2025
05/02
活動の合言葉は「賢い患者になりましょう!」
2002年4月に法人化したNPO法人ささえあい医療人権センターCOMLの専務理事兼事務局長を経て、2011年8月理事長に就任。社会保障審議会医療部会をはじめとする数多くの厚生労働省審議会・検討会の委員を務めている。2018年6月20日に『賢い患者』(岩波新書)刊行。広島大学歯学部客員教授。ラジオNIKKEI「賢い患者になろう!」パーソナリティ(毎月第4金曜17:20~17:40)。
新連載:賢い患者の知識と心構え(1)
患者と医療者の“協働”
認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOML<コムル>(以下、COML)は、患者の自立と主体的な医療への参加を目指して1990年から活動してきました。スタート当時は、がん患者に病名や病状を伝えることもなく、医療機関で渡される医薬品も、名前の部分が切り取られていました。つまり、患者には情報が閉ざされていたのです。
そのような時代ですから、多くの患者は「医療のような専門性の高いことを患者が説明を受けても理解できるわけがない。先生に全てお任せするしかない」と受け身に甘んじて、半ば諦めていました。しかし、本当にそれでいいのでしょうか、と疑問を呈したのが私たちの活動の原点です。病気によっては、命や人生をも左右することがあります。そんな大切な問題を、いくら専門家といえども、全てお任せでいいのだろうか。私たち患者も、きちんと自立して、主役になって医療に参加することが大切。そのためにはまず、患者一人一人が「いのちの主人公」「からだの責任者」としての自覚を持った「賢い患者になりましょう」と呼びかけたのです。
そして、もう一つ貫いてきた信念は、患者と医療者は決して対立する立場ではないということです。本来、患者と医療者は同じ目標に向かって歩んでいるはずです。それならば二人三脚で前に進んでいく必要があります。そこで、対立ではなく“協働”することを目指してきました。キョウドウにはさまざまな漢字を使った熟語がありますが、中でも“協働”とは「同じ目標に向かって歩む立場の違う者同士が、それぞれの役割を果たし合う」という意味があると知って以来、この漢字の“協働”にこだわってきました。
賢い患者の5つの定義と新医者にかかる10箇条
超高齢社会になり、複数の慢性疾患を持つ高齢者が増えてきています。それに、がんやHIVも慢性疾患に位置付けられることが増えてきました。ということは、今や慢性疾患が患者の主流を占める時代になっているわけです。慢性疾患ということは、医療者の努力だけでは治療効果が上がりません。決められた通りに薬を服用したり、生活習慣を整えたりすることは患者自らの努力で実現します。そのような自分にできる努力を患者も理解し、積極的に医療に参加しながら治療を受けていこう。そのためには、何よりも患者と医療者のコミュニケーションを良好にすることが大切だと、活動の目的は「患者と医療者のより良いコミュニケーションの構築」と位置付け、35年間歩んできました。
その活動の合言葉として、ずっと大切にしてきたのが「賢い患者になりましょう」です。COMLで考える「賢い患者」とは、知識や情報を詰め込む頭でっかちの患者ではなく、次のような5つと定義しています。
1.病気の持ち主としての自覚
2.自分の受けたい医療を考える
3.自分がどのような医療を受けるか言語化して伝える
4.治療を受けると決めたら医療者とコミュニケーションを取って協働する
5.一人で悩まない
では、賢い患者を実践するにはどうすればいいのでしょうか。私たちCOMLでは1998年に(当時)厚生省の研究班の一員として『医者にかかる10箇条』という小冊子の作成をしました。最初は国民への無料配布分として4万冊が印刷されたのですが、3カ月で底を突き、その後は一部改定して『新 医者にかかる10箇条』として今なおCOMLから発行を続けています(1冊200円+送料)。次のような項目を1つずつ見開きで紹介し、イラストで意味を補填しています。
新 医者にかかる10箇条
あなたが“いのちの主人公・からだの責任者”
①伝えたいことはメモして準備
②対話の始まりはあいさつから
③よりよい関係づくりはあなたにも責任が
④自覚症状と病歴はあなたの伝える大切な情報
⑤これからの見通しを聞きましょう
⑥その後の変化も伝える努力を
⑦大事なことはメモをとって確認
⑧納得できないことは何度でも質問を
⑨医療にも不確実なことや限界がある
⑩治療方法を決めるのはあなたです
発表から30年近くたちますが、今なお変わらないとても基本的な患者の心構えです。受診が必要になったら一つずつ実践し、賢い患者になりましょう!!