2013

11/23

遅刻・早退・欠勤

  • メンタルヘルス

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西松 能子
立正大学心理学部教授・博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職日本総合病院精神科医学会評議員、日本サイコセラピー学会理事、日本カウンセリング学会理事、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。

ドクターズプラザ2013年11月号掲載

よしこ先生のメンタルヘルス(20)

勤怠の不調は、しばしばこころの不調の鏡!?

うつ病の特徴

Aさんはこのところ朝の犬の散歩が億劫で仕方ありません。犬はすっかり高齢になり、30分の散歩の帰りになると座り込んでしまうことも多く、結局抱き上げて帰ってくるのですが、それからシャワーを浴びて出勤することを考えると、行く前から億劫な気分になります。しかし散歩を待って鳴く愛犬を見ると、渋々出かけることになります。昨日も散歩から帰ってソファーに座りこんだら、しばらく動く気にならず結局遅刻してしまいました。夏バテのせいか仕事の能率も悪く、上司の風当たりもいつになく強く感じられます。昼休みに「犬の散歩で疲れて遅刻してしまったよ」と気安くこぼしたところ、案に相違して同僚から「この頃どうしたんですか。ミスも増えたみたいだし、Aさんとは思えません」と真顔で言われてしまいました。漠然と落ち込んで、家に帰って妻に一部始終を話すと、妻は「そうね。考えてみればこの1カ月で遅刻もしたし早退もあったわ。風邪で休んだこともあった。そういえば珍しいわね」と思案気でした。どうやらこの1カ月、Aさんの勤怠はいつになく不調のようです。Aさん自身、夏風邪が長引いた後から億劫感が取れないと自覚していました。職場でもうまくいっていない感じが強くなっています。妻に勧められ、思い切って、このところ苦手意識が強くなっていた上司に相談に行くことにしました。上司は、今月になって仕事でのミスが増えていること、仕事の能率が上がっていないこと、タスクがこなせていないこと、離席の回数が増えていることを指摘しました。一定の業務軽減が必要かもしれないと言い、産業保健スタッフに面接することを勧めました。

産業保健スタッフとの面接では、勤怠表を示されました。秋になってからの1カ月間の勤怠には、思いのほか欠勤や遅刻が目立っています。産業保健スタッフからは気分の落ち込みや抑制など一通りのうつの症状を尋ねられました。振り返ってみると、このところ何をするのでも億劫で、疲れやすいことに気付きました。もしかしたらうつかもしれないと思いました。

うつになった時、気分の落ち込みや億劫感を感じたり、生き生きとした喜びを実感できなくなります。疲れやすく気力が衰え、考えがまとまらず集中力がなくなります。一方では眠れなかったり、食べられなかったり、あるいは眠り過ぎたり、冬眠前のように食べ過ぎたりします。頭が痛かったり、手足が鉛のように重かったり、体の不調を感じます。このように感じてもつらさを漏らさず我慢していることが多いのが、うつ病の特徴です。むしろ自分を責め、気分の落ち込みや億劫感は「怠けているだけだ」と感じてしまいます。実際、このように自覚症状を訴えない場合、周囲の人たちはどのようにして気づくものでしょうか。

五月雨式の遅刻や早退が増えてきたら?

職場では「この人には珍しいミスが増えた」と思われることが多く、上司や同僚から「どうしたの? ミスが増えたんじゃない?」などと言われます。上司や同僚との人間関係が悪化していきます。傍から見ると仕事の能率が下がり、職場での人間関係を避けようとするように見えます。喫煙の習慣のある人は、たばこを吸いに離席する回数が増え、周囲から見ると仕事に集中していないように見られるようになります。この頃にはすでに与えられた仕事がこなせなくなっています。

入社以来ほとんど欠勤のなかった人に五月雨式の遅刻や早退が増えてきた時、周囲はどのように思うでしょうか。一体誰がその人の真の不調に気づくでしょうか。多くの知見では、ミスの増加や人間関係の悪化が勤怠の不調に先行すると認められています。遅刻や早退、欠勤が重なり職場の心証が悪くなってしまうわけではなく、それ以前にどうやらミスやイライラや怒りによって人間関係が悪くなり、結果として人と接するのを避けたりするようです。勤怠が不調になった時には、すでに職場の人間関係は以前に比べて不調になっています。このような不調は一体初めに誰が気付きやすいのでしょうか。驚くべきことに、妻や夫などの配偶者と職場の上司など周囲の人の方が本人より早く気づくことがあります。

勤怠の不調はしばしばこころの不調の鏡です。ご自身に、パートナーに、同僚に勤怠の不調が起こったら、少し立ち止まって考えてみましょう。皆さんが生き生きと働けますように。