2023
03/01
COVID-19と感染症法
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感染症
静岡県立農林環境専門職大学 生産環境経営学部 准教授
日本医療・環境オゾン学会 副会長
日本機能水学会 理事
新微生物・感染症講座(6)
はじめに
前回まで、細胞構造を持つ微生物について紹介してきました。今回からウイルスに代表される細胞構造を持たない病原体について書きたいと思いましたが、パンデミックの渦中にあるCOVID-19が2023年5月8日に五類に移行すると政府が方針を決定しましたので、今回はCOVID-19を題材にして感染症法についてお伝えたいと思います。また、「オミクロン株」に代表されるギリシャ文字による変異分類に加え、「BA.1」や「XBB.1.5」といった変異株のナンバリングが複雑さを増しており、これらが何を意味しているのか分からないために恐怖を感じる方もいらっしゃることと思いますので、変異株の名前についてもご説明したいと思います。
感染症法とは
集団として社会生活を営むためには、ルールや法律を守ることは大切ですが、ルールや法律は時代に合わせて迅速に変えていくものです。急速に変化し続ける現代社会においては、法整備の遅れが発展の足かせとなり国益を損ねます。また、文明の発達によって新たな感染症が生じており、1970以降に発見された新興感染症は32種類に上っています。こうしたことから、日本ではそれまでにあった複数の感染症に関する法律を整理統合し、1999年4月に「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」が施行、2006年の改正時に結核予防法も統合しました。かつては当然とされた理不尽な隔離などの法律を見直し、患者の人権を尊重するとともに感染症の監視体制強化を可能とました。2020年1月に国内で初めての感染事例が報告された新型ウイルス感染症(COVID-19)を、2月1日には指定感染症として感染症法に含むことができたのは、感染症対策を強化することを目的として、迅速な法的対応を可能とした法律だからこそなのです。
感染症法の類型とCOVID-19
感染症法における類型は、一~五類、新型インフルエンザ等、指定感染症、新感染症があります。一類は、日本での感染報告が無く、予防法や感染した場合の治療法などが確立されていない世界的に極めて危険な感染症です。重症化率や致死率が高い感染症のうち、呼吸器感染症とポリオ(急性灰白髄炎)は二類、細菌性食中毒は三類に分類しています。四類、五類には多くの感染症が含まれますが、ウイルス性肝炎のうち食中毒によるA型およびE型肝炎、ダニや蚊などの節足動物が媒介する感染症は四類に分類されます。A型およびE型以外の肝炎や性感染症などの全数把握疾患、おたふく風邪などの定点把握疾患は五類に分類されています。
分類項目にある「新感染症」は、病原体が明らかとなっていない危険度の高い感染症に適用されるため、早々に病原体が突き止められたCOVID-19は、一~三類に準じた対応が必要とされる「指定感染症」に指定されました。指定感染症は1年に限定して厚生労働省が指定するものですが、COVID-19は1年延長して2021年2月に「新型インフルエンザ等感染症」に分類されています。この新型インフルエンザ等感染症は、2012年に制定された「新型インフルエンザ等対策特別措置法」を基礎として、緊急事態宣言などが行えます。
二類相当から五類になるメリット、デメリット
前述の一~三類の特徴からすれば、発生当初にCOVID-19を二類相当としたことは妥当だったでしょう。しかし、二類感染症は都道府県知事が第二種感染症指定医療機関に指定した医療機関でしか受診・入院できないため、二類相当としたことで病床使用率が高くなり、医療崩壊が叫ばれるようになりました。三~五類感染症となれば、一般の病院でも診察、入院が可能となります。ただし、一類および二類感染症に罹患した場合の治療費、入院費は、医療保険適用残額を公費で負担することとなっているため感染者の負担はありませんが、三~五類感染症となると自己負担が生じます。治療費負担を避けようと、感染しても受診しないケースが増えることで感染拡大につながりかねません。そのため、COVID-19を五類感染症とした場合でも、一定期間は検査、ワクチン接種や治療を公費負担とするような措置を求める意見も出ています。
COVID-19変異株の名前
新型コロナウイルスは、アルファ株からベータ株、ガンマ株へ、さらには重症化が懸念されたデルタ株へと変化し、2021年11月8日にアフリカでオミクロン株による感染が報告されました。このギリシャ文字による分類はWHOが提唱したものです。「武漢型」のように発見場所の地名を呼称にすると風評被害を起こしやすく、かといって科学者の用いる「B.1.1.529」というPANGO lineage(*)では、報道や一般の方々に対して分かりにくいことから、ギリシャ文字による呼称によって「懸念される変異株(VOC)」「注目すべき変異株(VOI)」および「VOIだったもの(VUM)」に分けて情報発信してきました。オミクロン株から大きな変異は見られていませんが、今なお感染者の体内で細かな変異を続けています。通常、複数種のウイルスが同じ細胞に感染することはまれですが、複数種のウイルスが同じ個体内で遺伝子組み換えした変異株も出てきています。今後も変異動向に注意しましょう。
(*)新型コロナウイルスに関して用いられる国際的な系統分類命名法であり、変異株の呼称として広く用いられている。変異を「.(ピリオド)」で区切っており、B.3.2.1であれば、Bの3番目の子孫の2番目の子孫の1番目の子孫を意味する。アルファベット以下の数字は3つまでで、4つ目はアルファベットを変え、Zの次はAAとなる。頭に「X」が付いた変異株は、複数種のウイルスが同一宿主内で遺伝子組み換えした変異株。