2026

04/02

介護のために親と同居する際の注意点

  • 介護

川内 潤
NPO法人となりのかいご・代表理事

隣(となり)の介護(42)

帰省時などに親の老いを感じ、「同居」の文字が頭をよぎった方もいらっしゃるかもしれません。また、定年や早期退職を機に近居・同居を考えているという方からの介護相談も少なくありません。そこで、今回は「介護のために親と同居をすること」について事例を下に、注意点をお伝えします。

●ケース1:一人暮らしとなった父親との同居

Aさんの母親が急逝し、一人暮らしとなった父親にAさんの家での同居を提案すると、父親も娘や孫と暮らせることを喜びました。

父親は人付き合いには消極的で、慣れ親しんだ土地を離れてからは家に閉じこもるようになりました。言動もネガティブになり、食欲も落ちている様子に、Aさんは病院で診てもらうことを勧めますが、父親は応じません。

そのうちに、父親は食事を食べたことを忘れたり、財布や眼鏡などの探し物を頻繁にしたりするようになっていきました。不安を感じたAさんは父親の側にいてサポートをする必要があると判断して、仕事をテレワークに切り替えました。

仕事に加えて父親のサポートもしなければならない状態に、Aさんは疲弊し、介護サービスの利用も提案するも、父親は受け入れてくれません。父親との喧嘩も増えてきました。父親のために頑張っているのに、どんどん関係性が悪化していきます。父親をどうサポートしたらいいのか分からなくなり、Aさんは肉体的にも精神的にも負担を感じるようになってしまいました。

★ケース1の対処法:同居しても安心にはつながらない

Aさんのように、家族として近くにいて何とかしてあげたいと考えるのは当然のことです。それでも「将来、親に介護が必要になるだろうから、面倒を見るために同居をしよう」といった“介護を理由とした同居”はお勧めできません。家族が親の介護に関わるつもりで同居をすると、Aさんのように関係性を悪くする要因になるからです。

Aさんの父親のように「無気力」となってしまうのは、Aさんのサポート体制に原因があります。父親がまだできることを奪ってしまったり、無意識に父親の尊厳をないがしろにしたりしている場合があります。近くにいて見守られるから「何かあった時に安心」と同居を決めても、安心が手に入らないどころか、一番大切にしたい「良好な親子関係」を損なうことになりかねないのです。

今は医療が進み、何かあった場合でも命をつなぎ止められるケースも増えてきました。ただ、そこで考えていただきたいのが“何かあったときに気付くことが親の幸せにつながるのか”ということです。

たとえ体のあちこちが痛んだり、歩くのに杖が必要になったりしても、自分の足で歩き、食事を食べ、毎日を過ごす中、ピンピンコロリと亡くなることは理想的とも考えられています。子どもの立場では、親には長生きをしていてほしいと願うものですが、それでも「親自身の幸せとは何か」を考えることが必要なのではないでしょうか。

●ケース2:定年を機に地元へ移住したBさん

これまで親の面倒を見てこなかったBさんは、「定年後は親の面倒を見ながら暮らしたい」と妻に相談。意外にも好感触で定年後に故郷へ移住することになりました。

移住後、父親が脳出血になり、右半身に麻痺が残りました。入院経験のない80代半ばの父親は「早く退院させてくれ」と繰り返し訴えます。母親も「家で看病したい」と言い、Bさんは父親の介護をすることになりました。

父親の介護は、想像よりもはるかに大変で、利き手が動かないために食事の全てに介助が必要です。入浴をシャワーだけで済ませると、「湯舟に浸からせろ!」と声を荒げます。夜間は3~4回、Bさんと母親が交代でトイレに連れていきます。

忙しい仕事にも耐えてきたBさんでも父親の介護に疲れ果て、母親にヘルパーの導入を相談。しかし「他人を家に入れたくない」と拒否されます。Bさんは、父親に声を荒げることが増えていきました。

●ケース3:認知症の母親のために早期退職したCさん

Cさんの母親は、「お父さんがいない」と亡くなった父親について同じ質問を繰り返します。心配したCさんは、帰省する頻度を高めて物忘れが進まないように、なるべく話しかけるようにしました。

ある日の夜中「お母さまを交番で保護しています」と警察から電話が入りました。深夜にスーパーへ出かけて、道に迷ったのです。その後も同じようなことが何度も起きたため、Cさんは早期退職を選択しました。

実家に戻ったCさんは「今度はこれが自分の仕事だ」と、母親の介護に取り組みます。しかし、母親は食後に食事を作り始めたり、夜中でも外へ行こうとしたりします。母親から目が離せなくなったCさんは、疲れ果て「こっちの言うことを聞いてくれよ!」と、怒鳴ってしまいました。

★ケース2、3の対処法:仕事を家族介護に置き換えるのは難しい

定年後や早期退職をして、親のサポートをする前に「本当に家族でサポートするのが親のためになるのか?」と、一度、具体的にイメージしていただきたいのです。離れて生活していた時間が長ければ、それぞれの生活習慣は大きく異なっています。また、家族介護で仕事のような充実感や達成感を得られることは、ほとんどありません。

家族だからといって、老いていく親の生活に責任を取ることが、本当に必要なのでしょうか。責任を家族だけで取ろうとすると、「勝手に一人で出かけるな」などと親の生活を制限する結果になってしまいます。同居で老いた親の生活の“解像度”が上がれば、できていないことばかりが目につき、介護タスクは無尽蔵に増えていきます。

介護サービスに頼ろうとしても、Bさんの母親のように拒否されたり、Cさんのように頼む余裕すら失ってしまったりすることもあります。いずれのケースも、親が元気なうちから地域包括支援センターに電話して「いざ介護が必要となったら、この地域ではどのようにサポートしてもらえるのか」と相談しておくことが必要でした。

Bさんには、「右半身麻痺の方を家族だけで介護するのは、非常に危険な選択です。リハビリをして自宅での介護体制を整えてから退院しましょう」と提案してもらえるでしょう。

Cさんには、「お母さまが自宅に帰れなくなった時のために見守りネットワークや自治体が貸し出しているGPS端末を活用して、ゆるやかな見守りをしながら介護サービスを導入していきましょう」と適切なアドバイスがしてもらえます。

親の介護の目指すべき目的は「親が要介護になっても、穏やかで継続性のある生活をすること」であると考えています。同居により親との距離感が急激に縮まり、親の老いを間近で見続けても適切な距離感を維持できるか、改めて考えていただければと思います。

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