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国立研究開発法人国立国際医療研究センター(以下、NCGM)国際医療協力局連携協力部・連携推進課の神田未和助産師は、カンボジアやラオスでの活動を経て、現在は在日外国人を支援する活動に取り組んでいる。今回は、コロナ禍で課題を抱えている外国人に対する支援活動を中心に、神田助産師のこれまでの経験について伺った。
ドクターズプラザ2021年9月号掲載

海外で活躍する医療者たち(33)「外国人の課題は日本人にも当てはまる」

女性の健康には文化や社会が関連

―神田さんは、なぜ看護師になろうと思ったのですか。また、国際協力に興味を持ったのはなぜですか。

神田 母が看護師で、私が高校生の時に「資格を持っているといい」と勧められたこともあって、看護学校に行きました。海外に興味を持ったのは、看護師になって3年目の時、知人の紹介でスイスに1カ月留学したことがきっかけです。この経験から海外で看護師として働きたいと思いました。それで、帰国後、ICUで働きながら国際協力を考え始め、2007年から青年海外協力隊としてドミニカ共和国に行きました。協力隊の事前訓練や現地での活動を通じて、国によって女性の境遇が全く違うこと、文
化や社会の仕組みが女性の健康に深く関連していることを知り、セクシャル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツに興味を持ちました。

―セクシャル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツとは具体的にはどういうことでしょうか?

神田 英語のSexual and ReproductiveHealth and Rightsの頭文字を取って、「SRHR」と呼称されます。日本語では、「性と生殖に関する健康と権利」と訳されています。全ての人の「性」と「生き方」に関わる重要なことです。4つの言葉の組み合わせで作られているので、分けて考えるとより分かりやすくなります。

•セクシュアル・ヘルス

自分の「性」に関することについて、心身ともに満たされて幸せを感じられ、またその状態を社会的にも認められていること。

•リプロダクティブ・ヘルス

子どもを産むことに関わる全てにおいて、身体的にも精神的にも社会的にも本人の意思が尊重され、自分らしく生きられること。

•セクシュアル・ライツ

セクシュアリティ「性」を、自分で決められる権利のこと。自分の性の在り方(男か女かそのどちらでもないか)を自分で決められる権利です。

•リプロダクティブ ・ライツ

産むか産まないか、いつ・何人子どもを持つかを自分で決める権利。妊娠、出産、中絶について十分な情報を得られ、「生殖」に関する全てのことを自分で決められる権利です。

―大学院へ行かれたのはなぜでしょうか。

神田 ドミニカ共和国から帰国後、ご縁があり、災害発生時に多国籍医師団を結成して緊急人道支援活動を行う、特定非営利活動法人AMDA( The Association of Medical Doctors of Asia、アムダ)に入り
ました。AMDAで活動する中で、医療支援活動が成り立つにはさまざまな役割が必要であることを学び、また“これからの自分”についても考えました。それで、私は、国際協力の母子保健分野で仕事を続けたいと思い、助産師の資格と修士の学位を取るために日本の大学院に進学しました。

―なぜ、助産師の資格を取ろうと思ったのですか。

神田 SRHRや母子保健分野で働く時に強みになると考えたからです。日本が行う国際協力では、 戦後実践してきた母子保健分野の経験が成功例とされており、その歴史を学ぶことも目的でした。

―NCGMへの入職のきっかけは。

神田 大学院終了後は助産師として病院勤務をしていました。国際医療協力局には大学院時代から興味を持っていましたが、外部からの看護職を受け入れていなかったので諦めていました。しかし、2015年に初めて外部募集がありました。もう少し臨床を続けたかったのですが、次はいつ募集があるか分からないということでしたので、応募しました。

―NCGMではどのような活動をされているのでしょうか?

神田 NCGMでは、カンボジアとラオスのプロジェクトに参加し、現在は日本国内勤務をしています。主に、日本国内に暮らし、働きながら、さまざまな理由で困難な状況に置かれている外国籍の人々が、必要な情報・支援・制度にアクセスするのをお手伝いすることを目的とした集まり「みんなの外国人ネットワーク」(MINNA:Migrants’ Neighbor Network & Action)に携わっています。

「医療の質」を保つことの難しさ

―カンボジアではどのようなプロジェクトに参加したのですか。

神田 2015年から始まった「工場労働者のための子宮頸がんを入口とした女性のヘルスケア向上事業」
というプロジェクトです。子宮頸がん検診の制度や治療体制を整えることを目的として実施されました。当時のカンボジアの高い経済成長率に貢献していたのは縫製業で、カンボジアの輸出額の80%を占めるという調査結果もありました。縫製工場で働く工員の大半が、農村地域からプノンペンに移住してきた20歳前後の未婚の若い女性で、十分な教育を受けてこなかった人たちでした。カンボジアは彼女たちのリプロダクティブ・ヘルスのニーズが国としても重要な問題としていました。2020年から第2フェーズが始まり、対象を工場労働者と小学校の先生に拡大しています。私はこちらにも携わっています。

