柳6
江畑 哲男 さん
(一社)全日本川柳協会副理事長、麗澤大学オープンカレッジ講師
うれしいお話を伺った。川柳教室の講座生A子さんからのご報告だった。
過日、認知症のテストを受けたという。対象者は80代以上と思われる老人ばかり。そのテストにもいくつか種類があって、言葉探しのテストが出されたそうな。「か」で始まる単語を一定時間以内に思い付く限り書きなさい、という出題であった。
A子さんは思い付く限りすらすらと書き始め、最終的にはナント30語以上にも達したという。他のご老人は? といえば、せいぜい10語止まり。A子さんは他の参加者のじつに3倍以上の語彙力があったのだ。係職員にビックリされた、とも言っていた。
A子さんいわく、「川柳のおかげです」「先生のおかげです」と。たしかに、川柳を頑張って作るという工程は、脳トレに近いものがあるかも知れない。
川柳創作が脳トレになる! 川柳普及をライフワークとする小生にとって、大変うれしく、元気づけられるご報告であった。
さらに、脳トレになる作業がある。
推敲である。推敲とは「詩や文章をより良い表現にしようとあれこれ考え、作り直し、苦心すること」である。
自分の作った川柳をより優れた表現に直すべく、試行錯誤を繰り返す。この過程には、言葉を探す、他の単語に置き換える、発想を転換する、語順を入れ替える、などなどの作業が必要になってくる。まさしく、言葉の脳トレと言って良いだろう。
今回、11歳の小学生からの投句があった。いやはや頼もしい。ありがとう!
作品は下記であった。
成長期寝るだけで身長高くなる(僕の成長)
発想が面白い。小学生らしいユニークさが光る。一点惜しかったのが、中七のリズム。真ん中の七音のリズムを整えたい。
→ 成長期寝るだけで背が高くなる
「身長」という単語を「背」に直して、リズムを整えた。これも脳トレである。言葉の引き出しをたくさん持って、大人に負けない立派な入選句が作ろう。頑張ろう!
さてさて、入選句。
米不足追い風にしてダイエット(たまのいわし)
笑顔という薬要らずの処方箋 (輪月)
ヨガマット広げたけれど寝る場所に(たっか)
おなじ道おんなじようにウォーキング(さとしん)
気が付けば犬が私を散歩させ(野村齋藤)
寝不足か? 運動不足か? 老化です(ながとし)
おいしいとわかる健康実感す(がっちゃんまん)
この頃は空気吸っても太りそう(けん爺)
中年の憧れ健診オールA (くるみ)
通院をしていないのは産科だけ(松田少納言)
孫と行く健康祈願の初詣 (かえるL)
あるはずと二人で探す認知症(どこにでもいる田中)
無理をせず怠けもせずに正常値(老人生)
100歳が手招きをするスクワット(ごん太)
いよいよ、ベスト3。入賞者の皆さん、おめでとうございます。
◎歩きたい気分にさせる街探す(夏風かをる)
イイですねぇ~。季節はまさに春!! 閉じこもりがちだった冬を乗り越えて、外の空気を胸いっぱい吸いましょう。「歩きたい気分に」なれる、そんなオシャレでステキな街を探しながら。文句ナシの秀逸!
○長生きはもう十分と医者通い (モコ)
川柳らしい川柳ですね。「もう十分長生きをした」と口では言いながら、せっせとする医者通い。建前ではなく、ホンネに迫れるのが川柳の面白いところ。
○野良仕事鍬は夫の健康具(やんちゃん)
健康器具はたくさんありますが、しばらく使うと大概飽きてしまいます(笑)。物置に健康器具類が眠っていませんか? この句は、「鍬は夫の健康具」だと言うのです。ナルホド。収穫も見込めるし、何より有益な健康器具ですね。うらやましい限り。
今回の川柳
ベスト作品
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◎トップ賞
歩きたい
気分にさせる
街探す夏風かをる
-
長生きは
もう十分と
医者通いモコ
-
野良仕事
鍬は夫の
健康具やんちゃん