2024

07/10

過疎地域における病院主導での訪問診療

  • 地域医療

  • 北海道

横山 和之
北海道社会事業協会 岩内病院 院長

地域医療・北海道(53)

高齢化と交通インフラの縮小で通院が困難に

地方では過疎化が進み、高齢化率は40%を超える地域が多くなっています。当院の診療圏となっている北海道・西後志(にししりべし)地域も他の地方と同様、過疎化の進行と高齢化率の上昇が急激に進んでいます。地方で高齢化率が進むということは、独居もしくは高齢夫婦のみの世帯が増加するということと同じです。そのため、今までは地方であっても、都会の病院に自家用車で通院可能だった世代が、自家用車での通院が困難になり、否応なく、タクシーやバスなどの公共交通機関を使って、近くの地方病院への通院に変更せざるを得なくなってきています。その世代は、近い将来、月1回の通院もできなくなり、訪問診療など在宅医療のサービスを受けるか、自宅にいることを諦めて介護施設などに入所したり、社会的入院をしたりしなければならなくなります。入院施設つまり地方の病床数は今より減少することはあっても、増床することは、今の医療政策上はあり得ないので、在宅で医療サービスを受けなければならない患者さんの数は増大することが考えられます。さらに、過疎地域では、通院や通所を支える交通インフラが縮小したり崩壊したりしてきています。

北海道・西後志地域では、交通インフラはバスとタクシーしかありません。バスにおいては 昨今の運転手不足と不採算路線であることが原因で、減便、廃線が急速に進んでいます。バスに乗れないならタクシーと考えるかもしれませんが、過疎地ではタクシー運転手の担い手が少なく、運転手の高齢化もあり採算性からも収入の多い地域に運転手が流出していて、その結果、タクシー稼働車数が減少しています。過疎地域では、家族の助けも少なくなってきています。少子高齢化であり、若者はドンドンこの地域から都会へ流出しているので、孫や子供が患者さんを通院させるための足となることも少なくなってきています。

当院においては、通院を補助するヘルパーさんの減少により、通院が困難になってきている患者さんも多く認められるようになりました。 結果として、過疎地域では、自分では通院できないが、交通インフラと家族やヘルパーによりギリギリ通院を継続できていた患者さんが、施設入所や病院への入院しか選択肢が無いという状況になってきています。

介護施設の入所者数と病院の病床数には限りがあります。現状では、減ることは確実ですが増えることはありません。今、ギリギリ自宅で生活し、通院している患者さん(特に団塊の世代)の多くは、今後、通院できなくなります。都会でも田舎であっても、結果としていつかは通院できないという状況になると思います。

しかし、交通インフラが脆弱で、家族を含めた人的なサポートも少ない過疎地においては、通院できなくなるのは、都会よりもっともっと早いと考えられます。ただし、交通インフラはこれ以上充実させることは困難ですし、人的なサポートを増やすのも困難です。地方にお金を投入したら簡単に解決するわけでもありません。そもそも、田舎に人がいないし来ないのですから。

患者さんを待つ医療から、出向く医療へ

岩内協会病院がある西後志地域は、全ての地域が過疎地です。札幌などの都会では、在宅専門のクリニックがたくさんあり、訪問診療を受けたい人に対する需要に応えることができていると思います。新規のクリニックもオープンしています。岩内町を含めた周辺町村では、診療所の医師も高齢化が進み、以前のコラム(2024年1月掲載)にも書かせていただきましたが、日曜の一次救急の輪番も医師会では回すことが困難になり、今年度からは岩内協会病院に委託となっています。

元々、この地域の診療所には、積極的に訪問診療に力を入れている先生が少ないこともあり、在宅診療を希望する患者さんのニーズに応えられていませんでした。さらに、今年度になってからの交通インフラの脆弱化、ヘルパーさんの人材不足、末期がんの患者さんの他院からの紹介が重なり、当院では5月から訪問診療を開始しました。今はまだ、のべ2人の患者さんですが、訪問看護ステーションと地域連携室と協働して訪問診療に力を入れる予定です。

当院の周囲のような過疎地では、社会的な要因で通院できない在宅の患者さんの数は、今後激増すると考えます。それにしっかり照準を合わせ、病院で患者さんを待つ医療から、患者さんがいる場所にこちらから出向く医療を掲げ、在宅診療難民を少しでも減らしていければ良いと考えています。

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