2017

01/15

ASD(自閉症スペクトラム障害)を支援する

  • メンタルヘルス

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西松 能子
立正大学心理学部教授・博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職日本総合病院精神科医学会評議員、日本サイコセラピー学会理事、日本カウンセリング学会理事、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。

ドクターズプラザ2017年1月号掲載

よしこ先生のメンタルヘルス(41)

レーダーチャート化により理解を深め支援を円滑に

特性を知りニーズを明らかにする

4年前の5月、DSM -5(米国精神医学会の診断基準)ではADHD(注意欠如・多動性障害)とASD(自閉症スペクトラム障害)の併存が認められました。翌年6月に日本版が出版されましたが、実はそれ以前から発達障害圏の人々を支援している日本のチームの中では、支援のニーズを明らかにする中で、ADHDとASDの症状を同時に考えて支援していこうという試みがなされてきました。診断が具体的な支援に結び付く架け橋になるように、船曳康子先生(京都大学精神神経科)らはADHDとASDの特性を9項目取り上げ、学習、言語発達、コミュニケーションの円滑さと社会適応、睡眠リズムという共通する5項目の計14項目を9段階評価でレーダーチャート化することによって、診断を効率的に支援の現場につなげるように試みていました。発達障害圏の方々は、ASD、ADHD、発達性協調運動障害、学習障害など、複数の疾患概念を重複して持っていることが多く、個人の間に表現型の違いもあります。船曳先生の研究グループは、発達障害者個々人の支援のニーズを、本人や支援者に一目で分かるように示す工夫(レーダーチャート化)をしました。それによって、本人自身や周囲が共通理解を進め、支援する人たちが連携して支援していけるような試みです。円滑に迅速に支援を進めることができる道が開けたのです。そこに着目したのは、診断がついたからといって、どんな支援を必要としているのか、分かりにくいという点が従来あったからです。

 

各々の能力を生かし、活躍できる社会へ

例えばAさんの診断名はASDですが、知的な遅れも伴い、多動がひどく、一見するとADHDのように見えます。しかし、多動以外の衝動性や不注意は認められず、やはり感覚過敏やこだわり、共感性の欠如などASDの症状がAさんの社会適応を大きく障害していました。またBさんは、不注意優勢型でADDと診断されましたが、こだわりが強く、強迫症状も認めていました。この場合は、こだわりや強迫症状へのアプローチが必要となります。特性チャートはいわば支援に関わる多くのスタッフの指針(レーダー)となるでしょう。

Aさんについて詳しくお話ししましょう。Aさんは、障害者枠で特定子会社の正社員として働いています。社内の郵便物を届けたり、不要な書類をシュレッダーにかけたり、事務系の雑務を受け持っています。入社当時はチームで動く仕事をしていましたが、やや一方的な口調でまくしたてて誤解されることも多く、一人で一つの仕事を受け持つようになりました。集団がやや苦手で、友人と言える人は見当たらず、休日の外出はもっぱら母親と一緒に出掛けます。外出先で些細なことから店員や母親と口争いのようになり、途中で帰って来てしまうこともあります。母親からは「お前は口が悪い。人が傷つくということが分からないのか」などと言われますが、自分では悪気はなく、母親から指摘されて「そうかなあ」と思いますが、やっぱり人が傷つくことを言ってしまいます。落ち着きがなく、電車の中でもじっとしていられません。些細なことで大声をあげて動き回るので、外出時は母がついてまわり、制止することがしばしばあります。こんなAさんについて、船曳先生のレーダーチャートを作ってみると、図のようになります。共感性や感覚過敏、多動、学習に問題を抱え、その結果、社会適応に困難を生じていることが分かります。

支援においては、Aさんが理解できるように一つ一つかみ砕いて伝えることが大きいことが分かります。共感性に欠けることもあり、唐突に見える行動に対しても、支援が必要と分かります。実は、この支援・連携を進めるレーダーチャートは昨年の4月1日から、保険診療で認められるようになりました。支援が活発になり、各々がその能力を活かし、社会で活躍できますように。