2022

12/05

~同じような課題は日本にもある~ 保健人材管理の共通課題に取り組む仏語圏アフリカのネットワーク

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海外に派遣される人がいれば、その調整や準備、リスクの把握や対応、また派遣後のサポートなども非常に重要な業務。国立研究開発法人国立国際医療研究センター(NCGM)国際医療協力局・運営企画部部長の藤田則子先生は、長期、短期の海外派遣の豊富な経験を生かし、現在、国内から支援する役割を担っている。そんな藤田先生が携わった、仏語圏アフリカを対象とした「JICA保健人材広域ネットワーク強化プロジェクト」について、取り組みの内容や現状を伺った。

海外で活躍する医療者たち(37)

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「手に職」という父のアドバイスで医師に

――なぜ医師になろうと思い、そして産婦人科を選んだのか教えてください。

藤田 私が高校生の頃は今とはずいぶん違う時代でしたが、父から「女性も手に職をつけて自分で生活できるように」と言われたことがきっかけで、医師になろうと思いました。
当時、医学部の学生は、5、6年生の時にいろいろな科を回って、臨床現場を経験しました。その中で産婦人科は、病気の方を診るだけでなく、「おめでとうございます」という言葉も聞こえる。そこに惹かれて産婦人科を選びました。

――では国際協力の仕事に興味を持ったきっかけは。

藤田 産婦人科医になってから10年くらいは、毎日いろいろな状態の患者さんを診て、その方やご家族にとってどうするのがいいのか考えながら、医師として成長することに必死でした。
10年を過ぎて一通りのことができるようになった頃、小児科医になった高校時代の同級生から「インドネシアで仕事をしているから遊びに来ないか」と誘われて、現地に見に行きました。それまで自分が経験してきたものとは全く違う環境、職場、仕事の仕方があることを知って、国際協力に興味を持つようになりました。
そこでまず、タイのマヒドン大学で公衆衛生を学びました。タイとミャンマーの国境には難民キャンプがあるのですが、大学の授業の一環でそのキャンプに入れない人たちを診ている診療所に出会い、そこでボランティアをしました。わずかな期間でしたが、それが私にとって初めての海外での活動になりました。

――最初の長期派遣はカンボジアでしたね。

藤田 「JICAカンボジア母子保健プロジェクト」です。当時は、妊産婦死亡率を下げることが世界的な課題になっており、産婦人科の専門性が求められていたこともあって声を掛けていただきました。1998年 10月から約4年間、専門家から始めて、後半はチーフアドバイザーとして現地で仕事をしました。
その後、「JICAアフガニスタンリプロダクティブヘルスプロジェクト」に2003年3月から5年半、「JICAカンボジア医療技術者育成システム強化プロジェクト」に2010年 6月から約5年間の短期派遣を繰り返しました。
長期はアジア圏中心でしたが、調査やプロジェクトの評価など、数週間から2カ月程度の短期派遣では、アフリカの国々にも行きました。

アフガニスタン2007年(保健省リプロダクティブヘルス部職員と)

経験や課題を共有し、解決を目指す

――2014年からの「JICA保健人材広域ネットワーク強化プロジェクト」について、まず背景を教えてください。

藤田 「広域」というのは、国をまたいでいるという意味で、このプロジェクトの場合は仏語圏アフリカの国々を対象としています。各国の保健省には、医師、看護師、助産師、臨床検査技師、放射線技師、薬剤師など、保健人材を管理する人材局があります。このプロジェクトは、各国の人材局長のネットワークを強化するというものでした。
アフリカの国々には、そもそも保健人材が少ないため、育成して増やさなければなりません。しかし、せっかく教育してもヨーロッパに行ってしまう、国内にいても首都に集中してしまって地方にはいないなど、共通の問題を抱えています。そこで、保健人材の育成や管理の制度設計を担っている各国の人材局長に日本に来ていただき、現状を分析し、課題や対策を共有する2週間の参加型研修「仏語圏アフリカ保健人材管理研修」を、2009~2013年まで5回実施しました。
研修では、NCGMが開発した保健人材開発システム分析フレームワーク「ハウスモデル」を使用しました。これは、長年の戦争により保健サービスの制度も、保健人材の教育の仕組みも壊れてしまった国で、課題を分析して、何をどう設計していけば良いのか考えるためにNCGMが開発したフレームワークです。

――この研修が、2014年からのプロジェクトにつながるのですね。

藤田 はい。研修を終えた参加者の方々は、その後も自分たちで活動を継続していきたいと考え、活動のビジョン「Vision Tokyo 2010」を定めました。こうして、仏語圏アフリカ各国で保健人材管理を担っている人たちのネットワークができ、2014年からはJICAの資金を得て、そのネットワークを強化するプロジェクトが始まったのです。最初の研修に参加したのは6カ国でしたが、ネットワークに参加する国は増え、現在は13カ国になっています。

