2025
04/10
どうなる? これからの医療制度
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メンタルヘルス
博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職日本外来臨床精神医学会理事、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。
よしこ先生のメンタルヘルス(75)
転換点を迎えた日本の医療制度⁉
前回の診療報酬改定から、約1年弱経過しました。「今年度診療報酬改定が示唆するもの」(DRP ウェブコラム2025年2月公開)でお伝えしたとおり、昨年6月の診療報酬改定は、国民全体に対して、「その病気は医療に罹る病気ですか? 自己管理するものですか?」と問いかけられた改定でした。今回、国会で大きな議論となった高額療養費の自己負担金引き上げも、この国の医療制度の大きな転換点の中で、提案されたもののように思われました。つまり、その高額な医療は国民全体で負担するものですか、自己負担ですか、という問いかけではなかったでしょうか。医療者としては、その人の命が懸かっているお金を、国民が待ったをかけているのだというのではないように感じました。
これからの日本社会の医療制度はどうなっていくのでしょう。最もシンプルに人口から見てみましょう。現在(2024年9月時点)の高齢者3,625万人の平均寿命を考えると、20年後には人口は約2/3になっているでしょう。医療を必要とする人たちも、それにつれて減少していくと考えるのが自然です。医療ニードも2/3に縮小していくでしょう。実際には、従来であれば長い入院が必要であったさまざまな疾患や手術なども、医療の進歩により、外来での治療あるいは短期間の入院で治療できるようになっています。病床数に関して言うと、30%減どころか半減でいいのかもしれません。実際30年前には、術前、手術、術後の安静と合わせて1週間程度の入院が必要であった白内障手術も、今や、多くの人たちが日帰り手術で受療しています。がん治療なども著名な病院の入院期間の目安を見てみると、長くても3週間以内です。入院日数が減れば、当然のことですが、1つのベッドに入院できる人が増えますね。病床縮小が進まざるを得ません。一般科の病床縮小が進んでいる中で、精神科病床は遅々として縮小が進んでいないといわれていますが、そこは誤解かもしれません。かつて入院患者の中心を占めた統合失調症患者は減少し、認知症による入院患者が増えています。つまり精神科病床というより、老化による自然な状態を自宅ではなく、病院で診ている状態ともいえます。これもまた、そのケアは、国民全体で負担するものですか、という問いかけにつながるものかもしれません。
日本の医療の特徴は国民皆保険、フリーアクセス、現物給付(医療の実際の給付)といわれています。わが国の国民皆保険の手本となったイギリスの保険制度は、実は大きく変わりました。かつてイギリスでは、国民皆保険がほぼ100%で、厳格なmanaged care(医療へのアクセスの統制)の下にありました。全ての国民は60歳以降、腎透析を受けることができませんでしたし、イギリス流のジョークで「がんで死ぬのが早いか、専門医にかかるのが早いのか」といわれるほど、医療へのリーチは統制されていました。イギリスでは「本物の病気にかかったらドーバーを渡れ」(つまり、フランスで治療を受けなさい)といわれていました。今では自由診療が約半分を占め、それらへ一定の範囲で給付がなされています。つまり現状は、イギリス方式の国民全体での負担と個人の負担の折り合いのつけ方ということになります。
保険診療の対象の変化から見えるこれからの医療
これからの日本の医療の中で、自費である2つの対極、予防医療ととらえられる健診(人間ドック)と、医療ではない医療である美容整形の肥大は、どのような位置付けになるのでしょうか? メンタルヘルスの領域では、自費であった心理士による心理療法(カウンセリング)が一部保険診療になりました。身体科では生殖医療が一部保険診療や給付対象になったことがトピックスとなっています。43歳未満の女性は、生殖医療を保険適用で受けられるようになりました。
このような保険診療の対象の変化を見ると、自分の健康は自分で守ることが大切であるということと、次の世代を育てるということに注力するという方針が保険医療として示唆されているのでしょうか。この国が、いつか自宅のベッドで多職種協働により死を看取られ、若い世代が多く誕生していく国になるように医療体制が構築されるといいですね。