2026
04/02
日本、東南アジアからアフリカまで、コロナ禍を経た国際医療協力のお仕事
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国際医療
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海外
海外で活躍する医療者たち(47)
歯医者さんになるとモンゴルに行ける?
――清原先生は、なぜ歯科医師、国際協力という道を選んだのですか。
清原 高校生の頃、海外に関わる仕事がしたいと考えていました。とはいえ、どんな仕事があり、どういう大学に進めば良いか分からず、資料を見るなどしていたところ、モンゴルで活動している日本人の歯科医師の記事をたまたま見つけました。歯科ユニットを中に設置した中古救急車で草原を抜け、ゲルの近くに行くと、民族衣装を着た人たちが集まってくる、というようなことが書かれており、活動の写真も掲載されていました。歯医者さんになるとモンゴルに行けるのかな、自分もこういうことがしたいな、と思って歯科医師を目指しました。
歯科医師になっても、モンゴルに行くという選択肢がほとんどないことに気が付いたのは、歯学部に入ってからです。
国際協力のキャリアがイメージできずに悩んだ時期もありましたが、海外での活動もできる「公衆衛生」という分野があることを知りました。そこで、休暇にはフィリピンやタイ・ミャンマー国境などでボランティアをするなどして、海外での活動経験を積んでいきました。
――ボランティア活動で印象に残っていることは。
清原 海外、特に低所得国と日本では「当たり前」が違うということに気付かされました。
例えば当時の現地では、歯科治療の多くは歯を抜くこと。患者さんも大したむし歯でなくても「抜いてください」と言うのです。抜歯が正しいとは言い切れないし、抜かないとしても現場で適切な治療ができるわけではない。答えがない問いを目の当たりにしていろいろ考えさせられました。
――国際医療協力局に入職した理由は。
清原 大学を卒業し、研修医を修了した後、公衆衛生を学ぶためにクイーンズランド大学 大学院に1年半留学しました。留学生活はとても充実していましたが、公衆衛生修士号取得後のキャリアが描けませんでした。いろいろな手段で調べてもピンとくる進路が見つけられず悩んでいた中で、国際医療協力局のことを知りました。国際医療協力を専門にやっている機関があることは、私にとっては目からうろこが落ちるようで、ここで働きたいと思いました。
2017年から国立国際医療センター病院の歯科・口腔外科レジデントとして勤務し、2020年4月に国際医療協力局に入職しました。
在日外国人に情報を届けるために試行錯誤
――入職された2020年4月は、COVID-19の最初の緊急事態宣言が発令されたタイミングですね。
清原 はい。どんな問題があって、何をすれば良いのか、何もかも手探りの状態で、皆さん走りながら考えて、対応するという日々でした。その中で私は、オンラインでの技術支援に携わったり、在日外国人の医療情報へのアクセスという問題に対応したりしていました。
――在日外国人の医療情報へのアクセスについて、詳しく聞かせてください。
清原 いろいろな問題を調べていく中で、日本に住んでいる外国人の方々が、コロナ関連の情報にたどり着けていないということが浮かび上がってきました。ワクチン接種の方法、症状がある場合はどこに行けば良いのか、そのとき医療費はどうなるのか、在留資格との関係はどうなのかなど、必要な情報を届けるための策を検討しました。
まず、多言語サイトの活用を考えました。当時すでにベトナム語やタイ語など英語以外の言語にも対応した情報サイトが立ち上がっていましたが、インタビューなどで調査してみると、ほとんど閲覧されていませんでした。
2つ目の策として考えたのはFacebookです。Facebook上には外国人のコミュニティーグループがあり、当時は情報源として比較的多く活用されているようでした。そこで複数のFacebookグループに動画を投稿しましたが、ほとんど閲覧されませんでした。
Facebookを調べていくと、外国人コミュニティーには登録者数が数10万人規模の巨大なグループがあることが分かりました。そこで3つ目の策としてその巨大グループへの動画投稿を試みましたが、ごく一部のグループにしか承認されず、投稿できたとしても他の投稿に埋もれてしまって視聴回数もせいぜい100~200回程度でした。
――なかなか難しいですね。
清原 はい。後にこの経験を論文にまとめましたが、当時は試行錯誤の連続でした。
結局うまく機能したのは、Facebookグループ管理者の協力を得て投稿したケースでした。当時70万人ほどの登録者がいたベトナムのFacebookグループでは、日本で生活するベトナム人の暮らしをドキュメンタリーとして公開するなどしており、ベトナム在住・日本在住の多くのベトナム人が閲覧していました。その管理者の方とつながることができ、われわれの記事をベトナム語で投稿してくれました。すると最大30万ほどの閲覧がありました。この30万は日本からだけではないので、実際どれだけの在日ベトナム人に届いたのか測ることはできませんが、少なくとも100が30万になったということは一定の効果はあったと思います。
