2026
02/12
ストレスは生きるための必需品~上手に付き合う方法とは~
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メンタルヘルス
博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て、立正大学心理学部名誉教授、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。
よしこ先生のメンタルヘルス(79)
良いことは褒め、悪いことはスルーする
精神科外来あるあるを尋ねると、「どうですか」「いかがですか」と医師から尋ねられて、つい「ボチボチです」「大丈夫です」と答えてしまう話が出てきます。私の外来では、100円ショップで買った、花のラインの付いた小さなメッセージカードに、その日の診察のメッセージをお書きすることがしばしばあります。一番よく書くメッセージは、お子さんの行動化に悩んでいるご両親、パートナーや同僚の行動に悩んでいる方に、「良いことは褒める、悪いことはスルーする」とお書きします。皆さんは、「え! 先生、そんなことをしたら、つけあがるだけじゃないですか」とおっしゃいます。しかし、良いことを褒めているうちに、不思議と悪いことが減っていきます。
実はこの「良いことは褒める、悪いことはスルーする」ことは、応用行動分析の「分化強化技法」に基づいています。分化強化というのは、望ましい行動に対しては正の強化(褒める、注目する)、問題行動に対しては消去(注目、反応という強化を与えない)する方法のことで、行動修正の強力な技法の一つです。
患者さんには、「過去の悪いことは変えられないからスルーしちゃおう、未来に起こるかもしれない悪いことは早く思い付いて良かった、と考えれば、対処法を考えられるじゃない?」と伝えます。たいていの患者さんは笑い出し、「それは気楽で良い」と言います。
ストレスが強い時ほど、もっと頑張れ、これじゃだめだ、あの時のあれが良くなかった、と思いがちです。実はストレスは、生きるための必需品です。本来、危険を察知したり、集中力を高めたりするという役割があります。問題なのは、強く大きなストレスが長く続くことです。今回のメンタルヘルスでコラムは、ストレスとの上手な付き合い方、ストレスへのセルフケア、助けを求めるべきサイン、この3つをお伝えします。
ストレスのサインと対処法
ストレスは心の悩みとして知られていますが、気付くのはむしろ身体のサインです。肩が凝ったり、頭痛がしたり、胃がむかついたり、眠れなかったりしたら、これはストレスのサインですね。ミスのなかった部下にミスが増えたり、同僚が遅刻したり休みがちになったら、これは行動に現れたストレスのサインかもしれません。これらのサインをご自身でキャッチしたら、ちょっとストレスが多過ぎるかもしれないと、思ってみましょう。
この気付きがセルフケアの第一歩です。体や行動にさまざまなサインが出た時に、「今のストレス度はどの程度かな」と「100点で言ったら何点くらいかな」と自分で考えてみましょう。数字にするだけで、意外と客観視できるものです。
先ほど、身体に出ることや、行動に出ること、についてお伝えしました。対処法もまた身体や形から入るのが一番分かりやすいかもしれません。呼吸法とか、リラクゼーションとか、タッピングがあります。深呼吸をゆっくり3回してみましょう。この時に、少し吐く息を長くしてみましょう。あるいは、肩をギューッと精一杯上げたら、ストンと落としてみましょう。これは筋弛緩法と言います。肩や首をゆっくりと回すだけでも効果があります。ストレスはため込むほど強く感じるものですから、今悩んでいることを書き出したりすることも効果があるかもしれません。
あなたの大切な人が「疲れた」「自分はだめだ」とおっしゃったときには、何と伝えますか? 「よくやっている」「疲れて当たり前の状態だよね」と言いませんか? ぜひ自分の良いところは褒め、悪いことは今気が付いて良かった、と考えてみましょう。
そんな風に考えても、もしもあなたが2週間以上眠れず、食べられず、仕事にも行きにくかったら、それは誰かに助けを求める時かもしれません。メンタルクリニックを受診しましょう、は少し手前味噌ですが……。
ストレスと戦うのではなく、上手に付き合う方法を覚えるのが大事です。助けを求めるのは弱さではなく、自分を守る力です。「自分が悩んでいることを友人が訴えたら、どう答えるのかを考える」のは視点を変え、ストレスを冷静に見ることができる一つの方法になります。ストレスに気付き、訴える人に理論に基づいた方法を、やさしい言葉で伝えるのが精神科医の役割かもしれません。精神科受診の増加はあながち悪いことではないかもしれません。皆さまのストレスが軽くなるきっかけになれば幸いです。