Vol.129 2015年5月号

川柳のユーモア

江畑 哲男 さん

(一社)全日本川柳協会常任幹事、早稲田大学オープンカレッジ講師


ユーモアの効用 その3

回文(かいぶん)も面白いものです。
回文。上から読んでも下から読んでも、同じになるフレーズ。一種の言葉の遊びでもあります。
「トマト」「キツツキ」「新聞紙」「竹やぶ焼けた」などが代表例でしょうか。
回文は、日本語の特徴を背景としています。すなわち、日本語は「かな一文字=一拍」の長さで発音します。英語の発音とは違います。しかも、その一拍一拍の長さがすべて等しいのです。「あ・め」、「き・っ・て」、「け・ん・こ・う」、「え・む・ぞ・う・く・ん」という具合に通常は発音します。
回文の本はいろいろあります。回文で書かれた童話もあるんですよ。その名も『いなかいかない?』(落合正子著、本の泉社)。小生オススメの一著です。
回文には、短歌や俳句もあります。その傑作は、何と言っても次の二句でしょう。
品川にいま住む住まい庭がなし
力士手で塩なめ直し出て仕切り

回文演歌歌手登場

突然ですが、手賀沼ジュンという若手芸人をご存じでしょうか? ネパール生まれの千葉育ち、なんだそうです。その彼が、昨秋「歌ネタ決定戦二〇一四」という番組で優勝を果たしました。
「逆さの道は魑魅(ちみ)の坂さ」というタイトルの、歌詞すべてが回文になっている歌を歌って優勝したのです。テレビで見ました。
意外性があって面白い歌でした。ホントはその歌詞を全部ご紹介したいのですが、紙数に余裕がありません。ゴメンナサイ。ネット等でお調べください。
そのネットで、手賀沼ジュン氏のホームページを見たら、これがまた面白いものでした。回文を活かしたブログを発信しているのです。
タイトルだけでもご紹介しましょう。「予定聞いてよ!」、「Goよ、兵庫!」、「あけおめ! 新年会に行かんねんし、目をケア」。日本語に潜む遊び心を堪能した気分です。
さてさて、今月はずいぶん投句者が増えました。嬉しいですね。
入選一歩手前の作品からして、レベルが高かったようです。ご覧いただきましょう。

▷お薬のためにお腹を空けておく(福島ヒロコ)
▷医者通いできる元気と老いの意地(村上定)
▷どっこいしょと言って動けば怪我は無い(一湖)
▷万歩計遠回りしてお買い物 (老沼正一)
▷太りすぎゆるキャラかと笑われる(河村めぐみ)

Vol.129
ベスト作品

  • 回復期

    プライドもまた

    起き上がり

    久保田留美子

  • 生きがいを

    糧に寝たきり

    予防する

    しむらむし

  • 青空に

    力をもらう

    万歩計

    竹澤聡

フォントサイズ-+=