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配置のニーズが高まるスクールロイヤー、メディカルロイヤー

メンタルヘルス

西松 能子
立正大学心理学部教授・博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職日本総合病院精神科医学会評議員、日本サイコセラピー学会理事、日本カウンセリング学会理事、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。
ドクターズプラザ2019年5月号掲載

よしこ先生のメンタルヘルス(52)

ロイヤーが必要とされる背景とは

某新聞に「あの子を転校させて」と保護者が弁護士を連れて来校し、子どものケンカ相手の転校を強く迫ったというニュースが掲載されていました。この出来事は、もう10年以上前からスクールロイヤーを設置している都内の某区での出来事で、結果的には相手のお子さんも転校せず、訴えた親のお子さんも再びクラスの中で安定して教育を受けることができていることを報道し、その背景にはスクールロイヤーの力があったとしています。一方、一連の虐待事件では、父親が「名誉棄損で訴訟を起こすぞ」と脅した結果、校長がやむを得ず念書を書いたり、いじめアンケートを渡したりしてしまったことに、「スクールロイヤーを置くべきだ」という提案がなされています。医療現場でも、メディカルロイヤーが必要とされる場面が増えてきています。医療訴訟の報道は引きも切りませんし、「モンスターペイシェント」という言葉も生まれてきています。医療現場の疲弊を救うために、一定のメディカルロイヤーの配置が必要ではないか、と厚生労働省は提案しています。

医師や教師など、専門性を持って、一定の役割を社会において果たしていた人々の権威や専門性が、日本社会の中で失墜してきているともいえます。精神科の外来通院ですと、窓口での支払いは多くとも「ちょっと高めの昼食の対価」程度です。自費である健診においても、居住地や企業によって肩代わりされ、無料であることがしばしばです。それでも「金を払っているのにその態度は何だ」と訴えたり、足を組み「○○さん」と医師に話し掛けたりしてくる患者さんは年々増えています。日本の医療は諸外国に比べて、圧倒的に安価な医療費と、おおむね先進国の標準以上の医療水準によって、WHOが何回も「世界一の医療システム」としていますが、残念ながら国民の評価は決してそうではありません。医療バッシングはマスコミの人気の定番ネタの一つにもなっています。

これらスクールロイヤーやメディカルロイヤーが必要とされる背景には、知識を供給するリソースが圧倒的に増え、長期に及ぶ教育なしに誰もが求める知識を得ることができるという社会の変化があるのではないでしょうか。今や、放射線科の医師よりも、AIが精確に読影をします。実際、すでに検査結果は、医師とAIのダブルチェックによって行われています。もしあなたが親ならばインターネットで、子ども同士の争いを公平にコントロールし、クラス運営をするべき教師ができなかったことを批判する論理をすぐに見つけ出すことができます。もしあなたが患者ならば、インターネットで自分が罹患した病気の理想的な検査と治療を知ることができます。

現代社会から失われつつあるコモンセンス

私たちが共有する「まあこのくらいでしょう」「人ができるのはこのくらいのことだよね」「先生だって人間だもんね」という共通認識(コモンセンス)は現代社会からは失われつつあります。相手の状態を察する力、幼いころからケンカをして生長することによって学んだ、ほどほどに矛を収める感覚によって、私たちの「怒り」や「衝動」はコントロールされてきたのですが……現代社会はそのシステムを失いつつあります。

素人、つまり長期に及ぶ教育や訓練を得ていない人々が、即座に先生と言われてきた専門家と同等の詳細な知識を持つことのできる社会における教育や医療の役割について、今一度コンセンサスを得る必要があるのではないでしょうか。知識や技術はインターネットによって知ることはできますが、眼の前にいるのは何しろ「ひと」なのですから。生身の人間を相手にした時に求められるものを探索していくことが、今、私たち専門家に求められています。選択肢の一つとして、スクールロイヤーやメディカルロイヤーがいるのでしょうか? 社会の圧倒的な加速する変化を認め、その中で専門家ができることを探索していきたいと思っています。医療の明日のために、皆さんの知恵をお借りできるといいなと思っています。

ドクターズプラザ2019年5月号掲載

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