2025

06/04

在宅医療と睡眠

  • 在宅医療

四街道まごころクリニック
院長
梅野 福太郎

在宅医療(8)

ケース1:Aさん(92歳・男性)

よく寝られないので、睡眠薬をくださいとのこと。
話をよく聞くと、18時に床につき、朝2時位に起きるがやることがないのでもっと寝たいという訴え。生活リズムを見直し、夜の就寝時間を2時間ずらし20時に就寝することで、朝5時起床となった。

ケース2:Bさん(78歳・男性)

不眠の訴えで睡眠薬を希望された。寝ている間に4~5回排尿で起きるとのこと。元々脳卒中の既往があり、水分をこまめに取るようにしていた。またお茶が好きで夕方以降もこまめに飲んでいた。夕方以降は水分量を抑え、またお茶をカフェインフリーに変えるなど生活指導を行い、前立腺肥大症に対して投薬開始。夜間の排尿は2~3回に減少と改善した。

今回は、AさんとBさんのような在宅医療でよく見られる不眠について考えたいと思います。

不眠症とは

不眠症とは、入眠障害・中途覚醒・早朝覚醒・熟眠障害などの睡眠問題が1カ月以上続き、日中に倦怠感・意欲低下・集中力低下・食欲低下などの不調が出現する病気とされており、次の3つのタイプに分類されます。

①入眠困難⇒緊張、不安、体内時計のずれ、騒音環境、かゆみ、痛み、心配、足むずむず症候群
②中途覚醒⇒アルコール摂取、夜間頻尿、睡眠時無呼吸症候群、痛み、ストレス、うつ
③早朝覚醒⇒うつ、高齢、体内時計のずれ

年齢ごとに睡眠時間の平均は異なり、小学生は9~10時間、中学生や高校生は平均6~7時間となり、歳を重ねるごとに睡眠時間が短くなります。そして、65歳以上では5時間程度ともいわれています。

また、睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠に分かれますが、深い睡眠は年齢とともに短くなっていくとされています。

夜間頻尿による不眠

在宅医療でよく遭遇する相談は、冒頭のAさんやBさんのような夜間頻尿による不眠の訴えです。

トイレに行くたびに起きるため、睡眠時間が削られてしまい、頭がぼーっとしていると移動時に転倒の危険もあります。私たちは夜間頻尿の症状がある人には、適切な対策を取るようお話しています。夜間頻尿の原因を大きく分けると、次の2つになります。

①膀胱蓄尿障害(膀胱内に尿を貯められない)
②多尿、夜間多尿 

また、夜間頻尿は上記の障害や多尿などの症状がオーバーラップすることでなることも分かりました。

夜間頻尿はこの2つがいずれか、もしくはいずれもが影響して生じるため、対策するにはその見極めが必要となってきます。

膀胱畜尿障害を引き起こす主な病気として、男性は前立腺肥大症、女性は過活動膀胱が多いです。これらの病気は適切に投薬で対処したいところですが、効果は限定的です。投薬のみでは一晩に4~5回、行っていたトイレの回数を3~4回に改善する程度と認識した方が良いでしょう。

夜間頻尿で意外と多い症状は夜間多尿です。事あるごとに「水分をしっかり取りましょう」と説明を受けているからか、過剰に水分を取る、またはコーヒーやお茶などカフェイン入り飲料を夕方以降も取ることによって夜の多尿・頻尿につながることがあります。もちろん水分摂取は大切ですが、何事も“過ぎたるはなお及ばざるが如し”。適量の水分量を決めていきたいところです。

また、いろいろな疾患や生活様式により夕方に足が浮腫み、夜に寝る(臥位)ことで足にたまった水分が体を駆け巡り頻尿につながることもあります。夕方前の散歩やストレッチ、下肢挙上、さらに弾性ストッキングなども効果的なことがあります。

私は不眠で悩まれている人には、次の生活指導を行っています。

1. 就寝前の飲水を控える
2. 就寝前 3~4時間のアルコールやカフェイン類(コーヒー、紅茶、日本茶、炭酸飲料など)は避ける
3. 就寝前1時間、中途覚醒時の喫煙は避ける
4. 就寝1時間前から部屋の照明を暗くして、音楽、香り(アロマ)などリラックスできるような環境をつくる
5. 昼間に光を浴びる (交感神経刺激による覚醒作用、夜間のメラトニン分泌量増加)
6. 朝一定の時刻に起床する
7. 規則正しい食事習慣、特に朝食が重要
8. 入床1~2時間前に入浴 (40~41℃で約20分間) する、あるいは足浴 (40℃で約20分間)
9. 昼食後に約30分の昼寝を行う (午後3時以降は行わない)
10. 夕方に軽い運動を行う

生活のリズムを見直したにもかかわらず、生活に支障を来す不眠がある場合は、睡眠薬を利用するのも1つだと思います。そのような場合は、かかりつけの先生にご相談ください。以前から不眠症の人によく処方されているベンゾジアゼピン系のお薬(睡眠薬)は、睡眠作用だけでなく、何らかのふらつきや転倒、翌日に効果の持ち越し、認知機能低下、健忘、せん妄を誘発するリスクもあるので、慎重に利用したいところです。最近は副作用の少ない薬(メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬)があるので、詳しくはかかりつけの先生にご相談してみてください。

まとめ

不眠は普段の生活の質を下げる大敵ですが、まずはお薬に頼る前に普段の生活の見直しを図ってみてください。また寝られない、もしくは途中で起きても生活に大きく支障を来さないなら、「まぁしょうがない」と受け止める発想の転換も大切になるでしょう。

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