2026
03/10
海外の学校で働く養護教諭~自身の経験から~
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保健
公立小学校 養護教諭
保健室ってどんな場所(8)
養護教諭は日本だけ
いわゆる「保健室の先生」である養護教諭という職は、実は日本だけの職種です。日本の「養護教諭」に当たる職は、海外では「スクールナース」と呼ばれ、看護師資格を有する者が学校でスクールナースとして働いています。しかし、日本のように保健教育に携わることはないのが一般的で、別に保健教育を担う職員が在籍していることが多いようです。
では、海外で働く養護教諭がいないか、と言われると、答えは「いる」です。それは、在外教育施設で働く養護教諭を指します。
在外教育施設とは
現在、世界には文部科学省が認定した在外教育施設が、94校:49カ国1地域(令和7年4月1日現在)にあります。中でもアジア地域に最も多く41校ほどある状況です。在外教育施設とは、海外に在留する日本人の子供のために、学校教育法(昭和22年法律第26号)に準じた教育を実施することを主たる目的として海外に設置された教育施設をいいます(※1)。
在外教育施設というのは、いわゆる日本人学校です。
日本人学校の保健室
私は、そんな日本人学校にかつて勤務していました。あくまでも、勤務していた10年ほど前のとある日本人学校の様子をご紹介します。
私が勤務していたのは、シンガポールに3つある日本人学校のうちの一つです。生徒はシンガポール全土からスクールバスで登校します。東京都23区より少し大きいといわれる土地の広さではありますが、中にはまだ暗いうちから家を出る生徒もいます。(赤道近くなので、日の出は年間通して7時頃)登下校時には学校の前の道はたくさんのスクールバスが並びます。制服はなく、Tシャツとハーフパンツで登校してくる生徒がほとんどです。給食はなく、弁当を持参するか、弁当業者から弁当を買います。
シンガポールは多民族国家ですが、公用語は英語です。ただやはり職員も他民族で、英語ばかりでなく、朝の挨拶は日本語・英語・マレー語で会う人ごとに変えます。
病気やけがの場合、多くは各家庭で契約している保険を使います。中でも学校でのけがの場合、日本では児童生徒が独立行政法人日本スポーツ振興センターの災害給付制度を利用することがほとんどですが、海外では利用できないため、民間の保険会社と契約しています。救急車を呼ぶときや学校でのけがの際の保険申請は英語でのやりとりです。保健室で使用する医薬品は、現地の日系の業者から購入することができ、ほとんど困ることはありませんでした。
日本とは違う環境ですから、健康問題も違います。例えば、ヘイズ(インドネシアで発生する野焼きによる煙害)、コブラ(毒があるコブラが生息しています)、モスキート(蚊のことですが、公衆衛生上の大きな問題となっています)などシンガポール特有の健康に関する問題があり、それらについての対応というのはかなり特徴的といえます。
授業は、基本的に日本語ですが、イマージョン教育が進んでおり、体育や家庭科は日本人教師と外国人教師により、英語で進められていました。宿泊行事である野外活動はマレーシアへ、修学旅行はタイやベトナムへ。国土が小さいので近隣の国へパスポートを持って出発します。もちろん養護教諭も引率します。
生徒たちは、卒業後は日本へ帰国し、日本の高校へ進学する生徒が多く、そのための受験勉強が早くからスタートしている印象です。そんな中、健康課題のアセスメントを実施すると、受験勉強による睡眠不足、そして放課後、直接塾へ通うために夕食がファストフードになるなど栄養の偏りが見られました。さらに身体能力は高いと考えられるものの、運動不足であるということが分かり、それらの健康課題解決のために養護教諭として、それまで開催されていなかった学校保健委員会を計画し、話し合いの活動をしたり、日系クリニックの医師を講師に招いて講演会をしていただいたりしました。他にも、日本では当たり前でも実施していないことが多く、例えば未実施であった心電図検査を現地の日系病院と連携して開始したり、生徒保健委員会を創設して活動を始めたり、保健室の外廊下に掲示板を設置してもらい、保健教育に役立てるなど、それまであまり充実していなかった学校保健の拡充を図った日々でした。
海外で働くきっかけになった「普通って?」
海外で養護教諭として働きたいと思った理由は、普通とは何だろう? 普通というのは、自分の生活している環境だけで感じていることであって、私の普通でしかない、もっと広く世界を知って本当に必要なこと、大切なことは何か知りたいと思ったことでした。併せて、それまでの自分の経験が微力ながらも、海外で生活する日本人学校の児童生徒に役立つのではないか、と考えたことが始まりでした。終わってみて、シンガポールでの日々は、ことさらに「多様性を知る」という意味において、実り多いものとなりました。お互いを知り、信頼し合い、いつしか人種の壁はなくなっていくことを実感できました。
保健指導は生き方指導である、とかつての上司に言われたことがあります。自分自身の姿勢が今後の保健教育に現れていったり、この経験そのものが一つの生き方のロールモデルとなったりすることでそれを達成していけるのではないかと思っています。そして、広い視野で物事を見ることの大切さ、とりわけ自分が思っている「普通」を疑ってみることも時には必要であることを、保健教育を通して伝えていきたいと思っています。
※1 文部科学省ホームページ https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/002/002.htm (令和7年9月26日確認)
スキルラダー研究会の概要
ウェブサイト https://skill-ladder.com/
・団体名:SLIPER(すりっぱ)
Skill Ladder for Improvement and Evaluation Running of School Health Nursing
・理念:養護教諭の能力育成を追及すると同時に、子どもやその家族、さらにその地域で暮らす人々の健康に貢献すること
・メンバー:
荒木田美香子 [川崎市立看護大学]
内山 有子 [東洋大学]
加藤 恵美 [静岡県公立小学校 養護教諭]
齋藤 朱美 [東京都立紅葉川高等学校]
芝 裕介 [宮崎県立延岡しろやま支援学校 高千穂校]
高橋 佐和子 [神奈川県立保健福祉大学]
中村 富美子 [静岡県沼津市立大岡中学校]