2013

08/23

「除菌治療」で胃がんリスクは3分の1になる

  • インタビュー

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「ABC胃がんリスク検診」は、胃がんにかかるリスクを血液検査で調べるもの。ピロリ菌感染と萎縮性胃炎の程度から、リスクの程度が分る。ピロリ菌に感染していた場合には、除菌という治療方法があり、今年2月、「ピロリ菌感染胃炎」の除菌治療が保険適用になって以降、治療を受ける人が急増しているそうだ。
「ABC胃がんリスク検診」の2回目は、その除菌治療と、経過観察に使われる内視鏡検査について、前号に引き続き、東京医科大学病院・内視鏡センター部長の河合隆教授に伺った。

ドクターズプラザ2013年8月号掲載

巻頭インタビュー:ABC胃がんリスク検診 (2)
河合隆氏(東京医科大学病院 内視鏡センター部長・教授)

体に優しい経鼻内視鏡。除菌後も定期的な検査を

通常の検査なら、経鼻内視鏡で十分

──「ABC胃がんリスク検診」でリスクが高い場合は、内視鏡検査を受けるそうですね。

河合 ABC胃がんリスク検診は、胃がんにかかる「リスク」を見ているだけなので、その時点でがんにかかっているか、いないかは分りません。そこでリスクの高いC群、D群に分類された方は、必ず内視鏡の検査を受けていただくことになっています。そして毎年受けていただくと、胃がんを早期に発見できます。私は個人的には、B群に分類された方にも一度は内視鏡検査をお勧めしています。B群の方も、胃がんの因子であるピロリ菌に感染しているということですから、胃がんのリスクがないわけではありません。

──内視鏡検査は苦しくて、つらいと思っている方が多いと思います。

河合 鼻から管を入れる経鼻内視鏡であれば、口から入れる経口内視鏡より格段に苦しくありません。実際に私の患者さんにも行っていますが、皆さん楽だと言ってくださいます。

──経鼻内視鏡は、経口内視鏡より画像の質が劣るのではありませんか。

河合 経鼻内視鏡は急速に進化していて、画質もかなり良くなっていますから、最新の機器では経口内視鏡と見劣りしないほどになっています。ですからABC胃がんリスク検診で高リスクに分類された場合に受ける検査や、その後の経過観察なら、経鼻内視鏡で全く問題ないと思います。何といっても患者さんの負担が少ないところが、経鼻内視鏡の良い点です。経鼻内視鏡の場合は、心拍数・血圧は検査中多少上がってもすぐに平常に戻ります。検査中に会話もできますし、交感神経と副交感神経のバランスを狂わせないので、精神的にも、肉体的にも安定した状態で、検査を受けていただくことができます。

──では、経口内視鏡はどのような時に必要なのでしょうか。

河合 経鼻内視鏡の画質がとても良くなったといっても、経口内視鏡の方が管が太いので、やはり解像度は上回ります。胃がんなどの病変が疑われる場合の精密検査では、経口内視鏡を行います。経口内視鏡では、画像を40~80倍に拡大して観察することで、良性・悪性の区別、病変の範囲・深さなどを診断することができるからです。また経口内視鏡は、「見る」以外に「切り取る」などの治療もできますね。検査は患者さんのためにやるのですから、楽だったと喜んでくださって、また受けてもいいと言ってくださるのが一番。通常の検査は経鼻内視鏡で十分だと思います。

──最新の内視鏡の技術にはどのようなものがあるのでしょうか。

河合 経鼻、経口にかかわらず、最新の内視鏡の中には、画像強調観察といって、照射する光の波長をコントロールして、今までの内視鏡では見えなかった細かい血管を見られるものが出てきています。これによって、食道がんや咽頭がんなど、発見が難しいとされるがんを、早期に発見できる可能性が高くなります。通常はヨードという、うがい薬のような液体を使って、あぶり出すような検査をしなければなりませんが、この方法を使えば通常の内視鏡検査の段階でちょっとした変化に気付けるのは大きな進歩です。

除菌は、病気になる前に治せる治療法

──ピロリ菌に感染していた場合は、除菌治療という方法があるそうですが、どのようなことを行うのですか?

河合 お薬を1週間飲んでいただくだけです。それで大体7割ぐらいの方は除菌できてしまいます。仮に1度で除菌ができなくても、別のお薬を加えて再度除菌治療することが可能です。

──ピロリ菌には5歳ぐらいまでに感染するそうですが、子供でも除菌治療はできるのでしょうか。

河合 子供が除菌治療を受けるということも、実際にはあります。但し、小児期に内視鏡検査を受けること、さらに体重に合わせて除菌薬の量を調節するなどいろいろと検査・除菌の適応を決めることが難しく、小児科の先生とよく相談して決める必要があります。

──除菌治療にも保険が適用されたと聞きました。

河合 内視鏡検査によって「ピロリ菌感染胃炎」と診断された場合には、除菌治療に保険が適用されるようになりました。

──除菌治療に副作用はありますか?

河合 お薬ですから、まったくないわけではありません。ただ除菌治療に使用するお薬は、急性咽頭炎、急性気管支炎などに処方されている抗菌剤を組み合わせたもので、特別に強い薬ではないと思っていただいていいと思います。

■胃がんについて正しいのはどれか

①ピロリ感染が大きな原因である。
②萎縮性胃炎は、ピロリ感染により進行する。
③萎縮性胃炎が強いほど胃がんになりやすい。
④ピロリ菌除菌により、胃がんのリスクが低下する。
⑤ピロリ菌除菌は、胃がん予防、撲滅目的にて、広く推奨されている。

正解;①②③④⑤

■ABC法について正しいのはどれか

①ABC法は、内視鏡検査が必要である。
②ABC法は、胃がん高リスクグループを拾い出す方法である。
③A群は、ピロリ抗体陽性、PG法陽性の高危険群である。
④ABC法は、ピロリ菌除菌後も、判定は変わらない。

正解;②

■ペプシノゲン(PG)法について正しいのは

①血液検査である。
②PGは胃で産生される。
③PG値は、胃粘膜萎縮と関連する。
④PG法陽性は、PGI値:70未満、PGI/Ⅱ比3.0未満である。

正解;①②③④⑤

問題提供;東京医科大学病院 内視鏡センター 河合隆教授

 

──除菌したことによって、何か別の症状が出ることはありますか?

