Vol.134 2016年7月号
川柳のユーモア
江畑 哲男 さん
(一社)全日本川柳協会常任幹事、早稲田大学オープンカレッジ講師
川柳的発想を活かす5
前回に引き続いて、テレビの人気番組「笑点」から話題を拾う。
『文藝春秋』七月号に、桂歌丸の手記が掲載されていた。「『笑点』五十年 蔵出し独演会!」という一文であった。全体的に語り口調になっているので、桂歌丸の話を誰かが上手にまとめたものかも知れない。
意外性が伴うウイット
その中で歌丸は、笑点五十年を振り返る。五十年の歴史を振り返りながら、真面目な挨拶とジョークをない交ぜにして話を進めていく。これが絶妙なのだ。
まずは、司会降板の弁。
笑点がめでたく五十年を迎えたこと。ここで若い方に譲らなければ、番組は長続きしないことを、一応は真面目に述べる。加えて、次なる台詞を続けている。
「……わたしだけが第一回目から出演をさせていただいておりました。当時は新進気鋭の若手で、髪もフサフサ、ひとたび通りに出れば、群がる女性をかき分けかき分け歩いたものでした(笑)」と。
司会降板の理由は、何と言っても「体力の限界。これ以上、スタッフや仲間にご迷惑をかけられない」と、正直にホンネを明かしている。
そのくだりの中でも、こんなエピソードを交えるのだった。
「ところが二〇一〇年に肺炎で入院したとき、収録をやむなくお休みすることになりました。わたしの代わりに木久ちゃんと好楽さんが司会を務めてくださったんですが、あまりにも下手で……。早く戻らないといけないなと強く思ったものでした(笑)」という具合なのである。
右の話術を分析してみると、よ〜く分かることがある。
代役を木久扇・好楽のお二人が「務めてくださった」と敬語を使っているので、読者はてっきり感謝と御礼の弁がその後に続くものと思ってしまう。ところが、そうではなかった。「あまりにも下手で……」という歌丸のホンネが語られるのだ。こうした意外性、ウイットが笑いのツボなのであろう。
川柳創作の上でも、こうした意外性は大いに参考になるのではなかろうか。
では、入選まであと一息の作品から。
▷健康がご褒美となるウォーキング(原田祥二郎)
▷日々歩行これなら老いの坂元気(ばってん爺)
▷健康な証拠朝からウォーキング(今でも青春)
▷生活のリズムを変えて気も変えて(小山一湖)
▷良くなれば看護師さんの生返事(泉州のみずなす)
Vol.134の
ベスト作品
-
◎トップ賞
健康の
秘訣明るい
妻と趣味
周ちゃん
-
褒め言葉
ついに恰幅
だけになり
万歩計
-
残薬を
見せて元気を
自慢する
長谷川庄二郎