2024

02/01

認知症の誤解からくるトラブル事例

  • 介護

川内 潤
NPO法人となりのかいご・代表理事

隣の介護(28)

認知症への誤解が引き起こすNGな対応事例とそれを回避する5つの方法をご紹介します。

【1】物忘れはあるが「年相応の物忘れ」と考えてしまう

親に対しても、予期せぬ変化や新しい事象に対して過剰に反応しないよう「正常性バイアス」が働き、「年相応の物忘れ」「調子が悪かった」と考えてしまうことがあります。

「財布をなくす」「料理が作れなくなる」などの変化を家族だけで対応していては、一つ一つの対応に追われるうちに時間と労力が奪われていきます。

親の変化に気づいたとき、地域の高齢者向けよろず相談所である「地域包括支援センター」に親の変化を、電話だけでも良いので伝えておくことが重要です。職員による客観的な状況把握から、職員と親との関係性づくりを進めていけば、後々のトラブルに家族だけで対応せずに済むだけでなく、適切な支援へつながる近道となります。

【2】認知症の進行防止だと、やみくもに話し掛ける

認知症を進行させないための声掛けは、ストレスを発散しながら、時に適切な刺激を与えていくことが重要です。

例えば……

認知症の人:

「隣が質屋で、景気が悪くなると行列ができていた」と懐かしい話を繰り返す

介護のプロ:

「何歳くらいの時ですか?」「売ったものを買い戻す人もいるんでしょうか?」など深堀して聞いていく。先方の表情が曇ったら

介護のプロ:

「隣が質屋さんで、景気が悪くなるとお客さんが増えるんですよね」と冗舌に話していた話題に戻す

 

このような一人一人の記憶に合わせたコミュニケーションです。

一方で、家族は「今日は何曜日?」などと、直近のことを忘れてしまう認知症の人に質問して、「なんで答えられないんだ!」とイライラします。認知症の人は怒りっぽくなるといわれますが、介護のプロからすると怒らせるような対応をしていると感じます。

意識的に接触の頻度を下げて、介護のプロに声掛けを任せることが、適切なケアにつながります。

【3】とにかく病院を受診させる

認知症かもしれないと不安を抱えている親に「病院に行って!」としつこく声を掛け続けると、「絶対に行かない!」と感情的な衝突に発展します。認知症と診断されることに強い恐怖を感じている親の診断を焦るのではなく、介護サービスを利用しながら受診のタイミングを計りましょう。

「介護認定のために、医師の意見書が必要では?」といった質問もありますが、定期受診している整形外科や皮膚科の医師に依頼することも可能です。地域の高齢者向け出張健康診断に誘ったり、地域包括支援センターに「かかりつけ医がいなくて、本人も受診しない場合はどうしたらいいのでしょうか」と相談してみたりするのもよいでしょう。

【4】道に迷うことが増えたので、外出させない

「外出して警察に迷惑をかけるわけにはいかない」などと外出を抑制すればさらにその欲求は強くなり、玄関先でケンカになったり、玄関でない所から外に出るなど、さらなるトラブルにつながります。

たとえ外出して道に迷っても、フォローできる体制があれば問題ありません。ご近所や買い物先への可能な範囲での協力依頼、GPS機器の活用、認知症高齢者の見守りネットワークへの登録などのサポート体制の構築で対応できます。

外出は足の筋力が維持され、社会との接点が得られ、ストレスの発散ができます。認知症の人でも安心できる見守り体制を検討してください。

【5】デイサービスに送り出すため、予定を掲示して声掛けする

日中に施設へ通って、人との交流やリハビリ運動をしながら、健康管理や入浴もできるのがデイサービスです。高齢者の中には「そんなところに行きたくない!」と送迎車に乗ることを拒否する方がいます。また、通所日をカレンダーに書いて繰り返し見てもらったり、1週間前から毎日電話で「あと〇日後にデイサービスだね」と繰り返す家族がいますが、良かれと思った声掛けが不安につながり通所拒否になることがあります。

このような事態になったら、ケアマネジャーやデイサービス職員と作戦会議をしてみるのがよいでしょう。繰り返しデイサービスの日程を説明するのではなく、送迎担当者が玄関先で「庭仕事を手伝ってくださる方を探しているのですが、ご協力いただけますか?」と誘い出し、庭仕事だけをして自宅に戻ります。次回は昼食まで、その次は「汗を流していきませんか?」と入浴を勧める。このような段階を踏みながら、なじみの関係づくりを構築して、楽しく通える方法を試行錯誤することができます。

私は、認知症の方が通うデイサービスで働いていたことがあります。そこで、さまざまな苦労を抱える家族とたくさん出会いました。その一つ一つを思い起こすと、認知症への誤解がトラブルになっていることがありました。家族として責任を持って支えなければ、という気持ちが強いほど、そのトラブルは増えていきます。互いの関係を良好に維持し、親の長生きを喜べるようになるためにも、周囲を頼っていくことが重要です。

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