目指したい姿と現実の課題
――その後はどのようなお仕事をしてこられたのですか。
清原 2022~2023年にかけて岡山県庁、2023~2024年にかけて厚生労働省に出向し、地方行政や国がどのような仕組みで動いているのか学んできました。その後も国際保健に関して、専門家として情報を整理し、コメントを出すなどしています。
――現在はどのような業務に携わっていますか。
清原 主に、4つの業務があります。1つ目は政策支援、2つ目は日本人を対象とした研修です。昨年11月には、3日間のグローバルヘルスベーシックコースを開催しました。これは定期的に開催している研修で、感染症、非感染症、女性と子供の健康、高齢者の健康、保健人材、UHCなど、国際医療協力の基礎を学ぶものです。
3つ目の「必須診断機器リスト作成支援事業」では、ASEAN各国における病院のレベルに応じた検査機器のリスト作成を支援しています。リストを作るといっても単純な話ではありません。理想的なリストではコストや人材の配置などが難しい場合もありますし、今できる範囲内でリストを作ってもあまり意味がありません。そこで現状と理想の間で実際のニーズに応じたリストを目指し、それに基づいて必要な検査試薬、人材、運用体制など、関係者の皆さんと継続的に議論を重ねています。
4つ目は国際展開推進事業というものです。これは日本のさまざまな医療技術や医療機器を海外に展開するというものです。

「必須診断機器リスト」作成について、会議で発言している様子
――今携わっている国際展開推進事業は。
清原 「ケニア、タンザニア、ザンビアにおけるWHO必須歯科材料を用いた口腔疾患の予防・治療技術の能力強化事業」です。対象としているのは、大きな病院ではなく地域の診療所です。歯科診療で使用する薬や詰め物などの歯科材料を適切に使えるように、研修などを行っています。
――アフリカ3カ国の口腔衛生への意識、治療はどういう状況なのでしょうか。
清原 口腔衛生に関する意識は、日本と比較するとかなり差があるのではないかと思います。私も現地で、患者さんの口の中を見せていただいたことがあります。患者さんは子どもが多いのですが、むし歯は多かったです。
治療にかかる費用については、現地にも日本の公的医療保険に近い制度があり、一部の治療は保険でカバーされます。ただ、現状でカバーされる治療は、抜歯や表面的なむし歯治療など限定されることが多いです。
アクセスや環境の問題も大きいと思います。日本の都道府県程度の広さに歯科医師は数名程度しかおらず、地域の中心部を離れると水道もない、歯ブラシを売っているマーケットもないという状況です。
――歯科医師の育成は行われているのでしょうか。
清原 そこが、われわれが直面している大きな課題です。もちろん歯科医師の育成は必要ですが、1年や2年で育つものではありません。
例えば、海外には、歯科医師でないものの簡単な処置を行える准歯科医師のような人たちがいます。歯科医師に比べて対応できる範囲は限られますが、首都から遠く離れた村の住人が、歯や口のトラブルで地域の診療所を訪れたとき、対応するのは多くの場合が准歯科医師です。
今回の研修は、そういう地域の歯科医師や准歯科医師たちが、基本的な歯科材料を使って、診断や適切な治療ができるように支援することが目的でした。
一方で、歯科医師以外の人たちが治療を行うことについては、国によって考え方が大きく異なります。これについては、国際的に共通の答えがなく、国の実情に応じて関係者の皆さんと方針を相談する必要があります。
国際協力を行うためのキャリアに決まった道はない!?
――今後はどのようなことをしていきたいですか。
清原 私たちの組織は、「グローバルヘルス」「国際医療協力」の分野におけるジェネラリストなのではないか、と私は考えています。私が歯科医師であるように、それぞれに専門性はありますが、幅広い視野で国際協力に携わるという立場で「公益のために働く」というアイデンティティーが強いと思います。
ですから私も、これまでに得たことをベースに、世のため、公益のためになることをしながら、さらに経験や知識を積み上げていきたいと思っています。
――最後に、読者にメッセージをお願いします。
清原 国際協力のためのキャリアに、決まった道はないと私は思っています。
国際医療協力の仕事は、本当に多くの人と関わります。臨床現場の医療関係者、行政の方々、大学や研究機関で研究を行っている先生方、NGOや開発援助のパートナー、国際機関など多岐にわたります。私自身、病院勤務、地方自治体や厚生労働省への出向、WHOとの連携など、いろいろな経験をさせていただいていますが、どんな経験であっても必ずどこかで国際協力につながる、と私は考えています。

WHOの会議に出席