―ラオスで携わったプロジェクトについても教えてください。

神田 2016年から5年間行われた「保健医療サービスの質改善プロジェクト」です。私は2019年4月〜2021年2月まで活動しました。このプロジェクトの目的は、各病院で質の高い保健医療サービスが提供できるようにすることです。ラオス南部4県(チャンパサック県、サラワン県、セコン県、アッタプー県)を対象に、改善のための体制をつくって質改善計画を立て、自己評価、活動の優先順位付け、継続的質改善活動というサイクルが根付くよう支援しました。私が担当したのは「看護管理」という分野で、プロジェクトで開発した「質改善モデル」を動かし続けられるようサポートすることでした。

活動しながら、医療の質を保つということの難しさを実感しました。医療の質には、診断、治療がきちんと確保されることはもちろんですが、病院の施設、看護のケア、患者さんへの説明や接遇など、さまざまなことが含まれます。しかし現地の看護師には医療における「サービス」という概念がなく、まず「サービスとは何か」を考えることからスタートしました。看護職は医療の質を改善するためのキーパーソンであることへの理解が進むと、モチベーションが高まり、行動も変化していきました。

相談、検査、保健所の道筋を太くする

―現在携わっている「みんなの外国人ネットワーク」設立の背景を聞かせてください。

神田 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延は、技能実習生、留学生らが公衆衛生上の危機に対して、脆弱な状況にあることを露呈させました。そこで2020年9月に立ち上げたのが、「みんなの外国人ネットワーク(MINNA)」です。MINNAは、「NCGM国際医療協力局連携協力部連携推進課」、「みんなのSDGs 外国人との共生タスクフォース」、「国際保健協力市民の会(SHARE)」、「アジア経済研究所」が協働する形で活動しています。

―具体的には、どのような活動をしているのでしょう。

神田 これまでに、ネパール、ベトナム、ミャンマーのコミュニティーを対象にインタビューや調査を行い、課題を洗い出しました。COVID‐ 19で中心的役割を担う保健所と外国人が頼りにする相談窓口とがつながっていないケースが多いことが問題であると認識し、その道筋を太くするために、当事者、行政、外国人支援団体、外国人相談やコーディネーター、医療通訳の方などと一緒に取り組んでいるところです。

―MINNAの中でNCGMはどのような役割を担っているのですか。

神田 私たちは、自分たちを「中間支援組織」と呼ぶことがあります。当事者や外国人の問題に関わっている各分野のプロが有機的につながって、良い取り組みができるようにサポートする役割があると思っています。保健所と外国人相談窓口の道筋を太くできても、相談窓口にたどり着けない人もいます。例えば、技能実習生は出身国での借金があり、失職することを恐れて妊娠や病気の心配を誰にも話すことができなかったりします。こういう問題を見える化させていく、シンクタンク的な役割もあるのではないかと思っています。

情報普及や政策的な提言も

―2021年3月には外国人向けに、陽性後の対応を説明したフローチャートを公開しましたね。

神田 はい。外国人相談窓口には「PCR検査で陽性と言われた後に何をしたらいいか分からない」といった不安の声が寄せられました。その相談を受ける側(通訳者、相談者、保健所など)にとっても「PCR検査で陽性と分かった後の対応を外国人に理解してもらうことが大変」であることが問題になっていました。そこで、MINNAとアドバイスグループで、陽性判定から療養解除までの全体像が分かり、保健所の対応にも役立つフローチャートを作成しました。2021年2月時点の東京都の状況に基づいたもので、日本語のほか、英語、中国語、ネパール語、ベトナム語の5カ国語で記載されています(20頁参照)。自治体ごとに流れは異なるので、それぞれ必要な改編を加えて使っていただけるようにしています。

―当事者である外国人に知ってもらうのは難しいのではないですか?

神田 そうですね。「良いものを作って発信すれば、対象者に届く」わけではなく、丁寧な準備とキーパーソンとの関係づくりが必要です。在日外国人コミュニティーに属していて、広く発信するチャンネルを使いこなしている人との協働は大きな可能性があります。ベトナムのコミュニティーは大きく、技能実習生の約半数はベトナム人で、SNSなども活発です。現在は約80万人を超える、ベトナム最大手のFacebookページを運営する方と一緒に、情報を発信する取り組みを始めています。

―これからどのようなことをしたいと考えていますか。

神田 MINNAでは、情報普及、外国人相談から保健所・医療機関につながる道筋づくり、周囲の日本人への周知を3本柱に、政策的な提言も視野に入れたプロジェクトを進めているところです。在日外国人の保健医療や福祉へのアクセスの問題には、社会的不利な立場にある日本人にも当てはまるものがあります。共通性や連続性を見いだして、海外での経験も生かしつつ、より必要な制度、政策について考えていきたいと思っています。途上国での支援も、在日外国人の支援も、誰もが自分らしく生きていけるようにするという部分では重なると思っています。

―最後に、国際協力を目指している医療系学生などにメッセージをお願いします。

神田 いろいろな経験をし、積極的にいろんな分野で活動する人と交流する機会を持つといいと思います。医療や看護職を目指している時点で、おそらく同じような価値観を持つ人たちと一緒に過ごしているはずですから、どうしても視野が狭くなりがちです。実際、私はそうでした。多様な人、多様な価値観にたくさん接して、自分の知らなかった部分をたくさん見つけていってください。

ドクターズプラザ2021年9月号掲載

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