2024年4月

生きることを励ます川柳3

江畑 哲男 さん

(一社)全日本川柳協会副理事長、麗澤大学オープンカレッジ講師


先日、珍しい団体からの講演依頼があった。とある労働組合からである。労組からの講演依頼というのは実は初めて。しかも、その設定が意外だった。

講演日が春闘間近の2月中旬。しかも川柳の講演は、その春闘の意思統一の場に組み込まれていたのであった。出席者は中央執行委員をはじめとする各支部支部長など、合わせて40名ほど。

当然のことながら、会議は中央執行委員長挨拶に始まり、賃金闘争の取り組み、賃闘要求案の討議などが当日の議題となっていた(小生はモチロン席を外していた)。

これらに続いて、川柳の講演がセットされていたのである。さすがに赤ハチマキ姿は見かけなかった(笑)が、多少の場違い感をも感じながら、川柳の話を楽しくさせていただいたのであった。

この労組とのご縁もまたユニークだった。コロナ下の最中、「コロナ鬱」という言葉に代表される空気が日本国中を支配していた頃のこと。暗い、陰鬱な日々。こうした中で、傘下の組合員に明るい話題を何か提供できないか。そう考えた末に、川柳コンクールが発案されたようだった。

当日の講演では、現役バリバリの皆さんを前に、「川柳は人生の喜怒哀楽とともにある」ことを強調した。

コロナ下で、高齢者が「川柳があって良かった」「川柳に救われた」と口々に述べた体験談。緊急事態宣言下で登校が叶わなかった高校生たちが、初めて創った川柳。作品には、溢れんばかりの若々しいホンネが盛り込まれていた。そんなコロナ下の人々と川柳との結び付きを、具体的なエピソードを交えてお話しさせていただいた。

人生には喜怒哀楽が付きもの。「川柳=生きることを励ます文芸」だと結論づけたのだが、考えてみれば上は現役世代に対してこそお贈りしたい言葉である。ユニークな企画を立てて下さった労組の担当役員各位に感謝を申し上げて、当日の講演を無事に終えることができたのだった。

それでは、佳作の発表から。

有給残子らの元気と比例する(はな)

ダイエットカラオケでするお母さん(シホ)

サプリには頼りたくない父がいる(若林美幸)

老いてなお健康維持のウォーキング(山口あきら)

北風に負けず元気な草野球(ばんぶー)

この身体耐用年数超えてます(藤沢・マグネット)

朝寝坊できる若さがうらやまし(ふくちゃん)

体力も免疫力も子に負ける(はるたんぺ)

医者と妻どっちが医者かわからない(りりぃ)

寝ながら腹筋妻はもう寝てる(やんちゃん)

飲み会の行けたら行くは体調で(なで肩)

トイレでは内なる自分と向き合える(ひでじい)

 

お待ちかね。今回のベスト3はこの方々です。おめでとうございます。

 

◎百寿への道半歩ずつ一歩ずつ(上村ひろし)

内容的にも技巧的にも文句ナシの最優秀作品。そうそう、慌ててはイケません。この句は「百寿への道」でいったん切って、「半歩ずつ、一歩ずつ」とつなげます。このフレーズが特に良かった!

 

○新しい靴を喜ぶ万歩計(中原牛美)

新しい靴を履くと身も心も軽くなります。この句のポイントは、万歩計が喜んでいるとした表現。擬人化が成功しています。

 

○健康が持続可能な笑顔呼ぶ(たまのいわし)

ユニークな仕立て方ですね。いま流行りの「持続可能な」を「健康」とコラボさせました。その発想力を高く買いましょう。

今回川柳
ベスト作品

  • ◎トップ賞

    百寿への道

    半歩ずつ

    一歩ずつ

    上村ひろし

  • 新しい

    靴を喜ぶ

    万歩計

    中原牛美

  • 健康が

    持続可能な

    笑顔呼ぶ

    たまのいわし

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