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~もしかしたら発達障害?~ ご自身の気付きが問題解決の糸口となる

メンタルヘルス

西松 能子
立正大学心理学部教授・博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職日本総合病院精神科医学会評議員、日本サイコセラピー学会理事、日本カウンセリング学会理事、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。
ドクターズプラザ2012年12月号掲載

よしこ先生のメンタルヘルス(9)

はじめに

「大人の発達障害」について、日本で関心が高まってきたのは数年前からです。マスコミで報道されているので、知っている方もいらっしゃるでしょう。発達障害に対する社会的な支援は、まず乳幼児健診や学校教育の現場でなされ、当初は子どもの問題だとされておりました。しかし学校教育の中では、子どもの抱える問題は知的に問題がない場合には、しばしば見過ごされがちです。想像力や社会性が乏しくても、成績が良ければ学校生活の中では大きな問題にならない場合があります。受験勉強などのはっきりとしたゴールが設定されていると、知的に高い発達障害の子どもたちは、完全主義を活かし集中力もあるので、むしろ好成績をあげることができます。一部の発達障害を持つ人々は、臨機応変な対応を求められたり、コミュニケーション力を問われたりする場面が増える大人になってから、突然適応できなくなってしまい、発達障害を初めて疑われます。このような状況の中で、今では大人の発達障害が問題になってきています。

有名私大卒・56歳Aさんの場合

つまずきが多くなり、落ち込んだり、不安になったりして受診した場合、うつ病や適応障害と診断されがちです。例えば、現在56歳のAさんのお話をしましょう。有名私大卒業後に金融関係に就職しました。Aさんは、同期が管理職になった頃、30代後半からうつ病の診断のもと休職を繰り返してきました。何カ所もの精神科を受診しましたが、満足できるところはなく、「精神科医は馬鹿ばかり」と思うばかりです。お見合い結婚をして、二人の子どもを授かりましたが、子どもとどう接したらいいのか分かりません。「子どもにばっかり構っている」と奥さんに文句を言い、呆れられていました。子どもたちも、父親には懐かず、進学のことも就職のことも奥さんに相談していました。結婚以来、何かというと奥さんに電話をし、電話に出ないと何回も連絡し続けます。奥さんを束縛し、一方的な命令をします。会社に対しては、「年間何日休める」「休職は社会への挑戦だ」などと言い、実際何度も休職してきました。自宅は何も捨てようとしない(妻にも捨てさせない)ためにゴミ屋敷化しており、玄関から今まで敷石状の隙間を縫う有様です。奥さんには、職場における自分を陥れようとする策略、事実無根の陰口についてしばしば話し、職場での不当な待遇について愚痴を言い続けています。漠然とした不適応感を長年感じ、頭痛がひどくなり、就床した時期や、動悸と吐き気のために電車に乗れなかった時期など、経過の中ではうつ病、パニック障害、不安神経症など、医者が変わるたびにさまざまな病名を告げられてきました。

発達障害は個性

Aさんから見える世界は、いわば二次元のようです。背景に隠れている意味や寓意はAさんには見えません。例えば、奥さんがAさんに「お風呂にお湯を見てきて」と頼むと、Aさんは「(お風呂のお湯は)あったよ」と答えてしまいます。もし奥さんが「違うでしょ。お風呂のお湯を見てきてというのは、今お風呂に入れる状態かということを判断して、という意味でしょ」などと言おうものなら、怒り出してしまいます。一方、毎年春になると雀の子を捕まえ手乗り雀にするなど、熱中すると他の人には思いも寄らないような成果を上げます。奥さんは下の息子が就職して家を出た昨年春ごろから、朝も起きられなくなりました。夕方になると、何とか夕食の支度やら家事をするのですが、Aさんが帰ってきてもほとんど口をききません。すっかり痩せてしまった奥さんを連れて近所の内科医を受診したところ、「体はどこも悪くない」と言われました。精神科に奥さんを連れて行ったところ、Aさんに医師は「あなたが態度を改めないと奥さんは治らない」と伝えました。Aさんには、思いもかけなかった言われ方で、すっかり困惑してしまいました。Aさんは発達障害(アスペルガー症候群)と診断されました。

現在、100万人を超える成人の発達障害の人がいるといわれます。現代社会が複雑化し、高度なコミュニケーション力、問題解決能力が求められるようになっている中で、大人の発達障害の人々の苦労は絶えません。従来、子どもにのみ使用できた発達障害のための薬物が、徐々に大人にも使用できるようになりつつあります。効果のある精神療法(心理療法)も工夫されています。支援のための輪も広がっていますが、何よりもご自身の気付きが問題解決の糸口となります。発達障害は個性ともいわれます。多様な個性を生かす世界になりますように。

 

 

 

 

ドクターズプラザ2012年12月号掲載

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