Vol.132 2016年3月

川柳のユーモア

江畑 哲男 さん

(一社)全日本川柳協会常任幹事、早稲田大学オープンカレッジ講師


川柳的発想を活かす3

先日、「あれっ?」と思った日本語に出くわした。NHKオンデマンドの宣伝。「お見逃しサービスがあります。皆さん、ぜひご利用下さい」などとPRしていた。

非論理的な日本語

小生が引っかかったのは、「お見逃しサービス」なるフレーズだ。「お見逃しサービス」は論理的におかしい。明らかに変である。番組を見逃してしまった視聴者のために、その番組を提供するサービスのはず、だからだ。論理的には、真逆のことをPRしたことになる。ついでながら、サービスとは申せ有料らしい。この点も引っ掛かったが、今回は問題にしない。

「注意一秒、怪我一生」。
立川談志がこの交通標語を、高座で取り上げたことがあった。「注意一秒、怪我一生」とは、論理的におかしくはないか。交通事故の現実を考えれば、「不注意一秒、怪我一生」と言うべきであろう。あるいは、「注意一生、怪我一秒」の方がよほど筋が通っている、とな。ナルホドそう言われればその通り。理屈である。
しかしながら、日常の日本語はコレでよいのだ。時に非論理的な言い回しであっても、前後関係から正しい文脈に直して日本語は判断される。善良な日本人は、そのあたりをアウンの呼吸で理解し、納得して、暮らしているのである。
理屈を言うならば、次なるフレーズも本来的にはおかしい。
「提灯に火を付けた」。(提灯に火を付けたら燃えてしまうじゃないか)
「お湯を沸かす」。(お湯を沸かしたら蒸気になってしまうゾ)
「中田がホームランを打った」。(ボールを打った結果がホームランになったのだ)……等々、ケチを付ければ付けられる。
繰り返そう。日本語はコレでよい。変な理屈は言いっこナシ!! 括弧内の方が筋としては通っているのだが、こんなことを言い出したら逆に変人扱いされるのがオチだ。かくして、日本語は面白い。
さて、惜しくも入選を逃した作品から。

▷健康の維持バランスの良い食事 (一湖)
▷不摂生年末調整したい暮れ (雪だるま)
▷物忘れ自慢話はヒョイと出る  (そら)
▷歯科治療技師の微笑み夜叉に見え(吉野則子)
▷両膝にひと声かけて立ち上がる(万歩計)

Vol.132
ベスト作品

  • 治すより

    隠そうとする

    認知症

    しむらむし

  • ショッピング

    お散歩よりも

    歩いてる

    とり

  • サムマネー

    健康だけじゃ

    生きられぬ

    タカシ

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