河合 除菌をすると、胃酸が正常に出るようになるので、まれに逆流性食道炎になる方がいます。これは、今までピロリ菌感染により分泌が抑えられていた胃酸が、もともと持っている能力に戻って分泌されるだけで、胃酸が増えているわけではありません。

以前、微生物の先生に、ピロリ菌に感染している胃の組織を調べてもらったのですが、他の細菌もいるって言うんですよ。ピロリ菌に感染している除菌前の胃は食べ物のカスなども残っていることもしばしば認めます。結局、胃の酸度が不十分なので殺菌できていないし、消化も悪いのですね。ですから除菌すると、胃が元気になって栄養の吸収が良くなるので、太る方もいます。除菌をしたら、運動するなども考えた方がいいかもしれませんね。

──除菌治療は、胃がんを発症した後でも効果がありますか?

河合 除菌治療によって、胃がんの再発リスクを下げることができます。胃がんになるということは、胃が“がん”になりやすい状態になっているということなので、今がんになっている部分を切除しても、残っている胃の他の場所にできてしまうことがあります。それが再発(異時性再発胃癌)です。切除後に除菌治療をすると、次の発症のリスクを下げることができるのです。

胃潰瘍も5000くらいの症例を見てきましたが、除菌治療をすると90%程度再発しなくなります。また、胃MALTリンパ腫といって胃の粘膜のリンパ組織にできる悪性腫瘍は、昔は胃を全部摘出する手術をしなければなりませんでしたが、ピロリ菌陽性の場合、除菌治療で70~80%は治ります。特発性血小板減少性紫斑病(ITP)という血小板が減少する病気も、ピロリ菌に感染している人の場合は、除菌治療をすると40~60%の割合で血小板が増加します。ITPと診断された場合は、まずピロリ菌感染の有無を検査するのが、最近の治療戦略となっています。胃にできる過形成性ポリープも、除菌治療をすると数カ月でポリープが消失する例も多く認められます。

──除菌治療後に再度ピロリ菌に感染することはありますか?

河合 再感染はほとんどなく数%以下といわれています。ですから、再発のリスクを下げることにもなりますし、胃の病気そのものの治療にもなるのです。

子供のときに感染したピロリ菌によって、大人になって潰瘍や胃がんになったり、胃MALTリンパ腫になったりする。今までは、病気を発症した方を治療してきました。でも除菌治療はピロリ菌をなくせますから、ピロリ菌が原因で発症する病気を全部なくせる。病気になる前に治せる可能性があるということです。そういう意味では、画期的な治療法といえると思います。

内視鏡検査で残り3分の1のリスクに備える

──除菌したあとにもABC胃がんリスク検診を受ける必要はありますか?

河合 除菌治療前にABC胃がんリスク検診を受けるべきです。除菌した方がABC胃がんリスク検診を受けると、結果が違ってしまう可能性があります。ABC胃がんリスク検診は、ピロリ菌感染の陽性、陰性とペプシノゲンの量から分かる萎縮性胃炎の陽性、陰性を組み合わせて判断し、リスクを分類する検査です。もともとペプシノゲン法が陽性、つまり萎縮性胃炎であるという結果だった方も、除菌治療をしただけで陰性になってしまうことがあります。除菌によってピロリ菌はいなくなっても、萎縮は残存しています。ですから、ABC胃がんリスク検診は、除菌治療をする前に行う検査だと考えた方が良いと思います。

──では、除菌治療後の萎縮性胃炎の状態は内視鏡検査で観察していくことになるのでしょうか。

河合 除菌治療によって、胃がんのリスクは3分の1になります。除菌したら、もうがんにならないと思っているとしたら、それは間違い。リスクが下がるだけです。やはり、医師の指示に従って、1~2年ごとに内視鏡検査を受けていただきたいと思います。つらくない経鼻内視鏡でよいですから。

これからは内視鏡の見方も変わっていくかもしれません。今まで医師は内視鏡を使って、ポリープ、潰瘍、胃がんなどの有無を中心に観察していましたが、今後、胃がんの有無はもちろんですが、萎縮性胃炎などピロリ菌感染胃炎の有無も見るようになるでしょう。さらに除菌治療を受ける人が増えてくると、除菌をした人と、していない人を内視鏡にて診断していくことになるでしょう。私たち医師も、勉強していかなければなりません。

──先生は、ABC胃がんリスク検診を受けたほうが良いと思いますか?

河合 レントゲン検査でも、ある程度はピロリ菌がいるかどうか予想できるのですが、現在のレントゲン検査の診断には、ピロリ菌感染の有無は含まれていません。ですからレントゲン検査で「異常なし」といわれても、ご自分の意志で一度、ABC胃がんリスク検診を受けられた方がいいと思います。受ければ自分のリスクが分りますからね。またABC胃がんリスク検診で内視鏡検査を指示されなくても、ピロリ菌に感染していると分ったら、内視鏡検査も受けて除菌治療をすることをお勧めします。自分の体は自分で守らなければなりません。自分を守るためにも、ABC胃がんリスク検診を活用していただきたいと思います。