2025

02/01

高齢者の「食事」と「料理」に家族はどう関わるべきか!?

  • 介護

川内 潤
NPO法人となりのかいご・代表理事

隣(となり)の介護(35)

多くの方にとって「食べること」は生活の楽しみの一つではないでしょうか。さらに、高齢者にとっての食事は健康維持の栄養補給としての側面もあります。しかし、高齢になるとさまざまな変化から、食事そのものを楽しめなくなる人がいます。

また、食事のための料理は生活の中で繰り返されてきたなじみのある生活習慣の一つです。シニア世代の自炊率は約8割という調査結果がありますが、家族にとっては火の元の心配などから料理をやめてほしいと考える方もいるかもしれません。今回は、高齢者の「食事」と「料理」について解説させていただきます。

食事から感じる親の老い

高齢になり食事や生活バランスが崩れるなど、両親の行動に変化が見えると家族としてはとても心配になります。持病など抱えている場合は、ちゃんと食事制限をしているのか、栄養のあるものを口にしているのかも気になると思います。つい口や手を出してしまいがちですが、過度に関わり過ぎないことをお勧めします。どんなに心配だとしても、高齢な親の1日3食を完璧にサポートし続けることはとても大変です。

さらに、高齢の親が一人暮らしで、冷蔵庫の管理ができなくなり食材を買い過ぎて腐らせたり、賞味期限切れのものを食べて食中毒を起こしたりすることもあるかもしれません。老化により判断力が鈍くなったり、物忘れが増えたりするとこのようなリスクも自ずと増えていきます。親の老いていく姿を目の当たりにすることは、つらいことでもありますが受け入れなければならないものでもあります。

高齢者の食事と家族の関わり方

近年、福祉、医療、看護の現場でも注目されている、QOL(Quality of Life)という言葉があります。「人生の質」「生活の質」と訳され、私たちが生きる上での満足度を表す指標の一つとなっています。「その人が自分らしく納得のいく生活を送ること」が、充実感や幸福感につながっていくと考えられています。

高齢者が最後まで自分の口で食べるという行為は、QOLの向上にとって必要不可欠です。食事というものは、自分の嗜好にあったものを食べた時に幸福を感じます。栄養面だけにとらわれず本人にとって「食べることの楽しみ」が継続できるような食事環境をサポートすることが、家族の適切な関わり方だと考えています。

食事の食べる以外の目的

人間の五感の中でも香りを感じる嗅覚は、記憶をつかさどる海馬とダイレクトに結び付いているため「おいしい記憶」として残る思い出の食事があったりします。

また毎日の食事には、買い物や料理が欠かせません。買い物に行くために身仕度を整え外出し、お店に足を運び、時にはお店の人とコミュニケーションを取るなどが必要になります。料理をするには、献立を考え、手順に従って完成させます。それらは高齢者にとって、適度な運動や介護予防にもつながり、社会活動を継続させる重要な役割に担っているのです。

高齢の親が料理することが心配

高齢者の食事が話題になるたびに、「高齢の親が料理することが心配だ」という相談が出ます。一人暮らしであれば、その気持ちはなおさら強くなると思います。

火に掛けたことを忘れてやかんや鍋を焦がしたなどと聞くと、火事でも起こしたらと心配になります。注意喚起をしても繰り返すので、ガスの元栓を閉めて火が使えないようにした方もいました。

高齢者の料理と家族の関わり方

火の元が心配という方には、お湯は電気ポットで沸かしたり、安全のためIHコンロに換えたりするといった対策もできますが、必ずしも上手くいくとは限りません。使用方法が分からず放置されていたり、間違った使い方をしたりしてけがや火事を起こす可能性もあります。

QOLの低下を防ぐために料理を続けてもらうには、現在使用しているガスコンロと同じメーカーで安全装置が付いているものに換えることをお勧めします。シニア向けガスコンロには、加熱や消し忘れ防止を目的とした自動消火機能などが搭載され、火傷や火事のリスクを大幅に減らすことができます。台所に火煙探知機の設置も有効です。そのほか、家電などを買い換える場合には、両親の使い慣れたものと同じ使用感のものを選ぶことが大切です。使い慣れた家電が壊れても、最新モデルではなく、長年使い続けて慣れ親しんだものの後継機に買い換えることが重要です。親が自ら料理ができているうちは、「環境改善での安全対策」のみをサポートすることが家族としての関わり方だと考えています。

失敗しても温かく見守ることができる距離感を

料理は完成品が目に見え、食べるといった楽しみもあります。一見何気ないことのように思えますが、高齢者にとっては、自立した生活を継続していく上では、料理をすることは生活の中での達成感や充実感を高めることにつながっているのです。

料理が上手に作れなくなってきたら、ホームヘルパーの手を借りることもできます。ヘルパーさんが見守りながら一緒に料理を作ることで、生活のルーティンを奪うことなく継続できるのです。仮に失敗したとしても、料理することを取り上げてしまうのではなく、温かく見守ることができる距離感で接していただきたいと思います。

 

【参考資料】

超高齢化社会を見据えて、高齢者がよりよく生きるための日本人の食事を考える
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000015824.pdf

在宅高齢者の口から食べる楽しみの支援の在り方に関する調査研究事業報告書
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000136675.pdf

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