仏語圏アフリカ保健人材管理ネットワーク総会

――プロジェクトではいろいろな活動があったと思いますが、いくつか例をお聞きできますか。

藤田 例えば、プロジェクトの最中にエボラ出血熱が流行ったことがありました。昨今のコロナ禍から想像いただけると思うのですが、保健医療従事者は感染の危険にさらされることになります。でも初めてエボラの流行を経験する国は、保健医療従事者をどのようにトレーニングしたり、何をどう配ったりすればいいのか分からない。一方で、ネットワークの一員であるコンゴ民主共和国は、数年に1回の頻度でエボラが流行し、それを封じ込めてきた経験があります。そこでコンゴ民主共和国が、どのように人材を教育するかなど、経験に基づくノウハウを他の国々と共有して対応しました。
またアフリカ地域では、保健人材の数を把握するための情報システムを導入しているのですが、うまく運用できていない国も少なくないため、成功している国に学びに行ったこともありました。

国際協力とは一緒に考え、共に解決策を見つけていくこと

――その後、ネットワークはどのような状況ですか。

藤田 JICAのプロジェクトは5年間で終了しましたが、ネットワーク自体の活動は現在も続いています。
当初は、今ほどオンラインミーティングが普及していませんでしたから、同じアフリカ域内とはいえ、会合一つ開くにも渡航や滞在のことも含め、なかなか難しい課題もありました。そんな中でもここまで続いているのは、初代の事務局長だったセネガルの人材局長のリーダーシップが非常に大きいと思います。今はトーゴの人材局長が事務局長を務めておられますが、やはり長年このネットワークに関わってきたリーダーシップの強い方ですから、活動は今後も続いていくでしょう。また、アフリカの人たちのおおらかさ、温かさも、継続している理由の一つではないかと思います。

――日本との共同研究も行われているそうですが、具体的にはどのようなことを研究しているのでしょうか

藤田 例えば、どうすれば僻地に医療者が定着するのかという研究を、セネガルを中心に行ったことがあります。基礎教育の時点で僻地の医療に触れてもらうとか、僻地手当を付けるなどの政府のアイデアに対して、実際、当事者はどう思っているのかを知るために、インタビューをしました。国によって違いはあるかもしれませんが、セネガルの場合はお金をもらうより、地域の人から尊敬されたり、表彰されたりということに誇りを持っていました。
何が一番欲しいのかを尋ねると「公務員として正式採用してほしい」という答えでした。僻地に行っている人たちは契約職員という不安定な立場なので、そこで仕事を続けてもらうには安定した立場が非常に重要だという結論になりました。その後この結果を受けて、徐々に制度を整備したり、僻地にいても知識のアップデートができる仕組みを作ったりしています。
また今は、看護師の教育に関する共同研究を行っています。かつて看護師の教育は知識と技術で行われてきましたが、現在はコミュニケーションやチームワーク、マネジメントなども含めたコンピテンシーベースの教育に変化しています。そこで、以前の教育を受けた人と、コンピテンシーベースの教育を受けた人がどう違うのかということについて、セネガル、コンゴ民主共和国と共同研究を行っているところです。

――このネットワークの価値はどんなところにあると思いますか。

藤田 ネットワークに参加しているのは局長クラスの方々ですから、制度に対して働き掛けて動かせるパワーを持っています。まずこれは大きな価値だと思います。
また仏語圏アフリカだけでなく、日本にも似たような課題はありますから、私たちにとっても非常に学ぶことは多いですね。国際協力というと、物を提供したり、技術を指導したりするイメージかもしれませんが、一緒に考え、共通の課題があれば共に解決策を見つけていくというものなのです。

違う世界を見る好奇心を大切に

――現在、藤田先生は運営企画部・部長というお立場ですが、どのような業務をしているのですか。

藤田 例えば海外からの研修生を受け入れるとか、日本のODAによる現地プロジェクトや、国際機関などからの求めに応じて人材を派遣するなど、国内から支援する仕事です。現地で活動するにはいろいろな準備が必要ですし、治安や災害などのリスクもありますから、安全に活動できるようにさまざまな面からサポートしています。
この仕事をしながら、並行していくつかの事業にも関わっています。先程お話した共同研究もその一つです。

――今後はどのようなことをしていきたいと思っていますか。

藤田 プロジェクトは3年、5年で一区切りといわれることもありますが、こういう仕事は数年で簡単に済む話ではありません。逆戻りすることも多いので、気長にやっていかなければいけないと思っていますし、今まで携わってきたことについては、これからも少しでも関わっていけたらいいなと思います。

――最後に国際協力に興味のある人たちに、メッセージをお願いします。

藤田 一つは、自分の視点が定まるような、ある程度自分の拠り所となるものがあるといいのではないかということです。
もう一つは、違う世界を見る好奇心ですね。今ではインターネットで何でも調べられますし、知識として得ることは決して悪くないと思います。でもそれだけで全部分かっているというのはちょっと違う気がします。やはり現地に行って、そこの空気を吸って、湿度を感じて、食事をして……、そういう感性も大事にしてほしいですね。

【「JICA保健人材広域ネットワーク強化プロジェクト」】
◆対象国(13カ国)
ベナン、ブルキナファソ、ブルンジ、コートジボワール、ギニア、マリ、モーリタニア、ニジェール、トーゴ、セネガル、コンゴ民主共和国、ガボン、カメルーン
※2022年10月末時点