2025

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地方小規模病院の感染治療マネージメント

  • 地域医療

  • 北海道

横山 和之
北海道社会事業協会 岩内病院 院長

地域医療・北海道(58)

~細菌検査室がないデメリットをどう解決するか~

地方の小規模病院の現状

私が仕事をしている北海道社会事業協会岩内病院(岩内協会病院)は、世界的なリゾート地である北海道倶知安ニセコ地域の海側(日本海側)に位置しています。そこは3万人程度の医療圏であり、その診療圏には一次・二次救急を担う病院は、岩内協会病院しかありません。当院のような地方の小規模病院では、臨床検査技師が少ないことと、細菌検査の検査数が少ないために、細菌検査を院内ですることが困難です。そのため、細菌検査を全て臨床検査会社に外注していることが多いです。もちろん、岩内協会病院も細菌検査室は無く、院外の臨床検査会社に外注しています。

病院の細菌検査とは、どういうものでしょう。患者さんは、自身の体表、口、お腹の中や、さらに生活環境の至る所に、いろいろな細菌や真菌を持っています。患者さんが感染症を疑われる場合は、感染症の原因である菌(起因菌)を見つけ、それに合わせて治療を適切に行わなければなりません。細菌検査とは、患者さんから提出された検査材料(喀痰、尿、便、血液、膿、分泌物、穿刺液など)から、その病気の原因となっている起因菌を見つけて、その菌にどんな薬が効くのかを調べることです。

細菌検査室が院内にあれば、感染症を疑う患者さんがいる場合に、いつでもすぐに細菌検査を提出でき、結果もすぐに分かります。そのため、細菌検査を外注するのに比べ、感染症の起因菌を早く知ることができ、起因菌に合わせた治療を早く開始できます。つまり、細菌検査室が院内にないと、それが院内にある場合と比べて起因菌の同定が遅くなるということです。

感染症の治療についてあまり知らない方々は、起因菌の同定が遅れると、感染症の治療が遅れるのではないかと心配すると思います。でも実は、多くはそういうことにはなりませんし、ならないように工夫することで、感染症の治療は遅れることなく適切に施行できます。

細菌結果を早く出す工夫⁉

感染症の治療は、実際どういうふうに行われているのでしょうか。例として、外来に肺炎疑いの患者さんが来院してきた時の流れを考えます。

①外来受付:外来に患者さんが来て受付を行います。患者さん家族や施設職員が一緒の場合もあります。
②予診:新患の場合は、予診票を渡し、記入してもらいます。
③診察:診察の前に検査する場合もありますが、検査の前に診察を行います。
④検査:肺炎を疑えば、血液検査、画像検査を行います。
⑤肺炎の診断:細菌性肺炎の診断となれば、多くの場合当院では患者さんが高齢のため、入院の上、治療となります。
⑥細菌検査の提出:抗生剤投与前に喀痰、血液の細菌検査を提出します。

検査から治療の流れは上記のようになっています。治療で大事なところは、細菌検査は提出しますが、細菌検査の結果を待たずに、抗生剤投与などの肺炎治療はすぐに開始するというところです。そうなんです、起因菌の同定を待つことなく治療が開始されるのです。細菌検査のあるなしにかかわらず、治療はすぐに開始されます。つまり、細菌検査室がない病院でも診察が遅れなければ、治療が遅れることはないということです。この治療の流れから分かるように、感染症の治療は起因菌の同定の前から起因菌を予想して開始されます。多くの場合、その予想は当たっていて、適切な抗生剤が投与されています。しかし、患者さんによっては、一般的に認められる起因菌ではない菌(例えば抗生剤の効きにくい耐性菌と呼ばれるものなど)によって感染症となっていることがあります。その場合は、予想で使用を開始した抗生剤が効果がなかったり効果が不十分だったりしています。その時初めて、細菌検査の結果が治療に反映されます。

細菌検査を外注していると、外注の検体の回収時間が決まっているために、土日や平日の夜間を含めて細菌検査をすぐに出すことができません。そのため、院内に細菌検査室がある場合より、検査結果が遅れるということになります。細菌検査を出してから結果が出るまでは、外注している限り時間がかかります。では、細菌検査を提出することそのものを早くしたら、当然結果は早く出ます。

それでは、細菌検査を早く出すにはどうしたら良いでしょうか? 細菌検査を早く提出するためには、患者さんを診察するのが少しでも早ければ良いと思います。外来なら患者さんが病院に早く来院するようにする。入院患者さんなら感染兆候を早く見つけられるようにするということです。

感染治療・感染対策を担う医療従事者の不足と、院内での細菌検査ができないタイムロスをどうマネージメントするかが小規模病院での課題です。外来患者さんが具合が悪ければすぐに受診できるような病院の体制づくりと、入院患者さんの感染兆候を早くに見つけられるような職員教育をすることで、細菌検査室がないデメリットを少しでも減らすようにしていかなければならないと思っています。

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