2024

06/01

認知症の誤解から考える正しい対応方法とは?

  • 介護

川内 潤
NPO法人となりのかいご・代表理事

隣の介護(30)

5つの「認知症の誤解と正しい対処方法」から、前回の【1】【2】に続き、実際に受けた相談事例より次の【3】【4】の対処方法をご紹介します。

【3】とにかく病院を受診させる

母親が心配で病院へ連れて行きたい

Aさんが地方で暮らす70代半ばの両親の元へ帰省すると、母親の様子が気になりました。自転車で買い物に行ったのに歩いて帰宅したり、同じ物を何個も買ってきてしまったりすることがありました。父親はそもそもおっちょこちょいな母親に対して「またか」と呆れる程度で済んでいました。

ところが、以前なら朝から身なりを整えていたはずの母親が一日中寝間着姿で過ごし、同じ話を繰り返します。父親から「お母さんはいろいろ忘れてしまうから家事は自分がやっている」と言われ、今までの物忘れとは明らかに違う様子が心配になりました。

母親に対する認知症の疑いが増すばかり。介護申請の必要性を感じて、病院へ行ってほしいと母親への説得にも力が入ります。ところが「なんで検査をする必要があるの?」と母親は病院へ行ってくれません。父親からは母親の困った行動について連絡が入り、心配が増すばかり。穏やかな父親も、強い物言いになり母親と喧嘩になってしまうことも増えてきました。

ある日、Aさんは母親を買い物に誘い出し、そのまま病院へ。しかし母親は車から降りず、結局受診ができませんでした。Aさんはどうしたら病院へ行ってくれるのか途方に暮れてしまいました。

無理やり病院へ連れて行く必要はない

家族の変化を目の当たりにした場合、多くの方が「まず病院を受診させよう」と専門家の意見を聞いてどのような対処が必要か知りたいと思うのは当然の行動です。しかし、拒絶が強い場合は、一旦様子を見て、時間をかけながら冷静に対策を考える必要があります。

まずは、当事者の立場を想像していただきたいのです。認知症を発症した場合、本人も自分の変化に気付いていても、その変化を受け入れることに不安や恐怖があります。一方で、「忘れたという記憶そのものを忘れる」という特徴もあるため、「私は大丈夫」という気持ちも本心です。認知症の当事者はこの2つの感情の中で葛藤しているということを支える側は知っておいてください。

Aさんのようなケースでは、母親の異変を感じたタイミングで地域包括支援センターへの相談をお勧めします。家族の現在の状況や、困り事を詳細に伝え、助言を仰ぎましょう。かかりつけ医の協力や、近所の知り合いに手助けしてもらいスムーズに受診ができたケースもあります。介護申請のために専門の病院での診断が必要だと考える方もいますが、近所のかかりつけのクリニックで「かかりつけ医の意見書」を書いてもらうことで、介護申請することも可能です。

認知症の早期発見・治療も重要ですが、本人を混乱させたり、不安にさせたりしては意味がありません。認知症は感情に紐づく記憶は残りやすいため、無理に病院へ連れていくと「嫌がることを無理にさせられた」という不信感だけが強くなってしまいます。

認知症を根本から治す薬はありません。だからこそ、本人が幸せに穏やかに暮らすことため、支える家族が過度な負担を抱えることなく、継続性のある関わりは何かを大切に考えていただきたいです。

【4】道に迷うことが増えたので、外出させない

徘徊する父親を見守らないといけない!

Bさんは一人暮らしの父親に認知症のような症状が見られるようになったため、呼び寄せて同居する決断をします。

ある日の深夜、警察から電話がありました。父親が自分の家に帰ろうとして、道に迷っていたところを保護されたのです。その日からBさんは、深夜の徘徊を防ぐため父親の横で眠るようにしました。

その後も父親は夜中に家へ帰ろうします。それを止めるBさんに父親は「なんでオレを閉じ込めるんだ!」と怒鳴るので、Bさんも感情的になってしまいます。

精神的にも追い込められたBさんは、会社を休むことが増えました。同居するBさんの家族も睡眠不足と疲労で崩壊寸前の状態です。

問題は外出ではなく「迷うこと」にある

認知症の症状に「短期記憶障害」というものがあります。Bさんの父親はその症状により、夜中目が覚めた時に「息子の家にいる」ことを忘れて混乱し、安心のできる場所である自宅へ帰らなければと考えます。Bさんには理解不能に思える行動も、父親には明確な理由があるのです。

さらに「出来事は忘れても、感情と紐づく記憶は残る」という特性から、父親は「自分の希望を聞き入れてもらえない」というマイナスの感情は覚えているため、外出を止められたことに対しての衝動が強く出てしまうのです。

Bさんのケースは父親が一人で自宅に住むという選択も可能でした。認知症での徘徊で問題になるのは「迷って帰れない」ということです。住み慣れた場所であれば、迷うことはほとんどありません。ただ、目印の看板やお店の閉店、工事中で通行止めになり回り道をしたことが原因で道に迷うことがあります。一人の外出に不安があれば、GPSを身に着けてもらうことや、認知症高齢者の地域ネットワークに事前に登録しておくということもできます。自治体により内容や条件が異なる場合もありますが、サービスの補助が受けられることもあります。

認知症の本人が外出を望むのであれば、家族は離れていても見守りのできる環境を整えることに努めていただければと思います。歩くことは運動になり、睡眠の質も上がります。買い物で人とコミュニケーションを取ることで、多くの刺激を受けることができます。それらは認知症の進行予防にもつながっていきます。出かけないように見守ることは解決策にはなりません。認知症でも、一人で生活されている方はたくさんいらっしゃいます。

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