2025

07/03

助産師の仕事とコア・コンピテンシー

  • 助産師のお仕事

杉田 理恵子
東京家政大学健康科学部看護学科准教授

助産師のお仕事(3)

助産師の仕事といえば、出産時の介助や産後の新生児の沐浴など妊娠や出産に関する仕事をイメージする方がほとんどだと思いますが、それ以外にもさまざまな仕事をしています。思春期の性教育や更年期の健康相談など性と生殖に関わる健康相談も含まれており、女性の生涯健康をサポートする役割も担っています。このように期間としても、内容的にも幅広い仕事を行う助産師には、医療行為にとどまらず、コミュニケーション、教育方法、社会制度や法律を理解して対象に情報提供する能力などが必要になります。今回は、助産師のコア・コンピテンシー(中心的能力)と期待される役割について焦点を当てて助産師の仕事を説明したいと思います。

4つの基本能力

コア・コンピテンシーとは、職務を遂行する上で必要不可欠な基本能力のことを指します。助産師については、職能団体である日本助産師会が『助産師のコア・コンピテンシー』として以下4つの能力を挙げています。

1.倫理的感応力
2.マタニティーケア能力
3.ウィメンズヘルスケア能力
4.専門的自律能力

これら4つの能力にはそれぞれ説明文が付けられているのですが、文字をたどっただけではどういうことなのかが分かりにくく少し解説が必要です。ちなみに、日本の『助産師のコア・コンピテンシー』は、世界の助産師が加盟する国際助産師連盟が提言した『助産師の声明』の「助産師の倫理要綱」などを底本にして策定されました。

倫理的感応力って?

「助産師は、対象の一人ひとりを尊重し、そのニーズに対して倫理的に応答する」これは日本助産師会が倫理的感応力について付している文です。倫理的感応力という言葉は聞き慣れないかもしれませんね。まず倫理的とは、人として守るべき社会の秩序や規範などに関すること、また感応とは、「外界からの刺激によって心が深く感じ動くこと(大辞泉・第2版/松村 明【監修】/小学館大辞泉編集部【編】)」とあるので「感応力」となればその力となります。これらを踏まえれば倫理的感応力とは、倫理的な出来事や対象に対して心や身体が反応する力のことを意味しているのだと分かります。

では、助産師に求められる倫理的感能力とはどういうことなのでしょうか。助産師の対象は女性とその家族です。その対象に生じる出来事の中で助産師が関わるものは、妊娠や出産、子育てだけでなく、思春期に経験する二次性徴や、更年期の心身の変化などさまざまであり、関わる期間も生涯にわたります。助産師はこれらの出来事と期間において倫理的に対応する力が必要だということです。

妊娠・出産に際して、適切な助産ケアや必要な医療を受けられることは、安全な出産を行うために重要です。それが女性やその家族の人種、社会的地位、ジェンダー、性的思考や性自認などを理由に助産ケアや医療の提供を制限されたりすることがあってはなりません。このような状況に際して、差別を設けることなく平等にケアを提供するために実践する力が助産師の倫理的感応力に該当します。

一人ひとりの対象に平等にケアを提供することはとても難しいことのように思われがちですが、例えば個人や家族のプライバシーを保護するために情報を管理し、対象に有益な情報を提供することが意思決定を支え平等なケアの提供につながります。このような1つ1つのケアの積み重ねは、対象の知る権利や自己決定権を尊重し女性と家族の命や尊厳を守ることへと発展します。

一人の助産師の能力には限界がありますが、対象を支援するために助産師同士がつながり互いに情報を共有することで助産ケアを厚くすることができます。また、多職種と連携することにより対象にとってより良いサポートやケアを受けることが可能になります。助産師の倫理的感応力とは、対象にはもちろん、助産師自身にとっては社会的信頼を保持することにもなり大変有益なことであると言えます。

2つ目のコンピテンシーであるマタニティーケア能力は、妊娠期から子育て期における助産ケア能力について、3つ目のウィメンズヘルスケア能力は、女性の生涯を見通した健康支援に関する能力を挙げています。マタニティーケア能力とは、まさに安全な出産と出産後の女性の健康を保持増進するために必要な能力です。この能力には陣痛が始まり無事に分娩が終了するまでの医療技術だけでなく、妊娠期を快適に過ごすための健康教育や子育て準備に関する情報提供、沐浴の練習や授乳の支援などがあります。助産師は順調な経過をたどる妊産婦さんだけでなく、緊急時の対応や出産に至らなかった場合に対象へのサポートを行います。この際の助産ケアももちろんマタニティーケア能力に含まれています。

ウィメンズヘルスケア能力は、女性の生涯健康を支援する際に必要な能力です。思春期の保健や性教育に関すること、更年期の変化と快適な日常生活を送るための支援や、セクシュアリティーやDVに対する支援がこの能力に含まれています。

そして4つ目の専門的自律能力ですが、これは対象により良いケアを提供できるように助産師が社会的な活動を通して専門性を発展させる能力です。対象により良いケアを提供するためには、実践したケアを適切に評価することが重要です。特に第三者からの客観的な評価は助産ケアの向上に欠かせません。実践して評価を受けて研究するというサイクルを重ねることで助産ケアが磨かれていきます。このように見てみると専門的自律能力は、1~3の能力と深くつながり全体の能力を高めていく上でも重要であることが分かります。

助産師を目指す方へ

助産師のコア・コンピテンシーは学生としての学習や実習を通して、また免許取得後に就職して実際の助産活動を通して段階的に習得するものです。助産師になる前からこれらの能力を持っていないと助産師に向いていないという意味ではありません。それでも女性の健康や人権などについて日頃から関心を持っていられると助産師になった時に、より働き方や自分のキャリアも具体的に考えられるようになるのではないかと感じます。助産師の仕事は、少子化社会においてますます重要性を増しています。それは科学技術の発展による医療の高度化に医療従事者として貢献するということだけでなく、変化する社会において女性とその家族が健康な生活が送れるように寄り添うためでもあります。今回ご紹介した助産師のコア・コンピテンシーを通じて助産師の多岐にわたる仕事と能力について知っていただき、女性とその家族に寄り添うプロフェッショナルである助産師を目指していただけたら幸いです。

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