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豚コレラと口蹄疫

感染症

内藤 博敬
『微生物・感染症講座』連載
静岡県立大学食品栄養科学部環境生命科学科/大学院食品栄養環境科学研究院、助教。
静岡理工科大学、非常勤講師。湘南看護専門学校、非常勤講師。
ドクターズプラザ2020年1月号掲載

微生物・感染症講座(69)

はじめに

令和元年に話題となった感染症といえば、豚コレラではないでしょうか。豚コレラはヒトの感染症ではありませんが、家畜であるブタへの感染が大きな拡がりを見せ、畜産業界を震撼させた1年でした。2005年頃には家禽が多大な被害を受けた鳥インフルエンザが、2010年には九州を中心にブタやウシに口蹄疫が流行し、多くの家畜が殺処分されたことを覚えておられる方も少なくないでしょう。感染症はヒトだけの脅威ではなく、動物にとっても生命に関わる疾病です。今回は、この豚コレラや口蹄疫を通じて、家畜やペットの感染症について考えてみましょう。

豚コレラとアフリカ豚コレラ

ヒトの疾患であるコレラは、コレラ菌を原因とする細菌感染症ですが、豚コレラはフラビウイルス科ペスチウイルス属の豚コレラウイルスを原因とするウイルス疾患です。このウイルスは、遺伝子型で高病原性株と低病原性株およびワクチン株に分けられています。高病原性株は死亡率100%の強毒性を有しており、急性経過では1日、慢性経過でも1カ月以内に死亡します。感染宿主はイノシシおよびブタであり、感染個体の唾液、涙、糞尿を介して接触感染します。発熱、食欲不振、うずくまりといった症状から、消化器では便秘に次ぐ下痢がみられ、運動失調から最終的に起立困難となります(参考)。予防法としてワクチン接種がありますが、日本では1992年を最後に豚コレラの発生報告が無く、2006年にワクチンの使用を完全に中止、2007年には国際獣疫事務局(OIE)の定める豚コレラ清浄国となっていました。ところが、2018年9月に豚コレラが日本国内で発生し、2019年9月までに岐阜県、愛知県、長野県、滋賀県、大阪府、三重県、福井県、埼玉県の1府7県へと拡がり、農林水産省はワクチン接種の再開を決定しました。農林水産省の「豚コレラに関する特定家畜伝染病防疫指針」においても、日本の豚コレラ清浄国への早急な復帰が急務であるとしています。豚コレラは、「越境性動物疾病(注)」の代表例であり、前述の指針において水際検疫の徹底が示されており、国内での清浄化と併わせて外国からの持ち込み予防が重要です。

豚コレラとよく似た症状を呈する家畜疾患にアフリカ豚コレラがあります。1950年代後半からヨーロッパでの感染が報告され、2007年以降はロシアを中心に拡がりをみせており、2018年には中国でも感染報告がありました。アフリカ豚コレラは、豚コレラウイルスと全く異なるウイルスで、ワクチンがありません。また、もともと野生のイノシシおよびダニに不顕性感染していたウイルスと考えられており、万が一にも日本への侵入を防がなくてはなりません。

今なお続くアジアの口蹄疫

現在、家畜伝染病28種、届出伝染病71種が、我が国では監視伝染病とされています。この中には、狂犬病、炭疽や高病原性鳥インフルエンザなど、人獣共通感染症も含まれますが、豚コレラやアフリカ豚コレラのように、ヒトに感染しない感染症が多くあります。口蹄疫もその一つで、ピコルナウイルス科に属す口蹄疫ウイルスを原因とし、ウシ、ブタ、ヤギなどの家畜や、シカ、ラクダなどの野生動物に感染して39℃以上の熱発と口腔内や蹄、乳房などに水疱を形成します。この水疱は速やかに破れ、多量のウイルスを含む水疱液によって周囲の動物にも容易に感染します。幼弱個体でなければ死亡することは稀ですが、泡沫性流涎、起立不能、泌乳の減少あるいは停止などが起こります。国内で口蹄疫に罹患した家畜が見つかった場合、農林水産省の「口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針」に基づいて、摘発あるいは淘汰によって感染拡大の防止措置がなされ、それでもなお感染が拡がる恐れがある場合には、予防的殺処分やワクチン接種が実施されます。

日本では、2010年に九州地方を中心とした口蹄疫の流行がありました。現在は、OIE基準でワクチン非接種清浄国となっている日本ですが、ロシア、モンゴル、中国、韓国といった日本の周辺国では今なお口蹄疫が蔓延しており、検疫によって発症国からの畜産物等の輸入は禁止されています。

浄化へ向けて私たちができること

2019年4月には、海外からの肉製品の違法な持ち込みへの対応が厳格化されました。家畜伝染病が日本に侵入すると、国内の畜産業は多大な被害を受けます。家畜伝染病の発生している国へ渡航した際には、畜産関連施設、生肉を扱う市場等への立ち入りや、安易な家畜との接触を避けましょう。

豚コレラや口蹄疫は、現在のところヒトには感染しません。ウイルスは感染できる宿主、組織、細胞が決まっているので、たとえ感染個体を食べたとしても、ヒトには感染しません。消費者として、間違った知識や風評に惑わされないことも大切です。

ドクターズプラザ2020年1月号掲載

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