2017

05/15

高齢者の自動車事故を減らすために

  • インタビュー

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最近、高齢ドライバーの事故報道を見聞きすることが増えてきたのではないだろうか。そんな中、本年3月、高齢ドライバーの事故防止を目的とした改正道路交通法が施行された。そこで本号では、高齢者が可能な限り運転を続け、十分に納得した上で免許が返納できる仕組み作りに向けて尽力している、NPO法人高齢者安全運転支援研究会の平塚雅之事務局長に改正道路交通法や同研究会の取り組み等について伺った。

ドクターズプラザ2017年5月号掲載

巻頭インタビュー/高齢運転者の交通安全対策

認知症と判明した時は免許の取り消しなどの対象に

―本年3月に改正道路交通法が施行されました。高齢運転者やその家族が知っておきたい改正のポイントは?

平塚 現行の制度では、75歳以上の運転者は3年に1回、免許証を更新する時に認知機能検査を受けることになっています。この認知機能検査の結果は、「認知症の恐れあり(第1分類)」、「認知機能低下の恐れあり(第2分類)」、「認知機能低下の恐れなし(第3分類)」の三つに分類されます。従来は、分類ごとに高齢者講習を行っていたのですが、今回の改正で第1分類と判定された場合は、違反の有無にかかわらず、指定された専門医による臨時適性検査を受けるか、かかりつけ医の診断を受けるかして、その診断書を都道府県公安委員会に提出することになりました。この診断の結果、認知症であることが判明した時は、免許の取り消しなどの対象になります。警察庁のホームページに道路交通法の改正内容についての解説等(※1)が載っていますので、高齢者の方だけでなくそのご家族の方も知っておくと良いと思います。

※1;「道路交通法等の改正(警察庁)」(https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/law/index.html)

―高齢運転者の事故の報道を目にすることが多くなったように思いますが、高齢者の事故は増えているのでしょうか。

平塚 事故全体は統計上は減っているんですよ。ただ高齢者の絶対数が多いので、高齢者による事故が増えているように感じる。それと、以前は高齢者は歩行中の事故が多かったのですが、今は75歳以上の人だけで見ると加害者側になっている事故が目立ってきています。

―今回の改正の中で懸念される点など有りますか。

平塚 いろいろと現実に即していないことがあると感じています。まず、懸念されるのは、第1分類になってしまった方の風評被害です。私たちの年代だと、免許更新のはがきが来たら、一人で更新に行きますよね。でも、地方の高齢者はそうとは限りません。もし妻がペーパードライバーだった場合、免許更新センターには夫が車に乗せていきます。

また、近所の皆と連れ立って、一緒に予約して行くケースも多いようです。複数人で行けば、待っている仲間や家族に「どうだった?」と聞かれることでしょう。たとえ聞かれなくても、第2分類と第3分類の人は、後日講習を受ければ、直ぐに免許更新が出来るのに、第1分類の人は診断書を取り、公安委員会の判定を待つことになります。そこで認知症でなければ高齢者講習に進めます。一緒に認知機能検査を受けた人には、当然判ってしまいます。すると、どうしても「あいつはどうも認知症らしいよ」という噂が流れてしまうのではないでしょうか。

―複数で更新に行くという発想はありませんでした。

平塚 一番心配なのは、病院に行って認知症だと診断され、免許を諦めなければいけなくなることですよね。車があれば行動範囲が10〜20㎞だったのに、ないと徒歩圏内しか移動できなくなる。また、免許取り消しになれば、認知症だという噂が立つので、どうしても外に出にくくなりますよね。そうやって引きこもりになると認知症は進んでしまいます。認知症になれば自分から警察や救急車を呼べないこともありますから、独居の場合は病死や餓死する可能性だってあり得ます。警察側からしてみれば、事故の被害者のことを考えたら、このように改正するのは仕方がないことなのでしょう。でも社会全体で考えたら、それで本当にいいのでしょうか。たとえ交通事故が減ったとしても、免許がなくなった人の認知症が進んで医療費が膨らんでいく。そして、認知症の人が歩行中に事故に遭うケースが増える。そういうことを考えるとなかなか難しい成り行きになっていると感じます。

―ほかに、現在の高齢運転者の免許更新について思うところはありますか?

