2026

01/06

小児ワクチンの意義を再考する

  • 小児の病気

鈴木 繁
社会福祉法人聖隷福祉事業団聖隷佐倉市民病院
小児科副部長兼臨床研修センター長

小児の病気⑦

ワクチンの始まり

ワクチンの語源をご存知でしょうか? 20世紀に3億人以上の死者を出したといわれている天然痘という感染症において、医師のジェンナーは牛痘にかかった患者には天然痘は感染しないか、軽い経過で済むことを発見しました。そこで牛痘にかかった患者の膿を人間に注射(種痘)し、種痘を行うと天然痘の感染が軽減できることを証明しました。しかし牛由来の得体の知れないものを接種するなんて意味がないとか、種痘されたら牛になるなど多くのデマが飛び交い普及には至りませんでした。昔も今も正しい情報を隠蔽してしまうデマというのは恐ろしいですね。その数十年後にパストゥールが科学的にワクチンを製作し、ジェンナーが行った種痘をワクチンと命名しました。ラテン語で雌牛のことを「vacca(ワッカ)」といい、ワクチン(vaccine)の語源となりました。

さて、そのワクチンをネットで検索してみますと、「ワクチン 合併症」などマイナスイメージの言葉が最初に出てきてしまうのは少し残念ではありますが、ワクチン接種意義を再度考えたいと思います。

個人にとって正しく、有益な情報を選択することが大事

ワクチン接種により、さまざまな感染症から子どもの健康を守ることは言うまでもありません。麻疹や水痘など潜伏期間が長い感染症に対するワクチンは発症予防、コロナやインフルエンザなど潜伏期間が短い感染症は重症化予防に重点が置かれます。また小児期に感染し成人期に発症する病気(B型肝炎ウイルスによる肝硬変や肝臓がん、ヒトパピローマウイルスによる子宮頸がんなど)は、がん予防ワクチンです。肺炎球菌などは子どもがワクチン接種をすることで、成人特に高齢者への伝播も防ぎます。また新生児期に感染すると重症化するRSウイルスについては、妊娠24週から36週の妊婦にワクチンを接種することで、母体が作る抗体を胎盤から胎児に移行させ新生児のRSウイルス感染を防ぐこともできます。

ワクチンで予防できる病気のことをvaccine-preventable diseases(VPD)といいます。生後2カ月から接種する破傷風やジフテリア、百日咳、ポリオなどは、1950年代は日本においても数千から数万人の小児が命を落としていた感染症ですが、現在ではワクチン接種済の小児での死亡はゼロです。また発展途上国を中心とした小児死亡数の10~15%はVPDによるといわれています。

保護者の方の中には、「ワクチンは怖いので自然感染させて強い免疫を付けたい」とおっしゃる方もいらっしゃいます。「自然感染させて強い免疫が付く」というのは概ね正しいと思います。ただし自然感染で起こり得る後遺症や合併症は、ワクチン接種で起こり得る有害事象の比にならないほど多いのです。自然感染し結果的に何の後遺症も死亡もなく健康を保って治癒すればいいのですが、自然感染による合併症を最大限に減らして、有益な免疫を付けさせるのがワクチンの役割です。また低月齢で感染しても抗体が付きにくい感染症も、ワクチンなら十分な抗体が産生されるという事象もあります(インフルエンザ菌タイプBに対するHibワクチンなど)。よく引き合いに出される内容かも知れませんが、例えば、「飛行機は墜落が怖いから遠くても自動車で行く」としましょう。確かに飛行機事故のニュースは印象に残り恐怖をあおります。しかし統計的には自動車での死亡確率は飛行機の30倍以上であるにもかかわらず自動車事故を気にする人はほとんどいません。同様にワクチンによりアナフィラキシーが起こる確率は100万分の1程度ですが、その数百倍アナフィラキシーが発生する解熱鎮痛剤をワクチン接種後の疼痛や発熱で内服することについては何の抵抗もなく行われています。

周りのうわさやネットなどからの情報は手軽に得られますが、どの情報がその個人にとって正しく有益かを判断することが大事です。もし迷うことがあればかかりつけの小児科で聞いてみてください。個々の状態を考慮した上での正しい選択肢を一緒に考えてくれるはずです。

フォントサイズ-+=