2026

03/03

おたふくかぜ ~日本では任意の予防接種のまま~

  • 感染症

内藤 博敬
静岡県立農林環境専門職大学 生産環境経営学部 教授
日本医療・環境オゾン学会 副会長
日本機能水学会 理事

新微生物・感染症講座(24)

本年の年頭、米保健福祉省疾病管理予防センター(CDC)は、昨年末の大統領令に基づいて、全小児に推奨する予防接種を17種類(COVID-19を除く)から11種類に削減し、費用負担なしでの接種義務を医療保険会社に課すことを発表しました。接種対象となっている11種のうち10種は国際的なコンセンサスが得られている感染症です。ところが日本では、この10種の1つである「おたふくかぜ」が任意接種となっています。今回は、国際的なワクチン事情に触れながら、「おたふくかぜ」についてお伝えします。

米国が予防接種指針を改正

日本の予防接種には、国の政策に従って地方自治体が実施主体として行う「定期接種」と、個人が感染予防や重症化予防を目的に行う「任意接種」とがあります。定期接種は、小児を対象としたA類疾患と、高齢者を対象にしたB類疾患とに分類しています。任意接種は全額自費で行いますが、定期接種は9割以上を地方交付税で賄い、個人の支払いはありません。一方で米国は、医療費が高額であるものの日本のような国民皆保険制度がなく、個人あるいは企業単位で民間医療保険または公的医療保険(低所得者や高齢者を対象)への加入が必須となっています。

ただし、任意の予防接種であっても医療保険が適用されるので、小児の場合はほとんどの接種で費用負担がありません。しかし、米国では推奨する予防接種の対象疾患が多いものの、20カ国を対象とした小児予防接種に関する評価から実際の接種率が他国と比べて低いことが問題となっていました。そこで、国際的に接種の必要性が高いとされる疾患の接種率を上げることを目的に、今回の指針改正が行われたのです。

国際的なワクチン接種

国際的に共通して接種されるワクチンの対象は、肺炎球菌(小児)、ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ、B群インフルエンザ菌(Hib)、麻疹、風疹、ヒトパピローマウイルス(HPV)の10種です。米国ではこれらに水痘(水ぼうそう)を加えて11種の接種を全ての小児に推奨し、医療保険会社に対して接種義務を課しました。ドイツでは小児予防接種として15種ありますが、混合ワクチンとすることで接種回数を減らすなどしています。日本では、おたふくかぜを除く9種に、結核、水痘、日本脳炎B型肝炎、ロタウイルスを加えた14種を定期接種としています。国際的にコンセンサスの取れている疾患に加えて、生活する国の衛生状態に合った予防接種が必要です。

「おたふくかぜ」とは?

ムンプスウイルスは、麻疹やRSウイルスと同じパラミクソウイルス科のウイルスで、罹患者や保菌者が咳やくしゃみをした際に出る飛沫によって経気道感染します。罹患者からの感染は、耳下腺の腫脹が起こる1~2日前から、腫脹後5日までと報告されています。一部に不顕性感染も見られますが、多くは潜伏期間(約18日)の後に熱発し、片側または両側の耳下腺や顎下腺が腫脹して痛みます。

ムンプスウイルスは、唾液腺、精巣や卵巣などの腺組織や、内耳や髄膜などの神経組織を好んで感染しますが、これら以外にも多くの組織に感染することが分かっており、合併症の割合が非常に高い、極めて危険なウイルスの一つです。春から夏に感染報告が多く、また数年ごとに小児での感染流行が報告されています。通常は1~2週間で回復しますが、約10%で無菌性髄膜炎を(注)、4%で膵炎を、0.1%でムンプス難聴を合併することがあり、ムンプス脳炎によって後遺症や命の危険にさらされる場合もあります。成人の感染では、男性の精巣炎が2割から3割、女性の卵巣炎が約5%程度あると報告されていますが、不妊の原因となることはまれです。ムンプスウイルスに特化した治療薬は今のところありませんし、マスクや手洗いでも完全に防ぐことはできないので、ワクチン接種が望まれます。

任意接種になったおたふくかぜワクチン

1945年にムンプスウイルスの弱毒化に成功し、ソ連や米国に続いて日本でもワクチン製造が開始され、麻疹、風疹とともに3種混合(MMR)ワクチンとして接種されるようになりました。しかし、ムンプスウイルスは神経組織である髄膜への親和性が高く、弱毒化されていても髄膜炎を引き起こす報告が後を絶たなかったことから1993年に日本で製造した3種混合ワクチンの使用を中止しました。単独での任意接種となった以降も髄膜炎の報告頻度は改善されていないため、「子供のうちに自然感染して免疫を付ければ良い」と考える親御さんも多く、他の先進国で激減しているおたふくかぜが、日本では今なお流行しています。自然感染での髄膜炎発症率は数%~10%と極めて高く(単独ワクチン接種後の発症率は0.04~0.05%)、ムンプス難聴やムンプス脳炎のリスクがあることを考慮して判断してほしいです。厚生労働省の令和6年9月時点の資料では、帯状疱疹ワクチン、RSウイルスワクチンとともに、おたふくかぜワクチンも定期接種化の検討対象となっています。

海外でも3種混合(MMR)ワクチンが問題視されたことがありました。A. J. Wakefield元医師が、MMRワクチンを接種した子供に自閉症が多く見られるとの研究内容を、学術雑誌LANCETで発表したことで大きな注目を集め、世界中の保護者がワクチン接種に不安を抱きました。その後、彼の主張は科学的に否定されただけでなく、不正が発覚して医師免許を剝奪されるという、ランセットMMR自閉症詐欺と呼ばれる事件となりました。しかし、保護者のワクチンへの不安が払拭されたわけではなく、麻疹の世界的流行へとつながってしまいました。今回の米国のワクチン接種削減を受けて、日本でもワクチンに対する否定的な意見が一部で見受けられますが、科学的データを基にした冷静な判断を心掛けてほしいと願います。

(注)参考:感染症プラチナマニュアル Vol.9
野口雄史 他、「ホントに必要? おたふくかぜワクチン」、小児感染免疫、
Vol. 26 (4)、509-516 (2014)

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