平塚 現状では、70歳で高齢者講習を受け、75歳でより面倒な高齢者講習を受けるという制度になっています。しかし、免許を20歳に取ったとして、70歳になるまでの50年間で、教習所に行って指導員が横に乗り、運転を指導してくれる機会は全くないんです。空白の50年ですよね。航空機のパイロットや電車の運転士は、旅客を乗せて運転しなければいけませんから、定期的な検査を厳しく行っていますが自動車免許についてはそれはありません。それで、70歳になって突然運転技術を判定されるのはあまりに酷だと思うんです。乱暴な運転が癖になってしまっている人は、年を取ってからこのような講習を受けたからといって改まらないと思います。

―現行の制度では、75歳以上の高齢者が「認知機能検査」を受けるということになっていますが、この線引きはどのように思いますか。

平塚 70〜74歳までは認知機能検査はないんです。でも、それが本当に良いのかという問題はあります。私どもが行った調査では、75歳以上で第1分類と第2分類になる人は3割程度という数字が出ています。その結果から推測すると、それより少し若い方の認知症の割合が0ということはあり得ないと思います。でも現行法ではノーチェックです。この点は、今後の課題ではないでしょうか。

―今回の改正で良かった点は?

平塚 今回の免許改正の中では、講習の合理化と高度化もなされることになりました。75歳以上のうち、認知機能検査で第1分類と第2分類と判定された方に対する高齢者講習については、実車指導の際に運転の様子をドライブレコーダーで記録し、その映像に基づいて個人指導を行うなど、内容が高度化されます。一方で、75歳未満の方と75歳以上のうち認知機能検査で第3分類と判定された方は、3時間の講習が短縮されて金額も少し下がる、つまり合理化されるんです。そうすると新制度の中で合理化の恩恵にあずかれる人は8割といわれています。

また、第1分類になる人というのは、免許更新に来た75歳以上の人の中の3〜4%なんですね。しかも、その方々が病院に行ったからといって、全員に認知症の診断が出るわけではありませんので、第1分類になったからといっても悲観せず、まず早期発見のチャンスをもらったと考えて病院に行っていただきたいと思っています。

―医師の診断書は、都道府県公安委員会に提出し、そこで認知症かどうか判定されるのでしょうか。

平塚 一応そういうことになっていますが、医師が「認知症の疑いあり」と診断すれば、公安委員会としては専門家の意見なので免許取り消しの判断を下してしまう可能性が高いですね。でも、そう短絡的に判断してほしくないです。運転については運転技術や技能の評価から決めるのが良いと思います。
例えば、アルツハイマー型認知症の方でも初期なら、昔のことをしっかり覚えているので、運転できます。ただ、中程度以上に移行してしまうと、オリンピックなどで新たな道ができた時などにパニックになるので運転は厳しくなります。でも、地方の離島などは、道は増えないので、畑に行って帰るくらいなら中程度になっても運転できると思います。もちろん注意力がなくなっていくので、事故を起こす可能性はあります。交通事故を防ぎたいけれど、それぞれの地域事情もある。そういうことを考えると医師の診断で「認知症の疑いがあり」という人の場合は、運転技術の評価も加味して免許取り消しの判断をしたら良いと思っています。

―自分が認知症だと認めたがらない高齢者が多いと聞きますが。

平塚 誰もが自分は認知症だと認めたくないんですよ。認知症の不幸な事例ばかり報道されてしまうと、なおさら病院には行かなくなりますよね。実際に警視庁の方に伺うと、報道された途端に家族に促されて自主返納される方の数が倍になるらしいです。でも、そうなると免許を返さない高齢者の居心地が悪くなります。「あのおうちも返したんだって、何であなたは返さないの」という魔女狩りが行われるようになれば、さらに高齢者は認知症を隠すようになります。運転が危ない方には免許を返納してほしいのですが、免許を返納しようとしない方が多いようです。今回の改正で、「免許更新の際に認知症の疑いがある75歳以上の運転者に診断書の提出を義務付けたのが一歩前進だ」といわれるのは、強制的に病院に行く仕組みを作ったというところです。ただ、「自主返納」というのは良い反面厄介な制度でもあります。

―厄介な制度とは。

平塚 自主返納とは、自分から申請して免許を取り消してもらい、その際に特典として「運転経歴証明書」もらえるというものなのですが、身分証明書にもなる「運転経歴証明書」をもらえない場合もあるのです。その点を理解していない人も多いのではないでしょうか。

―運転経歴証明書というのは何ですか?

