2025

04/03

変わりつつある助産師の働き方

  • 助産師のお仕事

杉田 理恵子
東京家政大学健康科学部看護学科准教授

助産師のお仕事(2)

新年度を迎え、私が勤務している大学でも新しく助産師を目指す学生さんに向けて授業や実習が始まります。助産師を目指す学生さんは、これから卒業までの間に助産師課程の授業と実習、就職試験、卒業研究、看護師と助産師の国家試験対策などたくさんの課題に取り組むことになります。体調を整えて無事に修了されることを願います。

助産師国家試験に合格し、新しく助産師となるいわゆる新卒助産師の数は約2,000名です。それら助産師たちの就職先のほとんどが病院の産婦人科です。新卒助産師は主に産婦人科に配属され出産や新生児のケアにあたるのですが、病院によっては、すぐに産婦人科で勤務するのではなく一般の病棟やNICU(未熟児集中治療室)で看護師としての経験を積んでから産婦人科に配属されるという場合もあります。少子化によって産科病棟が産科以外の患者を受け入れる混合病棟になるケースも多く、産科病棟に配属されても内科や外科の入院患者さんのケアにあたるなど、助産師の働き方も変わってきています。

出産する場所の変化とともに就業場所も変わる

国内で実際に勤務している助産師がどれくらいかご存知でしょうか。

令和4年度の助産師の総数は3万8,063人で、助産師数は少しずつですが年々増加傾向にあります。ちなみに看護師の就業者数は131万1,687人で保健師が6万299人ですので、助産師は看護職の中では最も少ない職種となります。

助産師の数を就業場所別に見てみると、最も多いのが病院64.2%、次いで診療所22.1%、助産所5.8%、その他には保健所や市区町村、看護師等学校養成所などがあります。助産師が最も多く働く場所は病院・診療所であることが分かります。

明治期に定められた助産師(当時は産婆)の資格制度において、助産師の人数が最も多かったのは、昭和25(1950)年で7万4,832人、当時の出生数は230万人を超え出生率は3.65でした。当時の主な出産の場所は自宅でしたので、助産師(当時は助産婦)はお産のたびに家から家へと駆けつけては出産を介助する忙しい時代だったようです。

少子化が長引く現代では、出生率は低下の一途をたどっています。令和4(2022)年の出生数は77万759人で前年度より約4万人減少し、出生率は1.26、令和5(2021)年ではさらに低下し1.20と過去最低の水準を更新し続けています。

令和3年度 厚生労働省政策統括官人口動態統計によると、病院で生まれることが当たり前の現代では、病院や診療所で生まれた新生児は76万9,548人、助産所4,055人、その他(自宅など)1,211人であり、99.8%が病院や診療所、0.5%が助産所、0.15%が自宅などで生まれています。

病院、診療所、助産所の連携

病院と診療所、何が違うの? と思われる方もいらっしゃるかもしれませんのでここで少し説明しておきましょう。

●診療所;入院施設がない、または19人以下の入院施設を有する場所をさしますので、地域で親しまれている産婦人科やレディースクリニックなどなどをイメージしていただくと分かりやすいですね。このように示すと「単に規模の違いか」と捉えがちですが、規模の違いは雇用できる人材や設備などに制限があることで、提供できる医療の質も異なってきます。診療所で出産する際に、緊急の対応が必要になった時にはより高度な医療を施すことができる医療センターや大学病院に搬送することも少なくありません。

少子化によって産科を標ぼうする医療施設が少なくなる中で、安全に出産するためには病院や診療所、助産所などが連携して出産と子育ての環境を整備することが重要になっています。

●助産所;身近に助産所で出産した方がいない限りイメージしにくいのではないかと思われますがいかがでしょうか。

助産所は、正常な経過に限るのですが、助産師が主体となって妊娠中の健診や保健指導、出産を介助します。助産師は妊娠や出産の経過を見て、万一、異常に移行することが予測される際には、連携する医療機関の産科医師に連絡して、診療や出産の介助を医療施設へ引き継ぎを行います。

助産所は妊婦、産婦、褥婦10人以上の入所施設を有してはならないという規定があります。助産所は、診療所よりさらに規模も小さく雇用できる人材や施設に限界があるため、より豊富な知識や技術と、出産する女性と家族の状況、地域の医療資源などを統合して判断する力が求められています。自宅や助産所で出産したいと願う女性の数は少数かもしれませんが、その意思決定を支えることは何より助産師の重要な仕事の一つです。以前、助産師に馴染みがない人に、助産師の仕事について説明した際に「助産師という職種は絶滅危惧種のようだね」と言われたことがあります。私自身がそのように思っていなかったため、その時はとても衝撃を受けましたが、今ではその言葉も納得できるものになってしまいました。

安全な出産環境を確保するために

助産師の数は昭和25(1950)年をピークになりましたがその後、漸減しながら平成6(1995)年に2万2,690人と最小値になります。当時の出生数は120万8,989人、出生率は1.5で少子化の留まりはないことが明らかになった時期でもあります。助産師数は出生数に伴い減少を続けましたが、同様に産科医師や分娩を取り扱う病院や診療所が減少し、出産する場所を確保できないなど、社会問題にもなった時期です。安全な出産環境を確保するために助産師の活用が検討され始め、徐々に助産師数は増えていきました。出生数は70万人を下回る一方、3万人を超える助産師が働く現代社会は、安全な出産環境を確保することが出来るようになったのでしょうか。

助産師の働く場所を地域別に見た数値を見てみるとその答えが分かるかと思います。人口10万人当たりの助産師数を見てみると、多い順は、島根50.8、鳥取45.2、長野43.2となっており、少ない順では埼玉22.0、愛媛22.1、千葉25.6となっています。人口が最も多い東京都は29.8であり、全国平均の30.5と比較するとやや少ないですが平均に近い値であるといえます。

東京家政大学の健康科学部のある埼玉県は首都圏に近い場所なのになぜ最下位なのでしょうか。埼玉県は、保健師数も下位3番目、看護師数ではワースト1位に位置付けられています。この背景の一つには埼玉県の人口増加(※1)があります。

人口増加が続く中で、病院や診療所を増やすことは財政的な問題だけでなくヒトやモノの確保が必要です。

埼玉県は東京に隣接し、通勤・通学などの利便性が高いことから、医療職者も東京へと流出する傾向にあります。新卒助産師も東京都と埼玉県での給与の差や、規模の大きい病院や大学病院などでのキャリアを希望など、東京での勤務を選ぶ傾向にあります。さまざまな要因により埼玉県は助産師数(それ以外の職種も)が少ない状況が続いています。少子化によって少なくなった産科医療施設を増やすことは一筋縄ではいかない、難しい問題になっています。

子どもを産み育てたいと思う人のそばに寄り添う、助産師の活用が期待されるところです。

 

■参考データ

※1;昭和35(1960)年の埼玉県の人口は242万3,188人、令和4(2022)年には733万6,455人であり、この間に人口は202.76%増加したことになります。同じ期間の人口の変化を見てみると東京都では、昭和35(1965)年968万3,002人、令和4(2022)年1,404万732人であることから、増加率は44.97%になります。

また、人口増加率を全国的に見てみると平均は約125.4%、高い順に沖縄で約300%以上、千葉県約180%、神奈川県118%であることから見ても埼玉県の人口増加率は沖縄に次いで2番目で、非常に高いことが分かります。

 

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