2025
07/09
臨床検査出張所の撤退で何が起きるのか!?
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地域医療
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北海道
北海道社会事業協会 岩内病院 院長
地域医療・北海道(57)
Contents
人口減少と人材不足で“検査難民”に
当院のある岩内古宇地区(西後志地域)は、札幌市まで車で2時間くらいのところに位置し、観光地である倶知安・ニセコ地区の海側の地域です。当院の医療圏人口は2万人程度です。この地域には主に透析治療を行っている有床のクリニックが一軒、二次救急を担う当院(岩内協会病院)、そして無床のクリニックが数軒あります。
先ほどの有床クリニックと当院(岩内協会病院)には臨床検査室があり、自前で検査が可能です。しかし、クリニックは多くの場合、都会でも田舎であっても、クリニック内には臨床検査室を持たずに、臨床検査会社に血液検査や尿検査などを外注しています。この地域は、札幌や小樽から遠いため、臨床検査会社は岩内町内に出張所を置き、そこに臨床検査技師と検査機械を設置して検査の受託サービスを行っていました。この地域の無床のクリニックも、その臨床検査会社の出張所に検査検体を提出し、臨床検査会社は定期の検査検体の回収と、臨時の検査にも応じていました。そのため、臨床検査室を持たない当地域のクリニックでも、検査検体を出せば定期でも臨時でも2時間程度で結果が出ていました。
コロナ以前もそうでしたが、コロナが明けてからはさらに、この医療圏の人口の減少と患者さまの通院控えなどにより、検査の受託数が著しく減少しています。また地方への出張を引き受ける臨床検査技師も臨床検査会社には不足しています。受託数の減少と人材不足のため、岩内町内に設置していた臨床検査会社の出張所が、今年の6月末で閉鎖しました。
この地域の今後の臨床検査の受託サービスの流れはどうなるのでしょう。定期の血液検査に関しては検体を臨床検査会社が回収していき、それを札幌にあるラボで検査します。そして、結果をクリニックにファックスし、後日、正式な検査結果を郵送することになります。受託サービスを受けているいくつかのクリニック全ての検査検体を回収した後に札幌へ移動するため、午前の検査であっても早くて夕方、通常は次の日に検査結果が分かることになります。事実上、今後、臨床検査室を持たないクリニックでは、検査の結果を見てその日に患者さまに医療行為を行うことが困難になります。それでも、定期的に通院されている、病状の落ち着いた患者さまに対しては、ほぼ医療サービスは低下しないと考えられます。しかし、調子の悪い患者さま、もしくは見た目は状態が良さそうであっても検査上、治療を急ぐような患者さまにとって、血液検査の結果を待っていては必要な治療を受けるまでに1日以上の遅れが出てしまいます。“臨床検査難民”ともいうべき状態といえます。
都会なら臨床検査の受託サービスに提出しても1時間もかからずにクリニックにファックスが届きます。そのため臨床検査室を設置していないクリニックにかかっても、患者さまは必要な治療が時間をおかずに受けられます。以前は、臨床検査の出張所が岩内町内に設置されていたため、この地域の患者さまもほぼ同様の医療を同じくらいの時間で受けることが可能でした。ただ、出張所が閉鎖されたため、このままだと必要な治療を受けるのに1日以上の遅れが生じる可能性が出てきました。
病診連携の役割
この地域で検査室を持つのは有床のクリニック一軒と当院(岩内協会病院)だけです。この地域では、岩内古宇郡医師会において、このことが議論され、対策をすることになりました。臨床検査会社の受託サービスに検査を依頼することで治療が遅れる可能性がある患者(例えば具合の悪い患者)さまがクリニックを受診された場合は、医師から医師への連絡なしに、簡易な診療情報提供書などで血液検査ができる仕組みを構築することにしました。検査が可能なクリニックにおいては、検査検体を提出していただければ、緊急臨床検査に応じるようにしていただきました。また、当院では、検査を目的とした受診を広くいつでも受けるように、業務を調整しました。
北海道のように、街と街の距離が離れている地域では、その地域に臨床検査会社の出張所があることで、検査の時間的なサービスの質が担保されているのだと痛感しました。出張所の閉鎖は、いろいろな地方で今後起きていくと考えます。今回の出張所閉鎖で、臨床検査に関しても病診連携は非常に重要な役割であると考えさせられました。