平塚 「確かに運転免許を持っていました」という証明書です。これは、最近になって銀行などで身分証明書として使えるようになりました。また、自治体によってはこの証明書を見せるとタクシー料金が10%割引になるなどのサービスが受けられます。そういう特典を付けて、自治体や警察は自主返納を促しているんです。ところが、取り消し処分されてしまった人には、運転経歴証明書は出ません。それと、自主返納しなくていいやと更新に行かない人の免許は失効しますが、免許を失効しても運転経歴証明書は出ません。更新の時に認知機能検査を行って、その結果認知症だと診断されて、「免許は出しません」と言われても証明書は出ません。その一方で、認知症の診断が出る手前で「返納します」と言えば証明書は出ます。タッチの差で変わるんですよ。

高齢者の生活の実態に寄り添った仕組みを提案する

―高齢者安全運転支援研究会の活動内容を教えてください。

平塚 当団体では、「高齢者の安全な運転」「高齢運転者の活性化」を目指した活動を行っています。まず、高齢化に伴って変わっていく運転者の判断能力や身体能力に関するデータ収集と分析などを行い、高齢運転者に即した安全対策のための基礎情報の整備に取り組んでいます。また、自動車技術、社会基盤、社会システムなどの道路交通に関係する組織や団体などとも連携し、高齢者が安全に運転するための課題などを分析して、改善策などの検討や提言を行っています。

―実際の実態調査はどのようなことをしているのですか?

平塚 私どもは2012年の4月に立ち上げましたが、この団体が結成される前から、高齢ドライバーの認知症の比率を調査しており、現在も続けています。これは鳥取大学医学部保健学科の浦上克哉教授が開発した、タッチパネル式の認知機能スクリーニング装置を用意して、全国の自動車教習所に訪問し、高齢者講習に来る方に任意でテストを受けてもらう方法を採っています。

一昨年からは自動車安全運転センターという事故証明や運転証明、無事故証明、SDカードなどを出す団体の助成金をいただきながら、軽度認知障害の方がどのような運転をするかを調査しています。軽度認知障害の方の運転技能については、その教習所の高齢者講習をやっている指導員に実車に同乗してもらって全部採点してもらい、データ化しています。それを健康な人の運転と照らし合わせてどのような差が出てきているのかを調べています。

―貴団体で提唱している「運転時認知症障害」とは何ですか?

平塚 軽度認知障害の中で、特に車を運転している時に現れやすい事例を取りまとめて、総称として「運転時認知障害」と呼んでいます。運転は非常に高度な脳の作業なので、脳に支障が出てきた場合には運転の操作にも支障がそのまま出てきます。例えば運転の時にウインカーを出し忘れる、ワイパーの操作を忘れてしまったなどというのは、認知症の症状としては軽微なことですが運転では事故につながります。そういった状況が出てきたら、軽度認知障害を疑いましょうという発想なんですね。軽度認知障害は、放置すれば認知症に移行する恐れがあるとはいえ、何らかの対策をしていれば認知症を予防できると考えられています。だから、運転時認知障害を早く見つけて、認知症予防にいそしみ、その結果事故が予防できたら末永く運転できますよという流れにしていきたいんです。

―運転を見ると、危なっかしいと感じることはありますよね。

平塚 認知症の手前の段階で、鬱の症状も出てきますよね。そうすると洗車しなくなり、トランクの中もごみ満載になります。そういうところが認知症の兆しとして現れやすいですね。また、視空間認知機能が衰えると、ハンドルのある側の右フロントをぶつけます。本来見えない左のフロントをぶつけるのは誰でもありますけどね。そういうわけで、私たちは認知機能低下の疑いがあると前もって気付いてもらうために「チェックリスト30」を公表しています。これは本人がチェックしてもいいし、ご家族が本人に聞いてチェックしてもいいです。半年や1年に1回やってもらって、もしチェックが増えたら物忘れが進んでいるということなので、病院で検査してほしいですよね。

