2021
08/30
3密の宝庫ともいえる学校での感染症対策
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特別寄稿
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【概要】
•団体名 SLIPER(すりっぱ)
Skill Ladder for Improvement and Evaluation Running of School Health Nursing
•理 念:養護教諭の能力育成を追求すると同時に、子どもやその家族、さらにその地域で暮らす人々の健康に貢献すること
•メンバー:6人
荒木田美香子 (川崎市立看護短期大学)
内山有子 (東洋大学)
加藤恵美 (静岡市立清水船越小学校)
齋藤朱美 (東京都立深川高等学校)
高橋佐和子 (神奈川県立保健福祉大学)
中村富美子 (沼津市立大岡中学校)
ドクターズプラザ2021年9月号掲載
特別寄稿(1)「マニュアルに基づいた丁寧な行動と最新の注意が求められる」
学校におけるコロナ対策の現状
日本で新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい始めてから、1年半がたちました。この間に学校では全国一斉臨時休業措置を取ったり、分散登校や時差登校、オンライン授業を行うなど、以前の教育現場では想像すらできなかったさまざまな対応を行ってきました。
この結果、2021年4月30日までに文部科学省に報告されている感染者数は、児童生徒1万9962人(表1)、教職員2637人(表2)で大半が学校内で感染者1人にとどまっており、学校内で感染の拡大があった場合でも、地域での感染拡大につながった事例は確認されていません。
この背景には、2020年6月の学校再開時に文部科学省が作成し、全国の学校へ周知した「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル」が大きな役割を果たしていると考えられます。このマニュアルは児童生徒の感染動向やコロナに関する新しい知見などを踏まえて随時改訂されており、2021年4月現在Ver.6となっています。
最新版では、変異株の罹患率、消毒作業の合理化、地域の感染レベルに応じた活動場面ごとの感染症対策、児童生徒等の心のケア、教職員のメンタルヘルス対策、登校できない児童生徒へのICT活用などによる学習指導などが追記されました。特に、今まで児童生徒がよく触れる個所の消毒は1日1回とされていたのが、児童生徒などの手洗いが適切に行われている場合は省略できることになり、教職員の負担が大きく軽減されました。また、マニュアルに記載されている感染事例によると、学校関係者に感染者がいてもマニュアルに従って感染症対策を行っていた場合は、学校内で感染が広がるリスクを下げることができていたと考えられます。
新しい生活様式に伴う保健室の変化
マニュアル(図1)に基づいて「新しい生活様式」を実践するには、児童生徒などへのコロナウイルスに関する知識や感染を防止する指導に加えて、登校時の検温、清掃・消毒活動、授業区切りごとの手洗い確認、給食の黙食指導、休み時間の密にならない過ごし方指導、登下校時の児童生徒などの行動の見守りなどが必要です。
表1:児童生徒の感染状況
新型コロナウイルス感染状況(令和2年6月1日~令和3年4月30 日までに文部科学省に報告があったもの)
(※)うち重症者は0人
注:義務教育学校及び中等教育学校については、小学校・中学校・高等学校のうち相当する学校段階に振り分けている。
出典:「学校関係者における新型コロナウイルス感染症の感染状況について(令和3年5月)」を基に株式会社ドクターズプラザ作成
表2:教職員の感染状況
新型コロナウイルス感染状況(令和2年6月1日~令和3年4月30 日までに文部科学省に報告があったもの)
(※)うち重症者は6人
出典:「学校関係者における新型コロナウイルス感染症の感染状況について(令和3年5月)」を基に株式会社ドクターズプラザ作成
これらの実践を現在、学校に配属されている教職員のみで行うには人的、時間的に限界があるため、保護者やスクール・サポート・スタッフ、地域の方々の支援などの協力を得ながら、学校全体として取り組んでいます。
児童生徒は自宅で検温をして「健康観察表」に記録をしてから登校することになっています。その時点で発熱(東京都立学校では、37.0℃以上)が見られる場合は欠席し、自宅で休養するように指導しています。また、家族に発熱などの症状がある人がいたり、家族が濃厚接触者になった場合も登校を控えてもらうように指示をしています。なお、この場合、「欠席」ではなく「出席停止・忌引等の日数」とするように文科省から指示が出されています。
登校後に発熱などの症状が見られた場合は、必要に応じて受診を勧めて帰宅させ、症状がなくなるまでは自宅で休養するよう指導します。受診したりPCR検査などを受けた場合は、検査結果を保護者から聞き取り、結果に応じた対応をします。
このような体調不良児への対応を行う保健室は、多くの学校で保健室とは別の部屋を用意し、感染の疑いがある児童生徒とケガなどで来室する児童生徒の接触をさける対応を行っています。保健室の入口を「内科」と「外科」に分けたり、保健室へ入室する前に検温をしたり、コロナの症状に関するチェックリストに記入してもらうなどの工夫をしています。特に、児童生徒が保護者のお迎えを待つ時間に使用したベッドやリネンなどの消毒はマニュアルに基づいて丁寧に行い、保健室が感染経路となって感染拡大しないように細心の注意を払っています。
また、感染経路の不明な感染者数が増加している地域で感染者が確認された場合の連絡体制を常に確認し、冷静かつ迅速に対応できるように準備しています。
これからの学校でのコロナ対応
新型コロナウイルス感染症と共存していくには、感染リスクはゼロにならないことを理解し、可能な限りリスクを低減させる努力を重ねながら、授業や部活動、各種行事などの学校教育活動を継続していくしかありません。学校は大勢の児童生徒が長時間一緒に過ごす場所です。学習活動として、狭い教室で机を寄せて話し合ったり、体育の授業で身体的な距離が近づいたり、一緒に給食を食べたり、休み時間にじゃれあって遊ぶなど、密閉・密集・密接の3密がいたるところで見られるのが本来の学校の姿です。
このような3密の宝庫である学校で、「マスクの着用」「手洗いなどの手指衛生」「授業備品や教室の清掃・消毒」などの新しい生活様式を取り入れた学習や活動を行うことは、児童生徒にとっても教職員にとっても大変な努力が必要とされます。
特に、感染予防と体調管理の両方が要求される体育の授業では、マニュアルなどに「十分な身体的距離がとれているのであれば、体育時のマスクの着用は必要ありません」と明記されていても、感染を恐れてマスクを外せない児童生徒も多数います。
このように学校にはいろいろな児童生徒が通ってくるため、学校生活の中で消毒などによりウイルスを全て死滅させることは困難で、どんなに厳密な感染症対策を行っても、感染リスクをゼロにすることは非常に難しいといえます。また、小中学生の感染経路の多くは家庭内での感染なので、家庭から学校へウイルスを持ち込まないことが重要です。このためには家庭と学校の情報共有や連携が不可欠で、保護者の理解と協力のもとに家庭でも「新しい生活様式」の実践をお願いする必要があります。
そして、マニュアルなどに基づく感染防止対策を行うと同時に、「十分な睡眠」、「適度な運動」「バランスの取れた食事」などの健康的な生活習慣で過ごすことにより児童生徒の抵抗力を高めることも重要視されています。
児童生徒が以前と同じように、学校の教室やグラウンドで友達や教職員と一緒に学んだり、遊んだりできる日は遠くないと信じて、今を丁寧に過ごしていきましょう。
図1:健康観察表を使用した登校時の健康観察(例)
出典;「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル ~学校の新しい生活様式(2021.4.28 Ver6)~※2021.5.28一部修正」を基に株式会社ドクターズプラザ作成