2025
12/06
“高齢の親だけではない”家族のケアについて
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介護
NPO法人となりのかいご・代表理事
隣(となり)の介護(40)
年間約700件の家族介護の相談を受けていますが、中には次に挙げる事例のような“高齢の親だけではない”家族のケアを抱えている方がいらっしゃいます。
【事例1】:統合失調症と診断された40代母親
Aさんの母親は、ある時からご近所さんへの愚痴が増え、それが被害妄想だと思われるような発言が増えてきました。母親の言動が心配になり、病院へ連れて行くと統合失調症(※1)と診断されました。父親は50代で仕事中心の生活、Aさんも就職したばかり。この先、不安定な母親とどう接したらいいのか、父親とAさんは困り果ててしまいました。
※1…統合失調症は、思春期から30代にかけて発病することが多いですが、女性は40代を過ぎて発覚することも少なくありません。
【事例2】:配偶者が若年性認知症に
Bさんは、夫婦共働きで小学生の子どもと3人暮らしです。ある時から、夫が職場で周りの人に冷たくされていると感じることがあると言います。他にも夫は物忘れが増えたり、突然、人が変わったように怒り出したりすることがありました。病院へ連れて行くと若年性認知症と診断されました。
夫が職場で迷惑をかけている原因が分かっても、夫の会社に正直に話すべきかを悩みました。Bさん自身も忙しい日々の中で、職場への対応、夫のケアや育児など、先が見えず頭が真っ白になってしまいました。
【事例3】:障がい児の親が直面する「18歳の壁」
Cさんには自閉スペクトラム症(ASD/※2)の小学生の息子がいます。息子は発達がゆっくりで、一人で登下校や留守番が難しいことがあります。そこで、学校に車で迎えに行き、夕方以降も療育を受け、自宅に送り届けてくれる放課後等デイサービスを利用することで夫婦共働が可能になっています。
ただ、この放課後等デイサービスは就学児である18歳までしか利用ができません。学校卒業後に利用できる生活介護や就労支援事業所は午後4時で終了することが多く、そうなるとフルタイムでの夫婦共働きが難しくなり、夫婦のどちらかが退職を余儀なくなるのではないかと心配しています。
【事例4】:息子が就職後に発達障害だと分かる
Dさんの20代の息子は、学生時代は成績優秀で性格は多少こだわりの強いところがありましたが、無事に就職もして、特に気に留めていませんでした。
就職後に新人研修が始まると、疲れて帰ってくるようになり、日を追うごとに気力がなくなり、ついに出社できなくなってしまいました。悩む息子を心配してDさんは診察を受けさせると、自閉スペクトラム症(ASD/※2)だと分かりました。息子に発達障害があると知ったCさんは、大変なショックを受けてしまいました。
※2…自閉スペクトラム症(ASD)とは、発達障害の一つでコミュニケーション能力や社会性に障害があり、対人関係が苦手という特徴があります。子どもの頃は保護者や周囲のサポートで乗り越えられてきたことも、成人をした後サポートがなくなってから気付くケースがあります。
“高齢の親だけではない”家族のケアを担うことになったら……。
前述の事例のようなことが、高齢の親の介護や幼い子どもの育児、仕事の繁忙期と同時期に起きることもあります。渦中にいるときは、他に同じような悩みを抱える人はいないだろうと孤独に感じ、つらさや悩みを抱え込み、自分ばかりなんで不幸なことが起こるのだろうと感じてしまうかもしれません。
それでも全てのケースに合った支援や解決策があります。家族を支える側こそ投げやりになったり、思考停止になったりしないためにも、悩みを言葉にすることが不安な気持ちを軽減し、客観的に物事を考えるための手助けになります。周りに話しづらいのは重々承知していますが、やはり、一人で抱え込むことなく、まずは話しやすい周囲の方に、一言を発することから始めてください。
障がいのある子どもの親になったら……。
【事例3】【事例4】に関しては、親が亡くなった後のことが、何よりも不安になります。不安を解決するには、自立生活を促すグループホームへの入所、買い物の付き添いをしてもらう同行援護といったさまざまな福祉サービスを活用しながら、自立を促していく必要があります。子が自立できなければ、80代で要介護の親が50代の障がいの子をサポートする「8050問題」に陥ることになりかねません。
障がい児の自立には、親離れ・子離れが大前提です。親が「本当の意味でわが子にとって望ましいサポートは何か」という、冷静な考えを持つためには、わが子との適度な距離感が必要です。それが維持できれば、わが子の世話を抱え込むことなく、親離れ・子離れにつながる可能性が高くなります。
私たち一人ひとりにできること
取り上げた事例以外にも、配偶者がメンタル不調を起こす、自身にがんが見つかる、現役世代の父親が脳梗塞で救急搬送されるなど、さまざまなケースが考えられます。私たち一人ひとりができることは、このコラムで周りに事例のような実情を抱える人たちがいることを知り、もし、自身が当事者になったときは、誰かに話を聞いてもらうなど冷静に対応するための心構えをしておくことではないでしょうか。