―こちらの団体としては今後、どのような活動をしていく予定ですか。

平塚 今はもう超高齢社会になってしまいました。でも、一般道路の中には子どもも、赤ん坊やベビーカーを押した親も、プロドライバーもいます。その中で、高齢ドライバーをはじき出すのではなくて、皆と共存していく方法を考えたいです。そのためには当然ドライバーはやらなければいけない技量をちゃんと身に付けて適正な安全運転しなければいけないですし、認知症にならないための、長く運転を続けるための処方も必要です。そういったものを提供して、地域の生活の中でちゃんと生きていけるように支援していきたいです。

具体的な処方の一つとしては、アクセルとブレーキを踏み間違えてパニックになってしまった時に、そこからいかに早く復帰するか、その手段を考えるかということですね。また、これはまだアイデアレベルですが、「あなたの運転は70点ですよ」などと評価できる仕組みを作っていきたいです。自分の運転技術が可視化できれば、免許を返納した方がいいのか、それでも運転を続けなければいけないのかを考えるきっかけになりますよね。それで、どうしても運転を続けたいのなら、定期的に練習するメニューを作って高齢者に長く運転してもらいたいと考えています。

また、条件付きの免許についても提案していきたいんです。例えば、家の周囲の半径○m以内のエリア免許制です。これはGPSの機能で十分実施できそうです。また、運転できる時間帯に制限を加える免許もありだと思います。子供たちが表に出てくる時間帯、通学時間帯は運転してはいけない免許とか、夜間は危ないから昼間だけしか運転できない免許などですね。ただ、そのためには、それで安全だと実証していく必要があります。

―若いうちから自分が高齢者になった時、「免許返納が必要なのか」ということを教育することも大事ですね。

平塚 そうです。長い時間をかけて交通安全教育を行い、その教育の中で自分が最後に認知症で記憶がおぼつかなくなってきた時は、自主的に返納するんだよと教えることも大事だと思います。

運転時認知障害(※)早期発見チェックリスト【抜粋:15問】

※軽度認知障害(MCI)の中で運転時に現れやすい状態をまとめた概念

自動車の運転は、視力、聴力、認知力、判断力、反射神経、筋力などさまざまな能力を同時に必要とする複雑な作業です。加齢とともにこれらの能力は自然と衰え、運転の技術も低下します。
しかし、安全運転に気をつけていても、ハンドルやペダル、機器の操作にうっかりミスが増えたり、行きつけの場所への道順を忘れてしまったりすることなどが立て続けに起こるようになると、MCIや認知症も考えられます。MCIや認知症の早期発見のきっかけとなる、車の運転時に現れやすい状態を15個リストアップ【抜粋】しました。3個以上チェックが入る方は要注意です。専門医の受診を検討しましょう。

「運転時認知障害早期発見チェックリスト【抜粋版】」

□ 車のキーや免許証などを探し回ることがある。
□ 道路標識の意味が思い出せないことがある。
□ スーパーなどの駐車場で自分の車を停めた位置が分からなくなることがある。
□ よく通る道なのに曲がる場所を間違えることがある。
□ 車で出かけたのに他の交通手段で帰ってきたことがある。
□ アクセルとブレーキを間違えることがある。
□ 曲がる際にウインカーを出し忘れることがある。
□ 反対車線を走ってしまった(走りそうになった)。
□ 右折時に対向車の速度と距離の感覚がつかみにくくなった。
□ 車間距離を一定に保つことが苦手になった。
□ 合流が怖く(苦手に)なった。
□ 駐車場所のラインや、枠内に合わせて車を停めることが難しくなった。
□ 交差点での右左折時に歩行者や自転車が急に現れて驚くことが多くなった。
□ 運転している時にミスをしたり危険な目にあったりすると頭の中が真っ白になる。
□ 同乗者と会話しながらの運転がしづらくなった。

15問のうち3問以上にチェックが入った方は要注意です。専門医の受診を検討しましょう。

 

日本認知症予防学会理事長、NPO法人高齢者安全運転支援研究会理事
鳥取大学医学部教授
浦上克哉 監修
提供;NPO法人高齢者安全運転支援研究会