2024

07/05

食中毒減少の最大の功労者は食品添加物⁉

  • 感染症

内藤 博敬
静岡県立農林環境専門職大学 生産環境経営学部 准教授
日本医療・環境オゾン学会 副会長
日本機能水学会 理事

新微生物・感染症講座 (14)

東京では5月初めに気温が30℃を超える日があったりして、温暖化への懸念が強まる一方に感じています。気温が上がると、前回お話ししたトコジラミなどの昆虫・節足動物も活発に活動しますが、食中毒をはじめとした細菌性の感染症も増加します。近年のキャンプブームに限らず、夏場はバーベキューなど屋外の開放的空間で食事をすることが少なくありません。また、健康への関心から食品添加物を使用しない無添加食品を好む方も多いようで、これからの季節は特に食中毒に気を付ける必要があります。今回は、この食中毒と対策について考えてみましょう。

時代の変遷と食中毒報告

厚生労働省の食中毒統計調査によれば、2000年の食中毒報告事件数は2,247件、患者数は4万3,307人でしたが、約20年の間に事件数および患者数の報告は減少しています。2013年に食品衛生法の改訂で寄生虫が報告項目となりましたが、2023年の報告事件数は1,021件、患者数は1万1,803人と事件数は半減、患者数は4分の1まで減少しています。

変わったのは報告数だけではありません。夏の季語でもある食中毒ですが、令和の現在は季節性なく食中毒が発生しています。1990年代までは、梅雨(6月)から秋雨(9月)までの期間に食中毒報告が多く、食中毒のピークは夏にありました。日本の夏は高温多湿となるため、私たちの病気の原因となる細菌や真菌にとって活動しやすい時期となり、ちょっとした油断から食中毒を引き起こしてきたと考えられます。1997年の食品衛生法の改訂でノロウイルス(注)が加えられてウイルス性食中毒の報告が徐々に増え、現在の患者数は細菌性食中毒とウイルス性食中毒で同程度、また細菌とウイルスを原因とした食中毒で、報告患者数の8割以上を占めています。春から秋にかけて流行していた細菌性食中毒が2000年以降減少し、冬から春にかけて流行するウイルス性食中毒の報告が増えたことで、食中毒の総数は減少しているものの、1年を通じて食中毒が起きているのです。

集団食中毒と単独感染

厚生労働省から公表されている「令和5年食中毒発生状況」では、グラフ作成にあたって単独(1人)事例と複数(集団)とを分けて記載しています。細菌やウイルスを原因とする食中毒は、飲食店や弁当などの喫食を原因として、集団で食中毒が起きる事も多々あります。2023年の食中毒事件当たりの患者数は、細菌性食中毒で約15人、ウイルス性食中毒では約34人でした。一方で、アニサキスやクドアなどの寄生虫症や、動植物の自然毒を原因とする食中毒では、1件あたりの患者数が1~2名と少なく、個食あるいは家族での食事を原因としていると考えられます。高齢化とともに1人暮らし世帯も増加している日本においては、総数が減っている食中毒であってもさまざまな角度から分析・検証し、さらなる予防に努めているのです。

1年を通じて食中毒が起きているのに、夏に食中毒の注意喚起を強く行うのには意味があります。第一に、細菌性の食中毒は命を脅かす場合が少なくないからです。近年、最も著名となった細菌性食中毒として腸管出血性大腸菌症があります。また、抗生物質の発見される以前は、赤痢や腸チフスなどの細菌性胃腸炎が、日本人の死因のトップでした。明治から昭和初期に活躍された宮沢賢治の小説にも、これらの感染症が多数描かれています。ウイルス性食中毒も軽微な感染症ではありませんが、生命を脅かすリスクは細菌性食中毒で高く、感染症法の3類には細菌性食中毒のみが分類されています。

さらに夏といえばバーベキューやキャンプなど、屋外で調理・喫食するケースが増えます。食中毒細菌の中には、熱に強い芽胞という形態を取るものや、熱に強い毒を持つものもいるので、加熱調理だけでは対策不十分な場合もあります。特に芽胞形成菌がカレーやシチューを作る際に混入した場合、その日に食べ切ってしまえば問題ありませんが、翌日まで室温で放置している間に増殖し、翌日再加熱しても芽胞は処理できず、加熱したのに食中毒を起こすケースも少なくありません。もっともカレーやシチューなどは夏に限った食事ではありませんが、家庭では冷蔵・冷蔵保存することで菌の増殖を抑えることが可能なので、やはり夏場に起こりやすい食中毒と考えられます。

食中毒を予防しよう

私たちに病気を起こす細菌は、私たちの体温に近いほど活発に活動するので、できるだけ低い温度で輸送、保存することが大切です。また、細菌も生物なので、40℃を超えるような場所では増殖し難くなるものが多いです。生物の構成成分であるタンパク質は60℃で変性するので、前述の細菌芽胞のような特殊形態でなければ、加熱することで対策できます。2000年以降、細菌性食中毒が減少してきたのは、冷蔵での輸送や販売が普及したことも少なからず影響しています。前述の通り、熱に強い細菌もいるので、食材への付着を減らして食品中で増殖を抑えることが食中毒対策の要になります。そうした観点から、近年では電解水やオゾン水を利用した生鮮食品の洗浄も普及しています。そして何よりも、食品衛生法が随時改訂されるなど、1990年後半以降は食品添加物の適正使用が厳格化されたことが、この20年食中毒を減じてきた一番の理由であり、食品添加物が最大の功労者です。食品添加物の入っていない商品や食材の取り扱いには、十分に気を付けましょう。

(注)ノロウイルスは1968年に米国で発見された食中毒ウイルスであり、都市の名を取ってノーウォークウイルスと名付けられたが、世界各地で同様のウイルスが発見されたことからノーウォーク様ウイルス、形態から小型球形ウイルス、ヒトへの感染性からヒトカリシウイルスといった名称の変遷を経て、現在はノロウイルスと呼称されている。受診時にはウイルスの種類が不明であるため、感染性胃腸炎と診断される。

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