2023年12月
生きることを励ます川柳2
江畑 哲男 さん
(一社)全日本川柳協会副理事長、麗澤大学オープンカレッジ講師
新聞川柳欄の選者をしていると、思わぬ反響を頂戴したりする。
読売新聞「よみうり文芸川柳」欄(千葉版7/19日付け)で、下記作品を秀逸句に選んだ。選評はこう書いておいた。
習いごと百まで予約入れておく(松本泰任)
(評)その意気、その意気。素晴らしい心がけです。「人生百年時代」。秀逸句は単に長生きをするだけではなく、習いごとの予約を百歳まで入れておこうというのです。自分磨きに精を出そうというのです。
そういえば、「生涯学習の時代」ともいわれて久しいですね。学びたいこと、励むべき「何か」のある人生はそれだけ輝いていることでしょう。
―――するとどうだろう。上記の秀逸句が掲載されてしばらくしたら、編集部にこんなはがきが寄せられた。
《この作品を読んで感動し、すぐに習字と卓球のライン仲間にメールしました。「ステキですね」「元気をもらえました」「頑張ります」のコメントが入っておりました。作者は何歳くらいのどんな方なのだろうと想像しております。これからも紙面でお会いできますよう楽しみにしています。》
いやぁ、うれしかった。選者をやっていて良かった。改めてそう思った。
川柳は共感の文芸、ともいわれる。新聞に掲載された作品が、作者以外の読者の心にも響いたのだ。自らの感動を、ご丁寧にも友人たちに拡散してくれている。
今日「個人情報保護」がやかましくなって、秀逸句の作者は、お名前以外存じ上げない。共感のはがきを寄せて下さった方に至っては、名前も住所も年齢も分からない。
「バズる」というのであろうか? ささやかな反響ながら、見知らぬところでのこうした拡散には選者としてちょっとした感動を覚えた次第だ。ありがとうございます。
川柳は「生きることを励ます文芸」であると書いてきたが、あながちオーバーな表現でもなさそうだ。
では、佳作の発表に移ろう。
野菜から食べて血圧いたわろう (花仙)
健康を失う前に一休み (水曜)
まだいける恋もしながらジム通い(やんちゃん)
過ぎたるを控え体調整える (Q幸)
祖母のため付けた手すりに助けられ(千瑠)
ガソリンの高騰きっかけウォーキング(珍元妻)
筋力がついた買い物持たされて (瑠珂)
大笑い笑顔は心の免疫だ (1)
ジョギングは一等賞より皆勤賞(ごん太)
ジム終わり腹が減ったと寄り道す(いっぴーママ)
健康の秘訣はきっと推し活ね(そらまめ)
幸せは健康だけが知っている (健康)
最期まで添い遂げたいの健康と(木村イサヲ)
さてさて、お待ちかね。今回のベスト3作品。ご鑑賞を乞う。
◎持つべきは友と主治医と歩数計(雪ボタル)
「友と主治医と歩数計」と三つ並べた。少々標語っぽい感じもするが、分かる・分かるという声が聞こえてきそうだ。発見の妙! というべき一句になっている。
○健康を売る通販の落とし穴(ぽっくん)
社会派の一句。ムダのない、まとまりのある作品に仕上げてくれた。「健康を売る通販」がやたらと目立つ。中には、……。
○ハイッ元気です多少の見栄もまだ張れる(古田水仙)
「お元気ですか?」と聞かれると、「いいえ」とは言いづらい。上五はかなりの字余りだが、「多少の見栄もまだ張れる」とした後半が、川柳的で面白い。
今回の川柳
ベスト作品
-
◎トップ賞
持つべきは
友と主治医と
歩数計
雪ボタル
-
健康を
売る通販の
落とし穴
ぽっくん
-
ハイッ元気です
多少の見栄も
まだ張れる
古田水仙