2025
08/06
病気や障害のある家族をケアするときの心構え
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介護
隣(となり)の介護(38)
親の介護だけではなく、きょうだいや子どもに病気や障害があり家族としてケアをしている、といった状況を抱えている人がいます。きょうだいの場合は、ケアしている親が高齢になり病気やけがで入院することもあるでしょう。お子さんの場合であれば、自分にもしものことがあったときのことを心配している人もいるかもしれません。今回は、ケアが必要なきょうだいとの関わり方、障害のある子どもを育てるということについて考えていきます。
Contents
「8050問題」を生まないために
近頃、ケアが必要なきょうだいについての介護相談が増えています。そこには「8050問題」といわれる、80代の親が、自立できない事情を抱える50代の子どもの生活を支える社会問題に直面しているケースも少なくありません。子どもの社会的孤立の長期化(ひきこもり・障害・病気・離職など原因はさまざま)と支える親の高齢化で経済的困窮に追い込まれ、周りに助けを求めることのないまま親子が共倒れになってしまう痛ましいケースが全国で相次いでいます。
親子の共依存により、どんなに切迫しても外側からは見えづらいことで、厳しい状況になるまで支援が届かないことがほとんどです。その背景には、親が子どもに対してできることは全部してあげるべきと考える責任感や愛情、「家族の中で解決するべき」という社会的価値観などあるのかもしれません。しかし、親が一生ケアを続けることは不可能です。家族の長期的ケアが日常化している場合、外部の社会的なサービスにつながりづらくなる原因にもなります。
親を説得せず地域包括支援センターへ相談
親が高齢になるまできょうだいのケアを日常的に行っている場合、病気や障害のあるきょうだいを、外部の社会的サービスへつなぐため、窓口に相談するように提案しても、受け入れてもらえないことがほとんどです。悩み考え抜いた末にたどり着いた状況を否定されたように思ってしまうからです。説得ではなく、親が元気なうちから地域包括支援センターへ相談することをお勧めします。「高齢の親が、障害のあるきょうだいと同居し日常的にケアをしている」「自分はきょうだいのケアに不安がある」などできる限り詳細に伝えましょう。相談に親の許可を取る必要はなく、親の居住地を管轄する地域包括支援センターへの電話相談も可能です。
親ときょうだいのケアが同時進行になることも
ケアが必要なきょうだいと親の介護が重なった場合、それを家族だけで支えるのは簡単ではありません。きょうだいが病気や障害を持っていたとしても、社会的な支援を受けながら、自立して暮らせるように考えることが大切ではないでしょうか。
親のようなケアをしないことに罪悪感を持つ必要はありません。直接関わることだけが、家族ができるケアとは限らないのです。厳しい言い方かもしれませんが、親自身が向き合わなければならない課題を先送りにした結果なのです。日本の福祉制度がどれほど充実していたとしても、こちらから声を上げなければきょうだいに支援は届きません。
自分には当てはまらなくても、周りに同じような状況を抱えている人がいるかもしれません。そういう場合も地域包括支援センターへの相談勧めてください。社会的価値観を見直し、誰もがそういった事に気付ける目を持つことが、「8050問題」を未然に防ぐきっかけになります。
障害のある子を育てる親は孤立しがち
一方で、親側の立場で障害のある子どもを育てている人がいます。彼らは「障害のある子の療育に、親として何ができるのか?」と悩みを持ちながらも、誰にも相談できずに孤立してしまうことがあります。
障害といっても、発達はさまざまで一人一人に必要な療育があります。自分は該当しないと考える人にも、このような悩みを抱える人がいるということを知っておいてもらいたいのです。
娘に知的な重度の障害がある
Aさんは、長女が1歳の健診で医師から「明確に発達の遅れがある」と診断されました。さまざまな支援を受けられる障害者手帳の申請を薦められます。児童相談所での診断結果でも、知的に重度障害があるということでした。Aさんは、平日は地域の発達支援サービス、土日も民間の療育センターへ通い、セミナーや関連書籍から情報収集に励みました。ただ、多くの情報を収集するほど、アドバイスに違いがあり、何が正しいのか分からなくなってしまいました。出張の多い夫に相談する時間も取れず、Aさんは悩みを解消できずにいました。「周りに同じような悩みを抱える人もいるかもしれない」と考えても、どこにいて、誰に相談していいのかも分かりません。イライラすることが増えて、子どもに当たるようになってしまいました。Aさんは自己嫌悪に襲われて、自分を責めました。それでも、やるべきことは山のようにあり、夫にも当たることが増えていきました。この悪循環の中苦しむAさんは次第に孤立を深めていきました。
まず、自分にとっての幸せを大切にする
親といえども、療育の専門家ではありません。自分の子どもが、誰かのサポートなしで生きていくことは難しいと受け入れて、障害のある子どもを育てていくことも相当な負担だと思います。愛するわが子を思ったら、「子どものためにできる限りのことをしなければ」と考えるのは当然です。働く世代の親御さんへお伝えしたいのは、「自身にとって何が幸せなことなのか」、仕事を持っているならば「まずは自分のキャリアを大切にする」ことを改めて考えていただくことです。
母親のAさんが心身ともに元気でいることが何よりも大切です。もしAさんが倒れてしまったら、全てが破綻してしまいます。子育てもケアする家族の健康と心の余裕が必要不可欠です。誰かに悩みや不安を話すだけでも、考えが整理されたり、気持ちが落ち着いたりすることもあります。
長期戦だからこそ考えること
子育ての目標の一つは「子どもを自立させること」です。障害のある子は、自立までのプロセスを親がかなり積極的に作らなければなりません。そのために必要な心構えは「子どもの療育にやりがいを持ち過ぎないこと」です。子どもの自立を妨げるだけでなく、子どものケアを手放せなくなってしまいます。結果、きょうだいのケアで取り上げた「8050問題」のような厳しい状況に陥ってしまうのです。その子にとって大切なことや療育との向き合い方、キャリアと子育ての両立、将来の不安、入居施設選びなど、一人で抱え込まず発達支援センターや相談支援員など療育の専門家に相談することをお勧めします。